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第17話 怖がられる女と怖い女

 フレイアとシラユキの凸凹コンビだが、やっとカリンダノールに到着していた。二人共方向音痴な上に性格も正反対とあって、道に迷っている内に更にナツキとの差が開いている始末だ。


「はぁ……やっと着いたわね……って、シラユキ! ウロウロして迷子になるんじゃないわよ!」


 フレイアが声をかけるがシラユキはどこ吹く風だ。マイペースに歩いて行ってしまう。


「ちょっと、シラユキ」

「んっ、守備隊の屯所とんしょに行く」

「はあ?」

「騎士に聞いてみる」

「つまり、ナツキ少年が何処に行ったか聞くってわけね」

「そう」

「それならそうと早く言いなさいよ」

「今、言った……」

「もぉおお~っ!」


 相変わらずな二人だった。




 カリンダノールにある守備隊は暇だった。特に反乱も無い穏やかな港町であり、少数の女騎士と女兵士が派遣されているだけだ。


 たまに街を歩いては、好みの男を物色したり、因縁を吹っ掛けてイケナイコトしようとするくらいである。

 それだけに街での評判はすこぶる悪いのだが。


 しかし、暇な守備隊にも嵐が迫っていた。先日のアイカとの出会いに続き、またしても恐ろしい女が二人も来訪しているのだから。



 ガチャ!

「ちょっと聞きたいのだけど」


 屯所のドアを開けたフレイアが、中で駄弁だべっている兵士達に声をかけた。


「はあ、何の用だ! ここは一般人の来るようなところではない!」

「そうだ、我々は忙しい。帰れ帰れ!」


 全く忙しそうにしていない女兵士がイスに座ったまま答える。やる気は微塵みじんも感じない。


「おい、何の騒ぎだ」

 部屋の奥から女騎士が現れた。騒ぎを聞きつけて面倒くさそうに出てきたのだ。


「あ、隊長。この女が用があるそうで」

 兵士の一人がフレイアを指差す。


 ガタガタガタガタガタガタ!

 フレイアを見た騎士がガタガタと体を震わせ始めた。顔は恐怖で引きつっている。


「あ、ああ、あああ、ふ、ふふふ、フレイア様! あ、アヒィィィィーッ!」


 ガッシャーン!

 腰を抜かしてひっくり返った騎士が、すぐに立ち上がるとうやうやしく敬礼をする。


「し、失礼いたしました、フレイア様。天下無双、一騎当千の帝国大将軍フレイア様が、このようにむさくるしい屯所にお越しになられるとは露知らず、お恥ずかしいところをお見せしました。お、おい、お前達も起立敬礼せぬか」


