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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
10.プリンセスのガーディアン

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5.姉のような人(テル)

 授業が終わり、今度は夕方のフィールド訓練に向かう。

 最後の授業は選択教科だったから、一人で実戦ルームに向かって歩いた。


 朝のフィールド訓練の後も、実戦の授業中も…。シュウがさっきの話しに触れることは無かった。


(……みんなの前で話すようなことじゃないか……)



 ーー『穢れた血のプリンセス』から、国を救ったブルームンの『誇り高きプリンセス』になれると思わない?ーー


 その言葉と悲哀に満ちた表情…。心ない言葉を聞きながら、ずっと一人で耐えてきたんだ。誇り高きプリンセス(それ)になれるのなら、シュウは多少の無理は厭わないだろう。


 思い詰めないでほしい。頼れる所は頼って欲しい。


 俺がもしそう言ったところで、シュウは微笑んで「ありがとう」と言うだけだ。

 安心させる言葉を吐いて、自分の意志は貫き通す。

 お城から抜け出して俺に『お願い』をしてきた時のように。


(最悪『敵』が見つかった途端に、一人で向かっていく危険性もあるな)


 それなら俺の出来ることは、ひとつしかない。『シュウを一人にしないこと』…だ。


(やっぱり、シュウの行動を把握する必要があるな…)


 シュウが脱走する時は、いずれもイーター戦が行われるという情報がある時だからと言われた。

 念の為、イーターの出現情報は俺にすぐに来るようになっている。


 でも、それだけじゃ足りない。現にシュウはお城を抜け出して、早朝の養成校に辿り着いたのだから。


(…脱走成功してるじゃん…。やっぱり位置情報を把握しといた方が…)


「テル!!」


 廊下を歩く俺の背中に声をかけて来たのは、イリーナ教官だった。


「探してたんだよ。実は、テルに話したいことがあって……って何その顔!」


 思いっきり嫌そうな視線を、イリーナ教官に向けた。ロクでもないことを言われる気しかしない。


「教官に話したいことあるって言われたら、普通警戒しますよ……。…で話って何ですか?」


 イリーナ教官はニヤリと笑いながら、俺の肩を叩いた。


「…聞いたわよ?シュウの護衛隊長に任命されたんだって?」


「はい。…って、何でそれ知ってるんですか?昨日の今日ですよ?」


「私…昔王族付きのガーディアンでシュウの護衛もやってた時期があるんだよね。だから国王夫妻とは仲が良いんだよ」


 思いがけない言葉だった。イリーナとシュウは、あくまで生徒と教師の距離感だったし。

 そんな繋がりがあったなんて気付きもしなかった。


「そうなんですか?」


「プリンセスだからって、贔屓もしないし。シュウとの距離感も弁えてる。国王陛下から信頼もされてるの。現に気付かなかったでしょう?」


「はい…」


「こう見えて私、ガーディアンクラス1stだからね?しかも26歳で、十年以上クラス1stを保っている大ベテランだからね?」


 よく考えたら、プリンセスのクラスを受け持っている教官なんだから当たり前か。

 そのくらい腕のたつガーディアンじゃないと、何かあったら守れない。


「…勘のいいテルなら気付いた?今回のこと全ての情報把握している…」


 イリーナ教官は俺を見上げて微笑んだ。


「もちろん、あなた達兄妹のことも…ご両親のことも…全部知ってるから」


 そんな節は合った。編入試験の時にあのバカ(ユリア)は力を使っていた。

 歌った後のユリアの動きは格段に違っていたし。

 ガーディアン養成校の教員であれば、ユリアの能力に気付いてもおかしくない。

 それなのに、そのことに一切触れなかった。


 編入試験なんて形だけのもので、どんな結果でも俺たちはこのクラスになっていたんだ。


(なーんだ。勉強しなくて良かったじゃん)


「…もっと早く教えてくださいよ」


「いや…。だって私が味方だっていったらさ、気を抜いちゃう子…いるでしょう?」


「ああ。そうですね」


 確かに…ユリアはセイレーンの力を使ってしまうかもしれない。二人で大きくため息を吐いた。


「…本題に戻るけど。シュウの護衛、結構大変だったんだよね。あんな顔して目的の為なら手段を選ばないから…」


「だから担当教官になった今、シュウに嫌がらせしてるんですか?」


「人聞き悪いね。そんなことしてないわ!!」


(無意識でやってたのか…?)


 イリーナの話しではシュウが脱走するのは、決まってイーターとの戦いがある時。

 どこからとも無く情報を嗅ぎつけて、そして気が付いたら強固な警備を掻い潜り、お城の外にいる。

 そして、イーターの出現現場に向かおうとする。


「まぁ…現場付近で待ち伏せて、色々能書きを垂れるシュウの首根っこ掴んで回収したけどね」


「それ、何年くらい前ですか?」


「子供の頃だよ…今よりずっと…」


 イリーナ教官は、昔を思い出すように微笑んでいる。


「懐かしいな…」


 その表情は『教官』というよりは、お姉さんだ。

 イリーナはクスッと笑った後に、ほんの少し憂いを帯びた顔を見せた。


「……シュウは今も変わらないね。少しは変われたかと思ったんだけど……」


 そう呟いて、ポケットの中から何かを取り出すと、俺の手を取った。


「…これ…渡しておくわ」


 手渡してきたのは、小さな白いジュエリーボックス。

 あけてみると、中には碧い宝石のついた、小ぶりのスタッドピアスが入っていた。


「何度目かの脱走の時に、ヤケクソになって作らせたGPS付きのピアスだよ。

ただ、それを作った後に気付いたの。私が渡しても、シュウは警戒して付けないって。それで、結局渡さなかったんだよね」


(そこまで追い詰められていたんだ)


 そんな事を考えながらピアスを眺めた。


「私は渡せなかったけど、テルなら怪しまずに付けさせられるでしょ?彼氏なんだから」


「……それも国王情報ですか?」


「あはは。そうそう『それも含めて、全て知ってる』の」


 大きなため息と共にピアスをポケットにしまった。


「護衛に任命される前に渡してくれたら、出来たかもしれませんが…今は難しいですね」


 今のタイミングで渡すと、絶対に怪しまれる。護衛になったことで、俺たちの誰かが渡しても、警戒してシュウがそれを身につける事は無いだろう。


「大丈夫じゃないかしら?…大丈夫。シュウは気を許しているよ」


「そうだといいですけど…」


 いきなりイリーナは俺の手を引いた。真剣な目で見つめてきた。


「ねぇ…テル。こんなことを私が頼むのも変だけど……シュウを守ってあげてね?強がりなところもあるけど本当にいい子なの」


 その表情は妹を心配するお姉さんだった。イリーナはきっと、俺の知らないシュウのことを知っているんだ。

 それを近くで見てきたからこそ、その言葉を俺に投げかけたんだ。


「約束しますよ。これ、ありがとうございます…何とか活用します」


 イリーナは俺の返事に微笑みながら手を離して「心強いよ」と、笑った。


「あ…!護衛とは別に実務大会も忘れないでね?」


 もうすっかり教官の表情に戻ったイリーナに「分かりました」と返事をして、実戦ルームへと向かった。

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