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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
10.プリンセスのガーディアン

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4.秘めた決意(テル)

 シュウは腕の中で「大丈夫だ」と笑を浮かべた。


「…本当に?無理してない?」

「三本肋が折れて、肺を傷つけていたけど…平気だよ。もう治したから」


 どう考えても、平気に思えない内容の傷で思いっきり頭を下げた。


「……なんていうか…ごめん」

「!!あ、そういうつもりじゃなくて。前のテル君の火傷の方が酷かったから…。私にとってはかすり傷だよ?」


 抱きしめていた腕を緩めると、シュウは立ち上がり、治癒魔法で治した傷の確認を自分自身で行っている。

 確認を終えると、両手を上に上げて伸び上がっている。


 さっきまで、吐血する程の大怪我を負った人間の行動じゃない。


「……テル君手加減したでしょ…?」


 真っ直ぐに俺を見つめてそんなことを言うシュウに、苦笑いを浮かべた。


「さすがに…手加減はするよ。シュウを傷つけたいわけじゃないからさ…」


 大怪我を負わせておいて『傷つけたくない』と言ったところで、薄っぺらい。

 実際シュウが目覚めなかったら、多分危なかったと思うし。


「…うん…そうだよね…。手加減しないと…こんなか弱い体だもん。…簡単に殺されるよね…」


 シュウは自分の手を見つめながら悲しそうに呟いた。その手は何故か震えている。

 困惑する。悲しそうな表情の意味が分からず、シュウを見つめた。視線に気付いたシュウは、フッと微笑みを浮かべて俺に背を向ける。

 

「…フィールド訓練には行くよ?大丈夫。もう、怪我は治ったから…」


 そう呟くと、シュウは扉に向かって歩いて行った。


(何がしたかったんだ…?俺は…)


 シュウの背中を見つめながら、そんなことを考えた。


(…俺もだけど…シュウも…だ)


 シュウの最近の行動に違和感しかない。いきなり、『混血』のことをみんなに話したり、過度な手合わせをもちかけてきたり。

 今日の実戦形式訓練だってそうだ。自分を追い込んでいるようにしか思えない。


「…待って。シュウ……最近おかしいよ?」


 シュウの背中に向かって、大声で叫んでいた。


「何かあったなら教えてよ」


 俺の声にシュウは扉の前で足を止めた。振り返りはしない。足を止めただけだ。


「何もないよ…」


 返事した声は震えていて…。何かあるようにしか思えなかった。


「それは嘘だろ…?」

 

「嘘じゃ……ないよ……」


 見つめた背中が震えている。まるで泣いているかのようで、思わずシュウの手を取った。


「…何かあったなら話してよ。俺はシュウの力になりたいって思ってるから…」


 少しの沈黙の後でシュウはゆっくりと振り返り顔を上げた。


「私の護衛を任命されたってことは…お父様から聞いているよね?その敵と…目的を…」


 泣いているかと思っていたのに。振り返ったシュウは静かに微笑んでいた。


「それは知ってる」


 返事をして頷いた。相手は国王の弟で、そいつはイーターと手を組んだ。そしてその狙いは『ブルームン王国の浄化』だ。


「それなら分かるよね…手初めに狙われるのは私とお母様。でも…本当の狙いは?」


 シュウはその先を問うように、俺に視線を投げかけた。


「…『純血』以外の大量虐殺だろうな…」


 そもそもイーターが好戦的なのは己の食欲を満たすためだ。食えない純血の天使族を襲う理由がない。

 だからこそ、イーターにブルームン王国を攻撃させて、純血以外を排除する。

 

 国王の弟がイーターと手を組んだ理由はそれだ。お互いの利害関係が一致したからこそ、手を組んだ。


 「正解」と呟いてから、シュウは胸に手を当ててその瞳を閉じた。


「…私はそれを止めたいの」


 その言葉を聞いて、青ざめたのは俺の方だった。

 シュウのさっきの言葉の意味…。自分を犠牲にしようとしているんだ。


「それが出来たら…『穢れた血のプリンセス』から、国を救ったブルームンの『誇り高きプリンセス』になれると思わない?」


 瞳を開けてシュウは寂しそうに微笑んだ。

 心無い言葉は、ずっとシュウを蝕んでいた。不条理なことで貶められて、傷を負って。その不条理を『当たり前』のことだと受け入れてやり過ごして…。

 傷を隠してみんなには笑顔を見せて…。


 掴んでいる手が震えていた。か細い腕で…体で…何をしようとしているのかは分からない。

 でも、この手を離してしまったら…シュウが消えてしまいそうで、その手に指を絡めた。


「穢れた血とか…純血だとか…。そんなのどうでもいいよ…。そもそもプリンセスってことすらどうでもよくてさ…」


 握りしめた手を口元に近づけた。触れた手の甲は血の気が引いて冷たい。


「国を救う必要なんて俺にはないし。俺が守りたいのは、プリンセスでもこの国でもない。…シュウだよ」


そう言ってシュウの手の甲に口付けた。


「…え…?」


 慣れないことをされたシュウは、目を丸くしてから、時間差で頬を赤く染めた。


「ゎあっ…!!そ…!!その発言は無責任じゃ…」


 「ボッ」と音が聞こえて来そうなくらいに赤くした顔で反論している。どもってるし。……すごく可愛い。


「何で?国王に依頼されたのはシュウの護衛だから、無責任でもなんでもない」


「それは…屁理屈だよ」


「屁理屈はシュウも同じ。考えすぎて変な方向にいってる。逆に俺はちゃんと護衛対象を把握してる」


 微笑みながらもう一度手の甲に口付けると、今度は怒ったように俺のことを睨みつけている。


「…からかってる?」


「からかってない。…どんな血が流れてても、どんな身分でも関係ない。シュウはシュウだよ」


 真っ直ぐに見つめて言った言葉に、シュウは目を丸くして固まった。

 でもそれは、さっきとは違う驚き方だった。何かを考え込んでいるような…そんな顔だ。


「……シュウ?」


 声をかけると同時に手を振り払われてしまった。


「…あっ…そろそろフィールド訓練の時間だから…。着替えないと…!!」


 それだけ言うと、廊下へと飛び出して行った。


「…っ…あ……!!シュウ!?話終わってな…」

「あっ!シュウだ。おはよう」


 最悪なタイミングで現れたのは、ユリアとレイだった。


「おはよう!二人とも!あ、私ユリア達とフィールド訓練に行くから…!じゃあテル君、また後で」


「??え…?あ…っ…!!その服…血じゃ!?」


「うん。後で話すから更衣室に着いてきて!」


「分かったけど…シュウ、どうしたの…?」


 ユリアの腕を引きながら、猛ダッシュで走り去ってしまった。


「……何アイツ?」


 レイが不機嫌そうに呟いてから、血まみれの俺の服を見て固まった。


「……取っ組み合いのケンカでもした?」


「まぁ…。そんな感じ…」


 結局本意は分からないままで、シュウは行ってしまった。


(頭を冷やそう…)

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