「は、はい! フレイア閣下、失礼しました」

「閣下、お許しください」


 そこに居る全員の兵士が恐怖で震える。相手は悪魔のように凶悪な女と評される七大女将軍の一人、フレイア・ガーラントなのである。


「うむ、楽にせよ。今日は軍の仕事で来たのではない。ちょっと聞きたいことがあってだな……」


 グイグイグイッ――

 フレイアが話し終える前に、後ろから彼女を押してシラユキが入ってきた。


「フレイア、入り口で立ち止まると邪魔」


 これにはフレイアより先に兵士達が反応してしまう。


「ギャアアアアアーッ! し、シラユキ様! ああ、あああっ!」

「シラユキ様って、あの氷の大将軍の……」

「お、お許しを! 何でもします」


 狡猾で残忍な女と評されるシラユキまで登場して、もう女兵士達が恐怖で気絶寸前だ。


「うわぁ、面倒なことになったわね」

「はあ……最悪」


 フレイアが愚痴ぐちを吐き、シラユキが溜め息をつき目つきが鋭くなる。それを見た女兵士たちが更に震えあがってしまう。


 ガタガタガタガタガタ――


「ちょっと、あんた達! この少年を見なかった?」

 フレイアが手書きの似顔絵を見せる。


「えっ、えっと、ワンちゃんですか?」

「はあああぁ!?」

「うっひぃ、す、すみません」


 フレイアの似顔絵が下手糞過ぎてワンコにしか見えない。女騎士が失言してしまうくらいに。帝国最強の炎系魔法使いだが、絵心までは持ち合わせていなかったようだ。


「フレイア、絵が下手過ぎ。私のがマシ。これ、この少年を探している」

 シラユキが手書きの似顔絵を見せる。


「えっ、あ、あの……ネコちゃんですか?」

「は? バカにしてる?」

「めめめめめ、滅相もございません」


 シラユキの似顔絵が下手糞過ぎてニャンコにしか見えない。またしても女騎士が失言してしまった。



「とにかく、少年を探してるのよ。このくらいの背丈で、ぱっと見は女の子みたいな男子なの。何処に行ったか知らない?」


 フレイアがナツキの特徴を説明する。最初から絵ではなくこうするべきだったかもしれない。


「少年……そう言えば、マミ……い、いえ何でも」


 女騎士が、先日会った露出度高めの女と初心うぶな少年とのコンビを思い出す。それと同時に、そのやんごとなき(・・・・・・)立場の女が偽名を使って本名を言わないよう仕向けてきたのも思い出した。


「知っているのか? 何処に行った?」

「い、いえ、知りません」

「貴様、隠しているのか? 誰かと一緒なのか?」


 フレイアに詰め寄られ絶体絶命の女騎士。言うも地獄、言わぬも地獄である。


「こ、これ以上はお許しを。忠誠の証に、フレイア様の靴を舐めます」

「い、いや、靴は舐めずともよい」


 恐怖の余り女騎士が這いつくばって靴を舐めようとするが、フレイアにはネルネルのような趣味はない。ナツキになら色々ペロペロされたいのだが。



「知ってるのなら教えて!」

 はっきりしない女騎士にシラユキが詰め寄る。元々鋭く美しい目が、更に鋭く光り恐怖でしかないだろう。


「は、はひぃ……しょ、少年は見かけました。た、旅をしているようで……何処に行ったのかまでは分かりません……」


 アイカのことはボカしたままナツキの情報だけ伝える女騎士。もうライフ(HP)はゼロだ。


「そう……」

「は、は、うっひぃぃぃぃ~っ! あ、あひっ……」


 バタンッ! ジョバァァァァ――

 女騎士が尻もちをつき、床に液体が広がってゆく。アイカの時と同じように、またしてもおもらしだ。


「えっ、あの、大丈夫?」


 恐怖の余り失禁してしまった女騎士を心配するシラユキ。しかし、女騎士からしたら、更に詰め寄られているように感じて死体蹴り状態だろう。


「も、もも、もう許して……」

「ううっ、何もしてないのに」


 勝手に怖がられてしまいシラユキが傷付いた。いつものことながら理不尽だ。

 だが、フレイアは先を急ごうとシラユキの腕を引っ張る。



「ほら、もう行くわよ、シラユキ。あんた顔が怖いんだから」

「この顔は生まれつき……納得いかない」

「はいはい。早くナツキを追いかけないと」

「何もしてないのに……」


 ガチャ!

