第1話 エッチな女魔法使い炎の大将軍フレイア
城門を守るように立ち塞がる女。燃えるような赤い髪、パッチリとした大きな目には黄玉のような美しい瞳。悩まし気に長い髪をかき上げる仕草は、一撃で男を悩殺しそうな破壊力だ。
全体的に露出度の高いローブを着ているためか、胸元や太ももは大胆に見えまくっている。特にムチッと張り出した巨乳は深い谷間が強調され、目のやり場に困るくらいに。
戦闘による興奮のためなのか残暑のせいなのか、その胸元には玉のような汗が浮かび、ツツーっと汗が流れ胸の谷間に消えてゆく。
もし、その艶やかで張りがあるムッチムチの双丘に顔を埋めることが可能なら、きっと良い匂いがするに違いない。
この女こそ、近隣諸国を征服し巨大な領土を持つルーテシア帝国が誇る最強の女将軍が一人、炎の魔法使いフレイア・ガーラントである。
二十歳そこそこにしか見えないが、巨大な帝国に君臨する七大女将軍の一人であり、誰もが恐れる一騎当千の強者であった。
「ふっ、一人で攻め込むとは私も舐められたものだ。だが、その勇気に免じて、この炎のフレイアが直々に相手してやろう!」
女将軍フレイアが言い放つ。可愛い顔からは想像できない凛々しい声をして。
「ああっ……な、何でボクがこんな目に……でも」
まだ若い少年が呟いた――――
フレイアと対するこちら側。何故か一人で女将軍が守る砦に攻め込むことになった勇者。
少年の名はナツキ・ホシミヤ。まだ幼い顔をした男子だ。サラサラした栗色の髪に黒い瞳。お人好しそうな顔は、騙されたり貧乏くじを引きそうなタイプに見える。一見すると女の子にも見えてしまいそうな、ある特定の女性に狙われそうな男だった。
「はぁ、はぁ、はぁ……はあぁん♡ 何なのこの子。調子狂っちゃう♡ もうギッタギタのボッコボコにしちゃうから覚悟なさいっ!」
さっきの凛々しい声とは違い、上気した顔で言い放つフレイア。その表情は、戦闘というよりベッドの上でエッチなことをする時の顔に似ていた。
◆ ◇ ◆
時は少し巻き戻り、ナツキ幼年学校入学の日――――
ここ、デノア王国幼年学校では、入学時に天の祝福と呼ばれる固有能力を調べる儀式をする。その生まれ持ったスキルによって剣士や魔法使いなど、各個人の適正を伸ばし将来の士官候補としているのだ。
「次、前に出ろ」
試験官が声を上げると、並んでいる少年少女達が一人ずつギフトを判別する神聖石に手をかざしてゆく。
「はい」
「よし、光魔法レベル3」
「よっしゃーっ!」
ギフトを読み上げられた少年がガッツポーズをする。
次々と生徒達のギフトが明らかになってゆく。皆、剣士や魔法など実践的な能力だ。戦士となった暁にはギフトのスキルで活躍するのが夢なのだから。
「次、ナツキ・ホシミヤ、前に出ろ」
「はい」
ナツキの番がきて神聖石に手をかざす。
「よしっ、ボクは国を守る勇者になるのが夢なんだ。がんばるぞぉ!」
シュパァァァァーッ!
「ん? これは珍しいギフトだ。なんだこりゃ、姉喰いレベル10だと!」
くすくすくす――
試験官の声で会場からクスクスと笑いが起こる。
「こんなギフトは聞いたことがないな。ぷっ、ふふっ、姉喰い……これは戦闘には役に立たないゴミスキルだろう。ははははっ!」
笑いを堪えながら説明していた試験官が、つい我慢できずに爆笑してしまった。それほどのインパクトだったのだろう。
「そ、そんな……ボクのギフトがゴミスキル……」
ナツキがトボトボと下がって行く。勇者として活躍するのを夢見ていたのに、ゴミスキルで活躍の機会が皆無なのはあんまりだろう。ナツキ・ホシミヤ、若くして夢破れた瞬間である。
「うっわっ、見ろよ。あいつゴミスキルだぜ」
「剣も魔法も使えねえのかよ。ダッサ」
「やだぁ、ゴミスキルだなんて、まるでゴミ男子ね」
「使えない男子はゴミよね~っ」
ヒソヒソとナツキを噂する声が聞こえる。入学したばかりの生徒の間では、スキルの強さでクラス内カーストが決まると言っても過言ではないだろう。
それからのナツキは最悪だった。事ある毎に同級生の男子からは、『やーい、ゴミスキル!』と言われ、女子からは『ふふっ、ナツキ君って何の役にも立たないんでしょ』などとからかわれてしまうのだ。
「はぁ……今日も上手くできなかったな。ボクが強くなれる日は来るのだろうか」
学校からの帰り道のナツキ。そこに、商店街の店主から声がかかる。
「よお、ナツキ君。なんだ元気がないじゃないか。これ、売れ残りだけど食べるかい?」
パン屋の店主がナツキにパンを渡す。人の良さそうな顔の中年男性だ。
「いつもありがとうございます」
「ははっ、良いってことよ。それ食べて元気だすんだぞ」
「はい」
パン屋のおじさんは優しいな。ボクを気遣ってくれている。
いつもの公園で座り、もらったパンを袋から出すと、痩せたネコがやってきた。
「にゃぁ~」
「どうした。お腹が空いてるのかな?」
「にゃあ」
「これ、欲しいのか?」
「にゃう」
シュタッ!
