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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
10.プリンセスのガーディアン

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3.実戦訓練(テル)

 久しぶりに使う軽い剣。使い心地を確かめるかのように、その場で素振りをしてみた。


「手合わせって言っても、実戦訓練形式がいいの」


「は…?」


 何を言い出すかと思ったら、ロクでも無いことだった。実戦訓練形式だと、どちらかが気を失うか、再起不能となった場合に負けとなる。

 つまり、それ以外は訓練を継続しなければならない。制限時間はない。「負けた」と宣言しても決して攻撃の手を止めてはいけない。それが実戦訓練形式だ。


「そこまでする必要…ある?」


 シュウはあくまで『護衛対象者』。命をかける必要があるのは、護衛を任された俺の方だ。


「相手の狙いは私だよ?それにイーターもいる。だからこそ最悪の事態を想定しなければいけないでしょ…?」


 そう言いながら俺の喉元に切先を突きつけた。


「じゃないと…自分のことを守れない」


 あの時と同じ鬼気迫った視線。本気でシュウは俺に向かってくるつもりだ。


「少なくても数分……。助けが来るまでの数分でいい。それを生き残れる力が欲しいの」


「……分かったよ。でも、この後フィールド訓練もあるからさ…」


 シュウは俺に突きつけた剣を下ろしながら、話を続けた。


「一日くらい休んだって問題ないよ?きっとイリーナ教官も許してくれる…」


 自分の目的の為に、ことごとく屁理屈でこっちの言い分を潰していく。追い詰め方に既視感しか無い。


 「最悪の事態」「自分を守りたい」と言う言葉を使い、またしても自分を悪者にする。

 失敗を恐れて、今回の依頼を断って欲しいと俺に言わせたい魂胆が丸見えだ。


 今のセリフは俺たちを巻き込みたくはない一心での発言。それも分かっている。

 強い言葉は、シュウの優しさからだ。辛い思いをしてきて…、裏切られた。

 その生い立ちもあるそれも理解してる。


 でも…。いつも俺の気持ちや思いは置いて行かれている。


 大切だと言ったことも…好きだと伝えたことも…。全然伝わらない。


 少しぐらい信用して欲しいし、もっと甘えて欲しい…。そう思っているのに。


(だんだんムカついてきた)


 剣を構えながらシュウを睨みつけた。


「制限時間は三分だ。その前にシュウが負けを認めたら、俺の勝ち。もし、三分過ぎても勝負がつかなかったら、そっちの勝ちでいいよ。あと、俺が負けたら護衛を降りる。条件はそれでいい?」


 そう条件を突きつけた。シュウが俺たちを巻き込みたくないと思っているのなら、この条件で乗ってくるだろうって思ったから。


「その条件なら…いいよ」


 予想通りの答えだった。だからこそ余計にイラついた。


「後悔するよ?俺…結構怒ってるから。今回は前みたいにはいかない」


 そう言ってシュウを相手に剣を構えた。


「うん…分かってる。じゃないと、実戦訓練にならないから…」


 睨みつけられているのに、シュウはいつもと同じだった。


(……絶対に一分以内で終わらせる)


…と、意地になってしまっていた。


 試合開始のブザーが鳴る。その瞬間シュウとの間合いを詰めた。


 武器を払い落とす為に、側面から叩こうと振りかぶった。それを完璧に見抜かれていた。

 振り抜いたつもりが受け流された。俺が剣を払い落とそうとすること、軌道まで完璧に読まれてた。

 しかも片手じゃ受けきれないと踏んでの両手持ち。

 俺の戦い方を授業中に観察していたようだ。思考や戦う時のクセを見抜かれている。

 でも、流すだけで弾くほどの力をシュウは持っていない。剣は俺の手にある。

 ただ、勢いよく剣を振り抜いたせいで、バランスを崩した。そこを狙われた。

 シュウが最小限の動作で、切り掛かってきた。

 反応できるスピード。逆に剣を弾いて距離を取った。


 チカラでは敵わないと分かっているシュウは、弾かれて吹っ飛んだままで距離を詰めようとはしない。


 勝負がつかなかったら俺は負ける。だからこそ、俺は攻撃するしかない。シュウはその攻撃してくる瞬間を待っている。

 力とスピードでは到底俺に敵わないシュウが、唯一出来ることといえば…カウンターしかない。


(それならそのカウンターを誘発するだけだ)


