第8.5話【蛹のように包まっていたい】
自分の身体の変化を突き付けられるたびに夢を見る。
最初は起きれば忘れるほど思い出すこともなかったけど、何度も見るようになるとずっと見ているかのような気持ちになってくる。
それは自分が女性として生きていくことを決めた未来の夢。
俺は椅子に座って楽しげに誰かと話している。自分の姿は見えていないのに笑っていることは自覚できた。
相手の男性は誰?
朝陽?
そうだったらいいな。
自分の視線が下を向くとおなかがふくらんでいることがわかる。これは太ったわけではない。妊娠だ。お腹に赤ちゃんがいる。
つまりは目の前の誰だかわからない男性と結婚した未来なんだろう。
日が差すように穏やかで暖かい。
彼のことが好きだった。誰なのかわからないのに。
きっと彼も俺のことが好きで、俺も彼のことが好き。
なんて幸せな夢なんだろう。
起きてみるとそれが夢であったことを自覚する。
それと同時に自分が男なのか女なのかわからなくなる。
お腹の下あたりがきゅー…って痛くなる気がする。心は不安でいっぱいだ。
布団の中で蹲って、現実を拒絶した。
半年も経てば女性である自分の身体との向き合い方もわかるようになり始めてて、姉への頼り方も朝陽には言えないことも分けられるようになった。
俺が女性として生きると言ったらなんて言うだろうか。
彼のことだ、好きにすればいいなんて言うのだろう。
男に戻りたいと言ったら喜ぶだろうか。
それとも。
ただただ蹲った。わからなくて不安で悲しくて。
俺の気持ちは俺以外にはわからない。ふたりの姉にも母にも。そして、朝陽にだって。
わからないし、言えない。拒絶されてしまえば今の関係が続けられなくなる。
それが直接的に「キモい」だなんて言われたら俺は生きていられないだろう。
ずっと一緒にいてそんなことを言わないのはわかっている。
自分が隠しているようにみんなも何か感情を隠しているかもしれない。
俺はどうしたいんだろう。本当の自分はどっちなんだろう。どっちでいたいんだろう。
***
朝陽との出会いは小さい時、何歳だっただろうか。その時はまだ彼の母と姉もそこにいて、4人家族だったのは覚えている。
彼ら家族が引っ越してきて、お隣さんで挨拶しに来て、でもその時はそんなに関わることはなかった。
いつからだったかな。昼間のうちに彼の母親が彼と彼の姉を連れて毎日出かけるようになったのは。
その行為が何を意味するのか幼い俺にはわからなかった。よく遊びにいくな、としか思っていなかった。
しばらくすると、姉のほうだけを連れて出かけるようになった。彼だけが家に残されていた。
俺は庭で暇そうにしている彼に声をかけた。それから彼との関係が始まった。
実際何をして遊んでいたのかはもう覚えていない。誰もいない家でふたり遊んでいたと思う。
その時に志希姉や希乃果姉はいただろうか。
それからすぐ彼の母と姉と会うことはなくなった。のちに朝陽から聞いたのは夜逃げしたらしい。
浮気がバレて娘を連れてこっそり家を出ていったという話だ。
俺は覚えていないが母親のおなかには赤ちゃんがいたらしい。
彼の母親がなぜ姉だけ連れてお腹に赤ちゃん宿しながら逃げたのか。俺にはわからない。
朝陽だけ置いて行かれたのは男だったから? それとも嫌われていた?
俺はその話を聞くとそんな女性とは結婚したくないなって思った。
自分が女性になった今、自分はそうならないと信じていてもその話が頭をよぎる。
自分に自信がなくなる。
朝陽がそんな経験をしても女性そのものに嫌悪感示していないのは俺の家族との関係もあるのだろう。ふたりの姉がいるから。
いや、もしかしたら朝陽は女性が嫌なのを隠しているのかもしれない。
本当は俺が甘えるのが嫌だったら。離れたいと思っていたら。
泣きそうだ。
布団の中で蹲って、さなぎのように包まれて、外に出たくない。
ここから勇気を出して外に出たら蝶のように舞えるだろうか。
朝陽に好かれることはできるのだろうか。
俺は朝陽のことが好きだ。
遡れば男の時から好きだったのかもしれないし、この気持ちは勘違いかもしれない。
でも、俺は朝陽と一緒にいたい。
朝陽はどう思っているんだろう。
今回から最終章です。
毎週火曜更新。12月中に完結します。
よろしくお願いいたします




