新米天使の誕生
「つい、先程まであったんです」
見張りの天使は青ざめた顔でミカエルに伝える。
「見張りはどうした?」
「僕の他にもう1人いました。僕はちょっと外していたので」
「分かった。急ごう!」
リラとアランは慌ただしく動く見張りの天使と、ミカエルを見ていた。
「卵が消えたって聞こえたけど……」
「だよな……一体どうなってるんだ?」
「大変だよね……あの天使の卵が無くなるなんて」
「地上の救世主のような存在だからな」
「うん。愛と調和と希望の天使。あの産まれながらの天使が悪魔から地上を守る為に、これから地上に光を与える……んだよね?」
「ああ。ったく、誰だよ! 盗んだの!」
産まれながらの天使は、産まれつき翼が生えた生粋の天使。試験は受けずに勉強するだけで天使の仕事が出来る。そのような天使は今まで数えるほどしかいない。リラ達は人間で言う15歳位だ。
「同じ卵から生まれても彼女達は別格だからね。まぁ、天使は人間をサポートするのが仕事だけど。アラン、ちょっと落ち着こうよ。ところで、ジルは?」
「ああ、ほら、用があるとかで先行っててって言ってたじゃん」
「あ、そうだね。用って何なんだろうね?」
「さあ? 好きな子にでも会いに行ったとか?」
「そうかな? ジルが? そんな話聞いてないけど……」
「仲良くてもなんでも話すとは限らないだろ?」
「そうだけど……」
天界に朝や夜があるわけではないけれど、時計はある。その日、時計の針が23時を回ってもジルは帰って来なかった。
翌日、天使の試験が行われ3人は無事に受けることが出来、その場で合格者が発表された。
「では、合格者を発表します! まずは……リラ!」
「はい!」
リラは元気に返事をし、教員の前へ歩み寄る。
「よく頑張りましたね! これからしっかり人間をサポートするのですよ」
「はい! 分かりました!」
「では、背を向けて」
「はい!」
リラはくるりと教員に背を向ける。教員が背中に手をかざすと純白の翼が生えて行く。キラキラと輝きながら美しい翼がびっしりと生え終わった。
「天使の証です」
「ありがとうございます!」
教官は笑顔でうなずく。
「次は、アラン!」
「はい!」
アランは勢いよく動こうとした為、足がもつれてしまう。
「うわ!」
「大丈夫です」
教員がその場で手をかざすと、翼が生え一瞬のうちにアランは宙に浮いた。
「大丈夫? アラン!?」とリラ。
「……あ、ああ」
「おめでとう」と教員天使は伝える。
「ありがとう……ございます」
アランはゆっくり降りて来ると、教育の前へ進む。
「そそっかしいのは気をつけて」
「はい」
アランはかすかに赤くなる。
「さて、次は……ジル!」
「はい!」
ジルは一歩一歩を踏みしめるように進んで行く。
「おめでとう。あなたは一番しっかりしているから、あの2人を頼むわね」
「はい」
「では、背を向けて」
「はい」
ジルの背にもしっかりと美しい翼が生えた。こうして3人の新米天使が誕生した。