 二人が屯所を出て行き、室内が静寂せいじゃくに包まれる。



「あ、ああ……助かった。先日のマミ……アイカ様に続き、フレイア様とシラユキ様とも会って生き残ったぞ」


 おもらしで濡れたまま、女騎士が天を仰ぎ生への感謝をする。


「た、隊長……私達、生き残りました」

「怖かったぁ。瞬殺されるかと思った……」


 兵士達が喜び合う。味方であるはずの帝国軍にも恐れられている大将軍。その大将軍数名と会って生き残ったのは奇跡だと思っているのだ。


 その後、守備隊の兵士たちは大将軍に目をつけられているのだと勘違いし、街での悪事を控えるようになる。カリンダノールが少しだけ平和になった。


 ◆ ◇ ◆




 その頃、帝都ルーングラードでは――――


「あっはっはっはっは! よいぞよいぞ、もっと踊れ! ほれ、もっと我を楽しませるのじゃ」


 アレクサンドラが帝都中から集めた若い男娼だんしょうもてあそんで楽しんでいた。

 宮殿の大広間には音楽が流れ、あられもない姿の男達が官能的な踊りをしている。


「そうじゃそうじゃ、ほれっ!」


 アレクサンドラが、食べていた果物を床に放り投げた。


「犬のように這いつくばって食べるのじゃ。手を使ってはならぬぞ」


 趣味の悪い遊びだ。敢えて屈辱的な命令をして楽しんでいるのだから。

 元々意地の悪そうな顔が更に悪くなっている。口元には下卑た笑いが浮かび、目元はギラギラと男を舐め回すような視線だ。


「はっ、はっ、あむっ、むしゃむしゃ……」


 這いつくばった男が床に落ちた果物を食べる。犬のように。権力を一手に握る元老院議長のアレクサンドラに逆らったら命が無いのだ。従うしか生きる道はない。


「あはははははっ! 愉快、愉快じゃ!」



 スタスタスタ――

 アレクサンドラが乱痴気騒ぎしている大広間に、剣の大将軍レジーナ・ブライアースが入ってきた。目の前の破廉恥な光景に戸惑っている。


「アレクサンドラ議長、これは……一体……」


 レジーナ・ブライアース

 ルーテシア帝国大将軍 剣の聖騎士である。


 背が高く脚が長いスタイル抜群の体。凛々しく気高い気品に満ち、姫カットの黒髪ロングと相まって、まさに後ろ(あっち)が弱そうな女騎士のイメージ通りだ。


 少々気が強そうでいて邪心の無い清らかな黒い瞳。一見王子様系女子のようだが、白を基調とした騎士服には随所に色気が満ち満ちている。

 窮屈そうに胸当てを持ち上げる大きな膨らみも、尻や太ももがパツパツになったパンツスタイルも煽情的なくらいだ。



「なんじゃ、レジーナか。せっかく良いところであったのに。どうしたのじゃ?」

 迷惑そうな顔をしたアレクサンドラが答えた


「はっ、ご報告がありまして。それにしても、え、エッチな遊びを……宮殿でこのような遊び、皇帝陛下は何と仰っておるのですか?」


 レジーナが周囲をチラ見する。あられもない恰好の男達が這いつくばっていて、帝国乙女にとっては欲情を誘ってしまう光景だろう。


「ああっ! もうよい、お前達は下がれ。興が醒めた」


 アレクサンドラが手をヒラヒラさせ、男娼達を下げさせる。恐怖と安堵の入り混じった表情で、男娼や演奏者たちが次々と部屋を出て行った。



「これは皇帝陛下の命令でもあるのじゃ。陛下はより国を拡大し軍事強国となることをお望みである。同時に、徹底的に男にイケナイコトをして完全なる女性上位国家樹立を目指しておられるのじゃ。私が好きでやっておるわけではない。そこのところ、勘違いせぬようにな」


 実際はアレクサンドラの道楽なのだが、全てを皇帝アンナのせいにしている。傀儡かいらいの皇帝を軟禁して、権力を意のままにする。それが彼女なのだ。


「な、なるほど。さすが女の中の女、神聖不可侵にして全ての女性の憧れ、皇帝陛下でありますな」


 毎年開かれる騎士による武闘大会を圧倒的強さで連勝する剣聖レジーナであるが、頭の方はアレというかおバカなのである。騙されやすい女であった。


「それで何の用じゃ」

「はい、それがリリアナに派兵されていました我が軍が――」


 この後、レジーナの口から出た衝撃の発言で、アレクサンドラが激怒することになる。帝都に彼女の権力を揺らす激震が走った。



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