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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
10.プリンセスのガーディアン

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7.王子をやめたきっかけ(シュウ)

 まだみんなは学校で授業を受けているのに。私たちは二人でモノレールに揺られている。


「連れ出したこと、まだ怒ってる?」


 向かいに座ったテルがそう聞いた。


「…怒ってないよ…」


 私が減ってしまった分、救護室は大変なことになっているだろうなって、申し訳ない気持ちもあるけれど…。


 なんでだろう。久しぶりに息ができる気がした。


 あの日からずっと考えていた。この身体を流れる血のこと。私の使命のこと…。

 それと「シュウはシュウだ」と言ってくれたテル君の言葉のこと。


(私は子供の頃…誰かにそれを言われたことがある…)


 女の自分を否定して、王子であろうとした私に同じ言葉をかけてくれた人がいた。

 

 たった十年位前のことだ。それなのに、テル君に言われるまで忘れてしまっていた。


 何でそれを言われたのかも、誰に言われたのかももう忘れてしまった。

 だけど、その言葉はずっと私の中にあった。その言葉に救われた。そしてその言葉で私は『王子』であることを辞めたんだ。


(これがセイレーンのチカラなのだとしたら……言ってくれたのは多分……テル君だ…)


 窓の外から視線をテル君に移した。目があった瞬間に顔が赤く染まる。

 その顔を見られたくなくて、素早い動きで窓に張り付いた。


「…どうしたの?」


「…っ…!!外の風景が動いてるなって…」


「ははっ…何それ」


 向かいから楽しそうな声が響く。真っ赤な顔を見られてしまったのかもしれない。


 周りから見たら護衛対象とその護衛には見えないだろうな。と、車窓に映る私たちを見て思った。


(楽しそうな恋人同士…そう、見えたりするのかな?)


 そんなことを考えて、また照れてしまった。もしも…私が普通の女の子だったなら…。


(…もしもなんて無いのに)


 あの日からずっと心は揺らいでいる。


 自分の使命は分かっていたはずだったのに。『誇り高きプリンセス』になりたかったはずなのに。


「あ…ここだ。降りようか?」


 声をかけられてハッと顔を上げた。


「目的地?」


「ん~目的地はもう少し先かな?その前に寄り道。…この服のままは嫌だから着替えようか?」


 養成校指定のトレーニングウェアを苦笑いで指差しながら、街に降り立った。


「ここに入ろうか?」


 そう言って立ち止まったのは、ビンテージっぽいアパレルショップの前だった。


「さっき連絡して用意してもらったから」


「連絡って?」


「まぁ…いいから入ろうか」


 そう言って不思議そうな顔をしている私の手をに引いて、お店の中に入った。

 店員が「いらっしゃいませ」と、こちらに顔を向けた。


「あ…テルだ。本当に来た。久しぶり」


 目を丸くして笑いかけてくれたのは、ショップ店員の背の高い男の人だった。

 腕にタトゥーが入っていて、ウェーブのかかった髪をハーフアップにしている。


「本当にって疑ってたのかよ?」


 笑いながらテルがハイタッチをしている。

 見つめる私に、前の学校の友達で『リク』だと紹介してくれた。

 途中で学校をやめて自分の店を開いたんだって。

 リクはテル君を見ながら「強そうになったな」と笑っている。


(忘れてたけど、テル君転校前は一般校だった…)


「で…こっちがシュウ」

「ああ。初めまして」


 いきなり名前を呼ばれて、慌てて「初めまして」と挨拶を返した。

 リクは私に視線を移すと何故か笑い始めてしまった。


「…リク、いきなり何笑ってんの?」

「だって、お前が毎日のように惚気メールしてくるから。あぁ…この子かって」

「~っ!はっず。そういうこと本人の目の前で言うなよ?」

「……惚気……?」

「テルに餌付けされてんでしょ?」

「何だよ餌付けって…」

「「食べるのも忘れて無理するから、いつもお菓子持ち歩くようになった」って言ってた。それ思い出して…。転校して親鳥にでもなったのかなって」

「なっ…!!お前俺のことそんな風に思ってたのか!?」

「だって…。ね?そうだよね?シュウちゃんも、ちょっと思ったでしょ?」

「あっ…!!気安くシュウの名前呼ぶなよ!!」

「うわっ。でたよ。こうやって誰にでも威嚇するのも鳥っぽいよね?」


 二人の仲良しな雰囲気に笑ってしまった。


「そうだね…たまにお母さんかな?とは…」

「え…?俺、そんな風に思われてたんだ」

「だって、毎日ご飯食べてるかどうか聞かれるから…」

「ブハッ!言われてんじゃん。完っっ全保護者!優しさ空回りしてる」

「嘘だろ?ショックだわ…」


 テルが大袈裟に悲しんで、リクが大声で笑っている。最近の張り詰めていた空気が和んでいく。


「そんなことより、頼んでたやつ出してよ」

「いきなりだったのに、用意した俺に感謝しろよ?」


 リクが出して来たのは、オーバーサイズの白いトップスと、ショート丈のグレーのフリンジデニム。

 それをテルが受け取って、私に困惑している私に手渡してきた。


「はい。これに着替えて?」


「…え?…」


「プレゼント。シュウに似合いそう」

 

 テルは今日一番の笑顔を見せながら、試着室へと私の肩を押しやり、反論する暇もなく扉を閉めた。


どうしようかと固まった。


 今までの人生でこんなスポーティーな服装をしたことがない。


(……じゃなくて!!)


「テル君っ!これ…」


「着替えたらそのまま出てきて?待ってるから」


 外から声が聞こえる返事に、広げたまま固まってしまっていた。

 覚悟を決めて渡された服に着替えた。


 服のサイズなんて教えたことなかったのに、ピッタリだった。

 恐る恐る試着室の扉を開けると、いつの間にかテル君も着替えていた。


「あー。良かったピッタリ」


 テルが嬉しそうに微笑んで私を見つめている。


「はい。これも着けて?」


 「ありがとう」と言おうとする私に、白いキャップを被せた。


「まって!!まって!!こんなに受け取れないよ…」


 混乱に混乱が重なって目が回りそう。


 プレゼントを受け取るようなことをした覚えなんてない。むしろ、テル君にお礼をしなければいけないのは私の方で…。


 青ざめて俯く私の肩に手が触れた。


「いいんだよ。俺の気晴らしに付き合ってくれたお礼だから…」


(違うのに…)


 テル君は元気のない私を気遣ってくれただけだ。


 気を使わせないように、自分の息抜きということにしていることぐらい、鈍い私でも分かる。


 考え込んで俯いている私に、手荒くキャップを被せた。

 お礼を忘れていたことに気付いて顔を上げると、嬉しそうに微笑むテル君と目が合った。


「うん。何着ても可愛い…」

「!!」


 テルはそういうことをサラリと言ってしまうから。私は顔を真っ赤にして、固まってしまう。こういう時にどんな顔をして、なんて言ったら良いのかも分からない。


 「ありがとう」と言うタイミングを逃してしまった。


「…こんな所でいちゃつくなよ。時間大丈夫なのか」


「あ…。そうだ。ありがとうリク!また連絡するわ!行こう!シュウ!」


「あ…!ありがとうございました」

 

 入ってきた時と同じように手を引かれて店を飛び出した。

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