ナツキがパンに挟まっている白身魚を差し出すと、ネコが咥えて去っていった。何度も振り向きながら。
「あのネコもボクみたいに弱いのかな? あんなに痩せて……。ボクも強いギフトが欲しかったな。だ、ダメだダメだ、もっと頑張らないと。ボクもいつか国を守る勇者になるんだから。じ、時間はかかるかもしれないけど……」
具の無くなったパンをかじりながらナツキが呟く――――
そんなナツキに転機が訪れたのは幼年学校も卒業間近となった時である。
北方の巨大な軍事国家であるルーテシア帝国が、緩衝地帯となっていた隣国のリリアナ王国に侵攻したのだ。超強力な軍事力を誇るルーテシアは、一気にリリアナを支配下に置き、あっという間にデノア王国と国境を接することとなる。
そして、次はデノアに侵攻するのではとの噂が駆け巡り、国中が大混乱になってしまう。ナツキのいる幼年学校も他人事ではなかった。
「どどどど、どうしよう! 帝国が攻めてきたら」
「俺達、家畜にされちゃうのか?」
「だ、男子は家畜だけど、私達女子はどうなっちゃうのかしら」
クラスの誰もが恐れおののき不安を口にする。
それもそのはず。ルーテシア帝国は貞操逆転世界だの、女尊男卑だの、男は奴隷なのと、恐ろしい噂が飛び交う女性が支配する独裁国家なのだ。
皇帝も女性、貴族も政治家も女性、軍の要職も全て女性という、完全なる女性優位社会。男は奴隷か家畜にされるともっぱらの噂である。
中でも帝国最強七大女将軍の名は世界中に知れ渡っていた。
悪魔のように凶悪な女、炎の大将軍フレイア。
狡猾で残忍な女、氷の大将軍シラユキ。
高飛車で性格最悪の女、光の大将軍クレア。
変態性癖で性欲絶倫女、闇の大将軍ネルネル。
長身怪力の暴力女、力の大将軍ロゼッタ。
騎士にあるまじき卑怯な女、剣の大将軍レジーナ。
嗜虐心から男を調教しまくるドS女、カワイイ大将軍マミカ。
若干、誇張されている気もするが、征服された国々からの噂である。しかし、あながち嘘とも言い切れない。
彼女らは生まれつき超強力なギフトを持っており、とにかく強過ぎて誰も太刀打ちできないのだから。
そんなこんなでデノア王国正規軍から退役する者が続出し、弱いながらも成り立っていた軍隊は崩壊してしまう。誰もが凶悪な七大女将軍を恐れているのだ。
そして、ナツキのいる幼年学校にも動員が掛かるものの、女将軍の家畜や奴隷にされるのを恐れる生徒が次々と辞退し……遂にナツキが徴兵される順番が回ってた。
「あ、あの、マリー先生……」
マリーという女教師に呼び出されたナツキが、恐る恐る訊ねてみる。
「そ、その、ナツキ君。はぁ♡ 今日も良い感じね♡」
徴兵の話をしているはずなのに、マリーの体が火照っている。話を切り出さずに、今にも舌なめずりしそうな顔でナツキを見つめているのだ。
何故かナツキは幼少の頃から女子にちょっかいを掛けられることが多い。特に、それは年上女性からは顕著に現れていて、上級生のお姉さんや女教師から狙われることが多いのだ。
「マリー先生、どうかしましたか?」
「はああぁん♡ ナツキ君、そんなに見つめないでぇ♡」
ナツキ本人も気付いていないのだが、彼の持つ【姉喰い】スキルは、年頃の姉属性女性を発情させる恐るべき能力なのかもしれない。まだ力の制御ができないナツキは、勝手にスキルが漏れている状態であった。
「はぁ、はぁ、はぁ♡ ちょ、ちょっと暑いわね♡」
「マリー先生、腋汗が凄いですよ。シミに……」
「ああぁ~ん♡ ダメよぉ、腋を見ないでぇ♡」
興奮したマリーが色々な部分に汗染みを作る。そんな彼女の発情も知らないナツキは、無邪気なまま指摘しているのだ。
「な、ナツキ君……もう許してぇ♡ 何でもするからぁ♡ ナツキ君が軍に入ってくれないとぉ、先生おかしくなっちゃいそうなのよぉ♡」
誤解してはいけない。彼女は、ナツキを軍に入隊するよう説得しているだけなのだ。
「えっと、マリー先生は、いつもおかしいけど……あっ、すみません」
とにかくナツキが話に同意しなければ、教え子の前で羞恥のアヘ顔を晒してしまいそうで、彼氏いない歴イコール年齢のマリー24歳がピンチなのだ。年上なのに汗ビッショリで必死の懇願をしていた。
「わ、分かりました」
ナツキが首を縦に振る。
「ほ、ホント?」
「はい、ボクは弱いけど……。でも皆を守るために頑張ります。ボクは国を守る勇者になるのが夢なんだから!」
こうしてナツキ・ホシミヤはデノア王国正規軍に入隊した。後に、たった一人で帝国七大将軍を打ち破った『奇跡の勇者ナツキ』と、その名を轟かせることになる英雄である。
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