 シュウは受け流せはしても、弾く事はできない。流せる方向なんて俺の剣を振り下ろす軌道で完璧に読める。


 距離を詰める為に、トップスピードで突っ込んだ。

 シュウが剣を大きく振りかぶるように、上から降り下ろす攻撃だ。

 案の定シュウはそれを受け流す為に、両手を大きく上に翳した。

 その瞬間を狙って、身体を捻るとガラ空きになった脇腹に蹴りをくらわせた。


(まずっ…!!)


 メキっという鈍い音と共に、シュウは派手に吹っ飛んだ。

 肋骨が何本か折れた感触だった。大怪我を負わせないギリギリの力加減のはずが、思った以上のダメージを与えてしまった。


(壁に激突するっ…!!)


 それでもシュウは地面に剣を突き立てて、壁に身体を打ち付ける前に何とか止まった。

 突き立てた剣に寄りかかりながら、片膝をつき大きく咳き込んで吐血しているシュウを見て青ざめた。


「シュウっ…!!ごめっ!!」

「まだだからっ…っ!!」


 駆け寄ろうとする俺を静止するように大声をあげた。


「私はまだ…負けてない…っ」


 これ以上手荒な真似はしたくないのに、シュウは負けを認めない。…そうなると、今度は自分がシュウの護衛を降りなければいけなくなる。


(強情だろ?…もう立てないじゃん…)


 あんな条件を出してしまったことを悔やみながら床を蹴った。

 やけくそになった。間合いをすぐさま詰めると、突き立てられた剣を弾き飛ばした。

 体制を大きく崩したシュウの鳩尾を肘で打つと、シュウは簡単に腕の中に倒れ込んだ。それと同時に終了のブザーが鳴り響いた。


「…俺の勝ちだ…」


 そう呟いた所で正気を取り戻した。


(何やってんだ俺は!!!)


 腕の中のシュウは意識を無くしてグッタリとしている。それに、口の端から血が薄ら滴り落ちてる。

 折れた肋骨が内臓を傷つけたのかもしれない。 


「シュウ!!っ…大丈夫か?」


 天使族は自己治癒が働くはずだけど…。シュウのそれが、俺の自己治癒を凌駕しているとは考えにくい。


 今すぐに救護室に連れて行かないといけないけれど、こんな早朝に救護師がいるとは思えない。焦れば焦るほど冷静さを失っていく。


(ファリス!!アイツなら、もうすぐフィールド訓練に来るはずだ!!)


 慌てふためいた俺は、抱き抱えていたシュウの体を大きく揺さぶってしまっていた。


「っっ!」


 声にならない声と、苦痛に歪むシュウの顔にまた焦る。けれど…意識は取り戻したようだ。


「シュウっ…!!」


 俺の声にシュウは顔を歪めながらも、すぐさま自分の傷に手を翳している。

 治癒魔法の効果はすぐに現れた。脇腹の腫れも引いて、呼吸が整うまであっという間だった。


「もう…大丈夫だよ。心配かけて…ごめんね?やっぱりテル君はすごいね?足元にも及ばなかった…」


 シュウは視線を落としたままで口を拭いながら、そう呟いた。


「いや…。護衛対象者に大袈裟させる俺のどこがすごいんだ?シュウが無事で良かった」


 冷静になればなる程自分がしでかした事の重大さに顔を青ざめた。

 俺がシュウを殺してしまうとこだった。血のベッタリとついたシャツにいたたまれない気分になる。

 シュウのことになると調子が狂ってしまう。俺が俺じゃいられなくなる。


「…ごめん…とりあえず…今日はフィールド訓練休もうか……」


吐き捨てるようにそう呟いて、治ったばかりのシュウを抱きしめた。

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