表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
10.プリンセスのガーディアン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/129

6.気晴らし(テル/シュウ)

 護衛を引き受けてから数日経った。これまでに特に大きな問題は起きていない。

 シュウが脱走を試みるとか、ずっと一緒なのが嫌だと、喚かれるとか…。そんな問題は一切なく毎日を過ごせている。


 ただ…シュウの様子がおかしい。口数が減っている。何かを考えるように、遠くを見つめていることも増えた。


 目に見えて元気がない。それに少し痩せた気もする。


 シュウは状況が状況だけに、そうなってしまっても仕方がない。


 俺たちは殆ど普段通りの生活を送っているだけで何も変わらない。

 普段通り過ごす中で、ほんの少しだけシュウを気にかける。それだけでいいと言われたから。

 でもら護衛対象になったシュウは違う。仲の良い友達が自分のガーディアンになってしまった。

 命を狙われているシュウ(自分)のために、友達が命を賭けようとしている状態だ。


(気も滅入るよな…)


 食事の量も減っていると王族付きのガーディアンから教えられた。

 

 少しでも何か食べられる物を…と、最近はチョコとかグミとか持ち歩くようになった。

 食べる気がしないというシュウの口に、投げ入れるサイズの小さなお菓子。

 鞄を開けると、いつも甘い香りが漂うよう。


(ユリアの鞄みたいだ…)


 天使族は治癒魔法にかなりのカロリーを消費する。食べないと前みたいに倒れてしまうから。

 

 投げ入れるたびに「ありがとう」と、口をもぐもぐするシュウを見つめることが日課になった。





「シュウ今日もランチ食べて無かった…日に日にやつれてる」


 アスカがため息混じりに声をかけてきたのは、午後の実戦訓練の最中。

 課題モンスターであるオーガとの戦いを終えて、一息ついた時だった。


「…私が何言っても『大丈夫』の一点張りでさ…。でも多分滅入ってる」


 紙パックのジュースを飲みながら、救護室のシュウを見つめた。


「あぁ…まぁ…そうだよな?」


 同じようにシュウを見つめているアスカは、気のない返事をする俺に対して怒っているような気がする。


「そこを何とかするのがテルの役目でしょ?頑張ってよ護衛隊長」

 

 都合の良い時ばかり俺のことを護衛隊長と呼ぶんだ。と、悪態をつきたかったけどやめた。

 救護室のシュウはいつもより、動きにキレがないし。

 それに…俺だって心配してない訳じゃ無いから。


「分かったよ…。イリーナ教官には、体調不良でシュウと早退するって伝えておいて?あと…荷物まかせた。そのまま帰るわ」


 ゴミ箱にジュースの空を投げ入れると、立ち上がって背伸びをした。


「え…?何なに?いきなりどこに行くの?」


()()()()だよ」


 困惑しているアスカにそう伝えると、救護室へと向かった。



***



 大怪我を負った生徒の治療を終えると、次の生徒がまた運ばれてきた。

 行かないと…そう思って立ち上がった瞬間に、目眩がして床にペタリと手をついてしまった。

 

「シュウ…大丈夫?顔真っ青だよ?」


 声をかけてくれたのはミリヤだった。


「平気。ミリヤはリーリエの骨折を治してあげて?重傷のベンは私が治療するから…」


 まだ、視界が揺れている。目を閉じたまま指示をだして大きく息を吐いた。


「あ~もう、無理するなって。俺がテルにキレられ……る…」


(ファリスまでそんなことを言う…)


「大丈夫だって…うわっ…!!」


 起きあがろうと手に力を入れた途端に、身体がふわっと浮いた。何が起きたのか分からなかった。

 気がついたら、さっきまでいなかったはずのテルに、私は横抱きで抱えられていた。


「テル君…!?何でここに…?」


 私の声なんて届いていないのか、そもそも私の話なんて聞く気がないのか…。

 見上げたテルの視線はファリスに向けられていた。


「ファリス。シュウ、体調悪そうだから、ここ任せるわ」


 やっぱり腕の中の私の言葉なんて聞いてない。


「離してっ!?大丈夫だからっ…!!」


「うぃ~。任された」


 ファリスも軽いノリで、テルに向かって答えているし。

 任されたも何も、今は授業中だ。怪我人だって沢山出てる。


(それなのに…。何で今!?どこに連れて行く気!?)


「テル君!?待ってっ!?」


 軽々と私を抱えながら、救護室の出口に向かって歩きだす。


 無駄な抵抗だと分かっているけれど、テルの胸を腕で押しながら子供のように足をばたつかせた。


「…午後の授業サボろうか?」


 実戦室から出たところで、ようやく足を止めたと思ったら、そんなことを呟くから青ざめた。


「えっ!?…」


 何言ってるの?って顔して見上げる私に向かって、悪い顔して笑ってる。


「一日くらい大丈夫だよ」


「ダメだよっ…!!離して~~っ」


「ここで離してもいいけど…?もう戻れないけど?」


 気が付いたらもう既に養成校を出てしまっていた。


「うそ……」


 歩くの速いし無駄のない動きで、目的地でもあるかのように足を止めない。

 

「いいじゃん。付き合ってよ?今日は護衛とかそういうの無しにしよう。ただの初デート」


 私のことを柔らかい笑顔を浮かべて見つめる。その表情にそれ以上何も言えなくなってしまった。


 荷物も何も持って来てないし。それに、実戦訓練中で服もトレーニングウェアだし。


「…どこに行くの?」


「さぁ…?楽しみにしててよ。」


 何故か清々しい表情で言い切るテル君の事を、不安そうに見つめることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