2.嫌な予感(テル)
「おはようございます!」
俺たちに気付き、手を振りながら挨拶したのはのは『リウム』だ。
俺が教えてる中等部で最年少。小柄なのに、一番やる気もあって気も強い。
孤児だからゼルと同じようにこの学校の寮で暮らしている。それもあり、いつも俺より早く扉の前で待っている。
「おはよう。今日も一番乗りだな」
「はい!もうストレッチは終わりました!」
リウムは模造刀を背中に担ぎながら、ニコニコとその場で屈伸して見せた。
「おはよう。今日から私も一緒に参加させて貰います。よろしくね?」
俺の後ろに隠れるように立っていたシュウが声をかけた。
リウムは全く気付いていなかったみたいで、声をかけられた瞬間に目を丸くして、慌ててお辞儀している。
「すみません!テルさんが大きくて、全く見えませんでした…」
シュウは気にしないで?と、手を振りながらリウムの隣りへと歩み寄る。
カチコチに固まってしまったリウムを少しでも和ませようと、笑顔で「大きいよね?」と同意してる。
「ほ…本当ですよ!!どうやったらそんな大きくなるんですか?」
「それさ…さっきも言われた」
俺の上着を羽織っているシュウをチラリと見る。
視線に気付いたシュウは、にっこりと微笑みながらリウムの肩に手を置いた。
「よく食べて、よく寝てたんだって?」
「!!そんなことで、こんな巨大化します?」
「待て待て。人を化け物みたいに言うなって」
「ね?…絶対に無理だよね?」
「…まぁ…二人が仲良くなれそうで良かった。昨日話してた『天使族の子』ってリウムのことだから…」
リウムの背中を叩きながらシュウに伝えた。
「テル君から治癒魔法を教えてあげてって言われたの。よろしくね?」
リウムは青い瞳をまん丸に見開いて、色白な顔を赤く高揚させながら大きく「はい!」と、返事をした。
リウムは幼い頃イーターに親を殺されてしまったから…。自分の出生が良く分からないことも話していた。
聖力も少なく治癒魔法を使うと、すぐに疲れてしまうし、あまり得意ではないようだ。
治癒魔法を使うことは、聖力を増加させることに繋がる。
イーターとの戦いを望んでいるリウムは、その為に治癒魔法を使えるようになりたいと前に話していた。
「テルさん僕の話したこと…覚えてくれたんですか?」
「そっちは良くは分からないから。シュウに教えてもらえばいいよ。すごいから」
そんな話しをしていると、残りの中等部の子達も集まり始めた。
「うわっ!!美女がいる!!」
「あの時のっ…!!また来てくれたんですね!」
「やったーー!」
シュウを見つけて大声で叫び始めてしまった。
「コラ。真剣にやらないといけないだろ?もうすぐ剣術試験もあるんだから」
騒ぎ立てるみんなを何とか収めながら、練習ルームへとみんなで入って行った。
***
リウムがシュウと治癒魔法の特訓をしている最中に、俺は他の人達の剣術指導を行う。
そしたら、リウムにどうしてもタイムラグが生まれる。
「私がリウム君の剣術指導もするよ?」
シュウがそう言ってくれて助かった。
「よろしくお願いします!!」
リウムも目を輝かせてシュウに頭を下げているし。
「じゃあ、任せるよ」
たった一日でシュウとリウムの距離はかなり近くなった。こっちが妬いてしまうくらいの手取り足取り。朝練の最中シュウはリウムに付きっきりだった。
それもあってか、朝練が終わる頃には2人は打ち解けていた。
「リウム君すごく飲み込みが早いよ。次も、頑張ろうね」
「ハイ!よろしくお願いします!!シュウさんが来てくれて良かったです」
リウムは深くお辞儀をして、みんなと一緒に出て行った。シュウも、リウムの背中に微笑みながら手を振っている。
「ありがとう。シュウが来てくれたおかげで助かった」
「私もいい気分転換になった。…ありがとう」
「それなら……良かったよ」
(やっぱりいい気分はしないよな…)
24時間誰かに見張られているって思ったら、いい気分はしないよな。そんなことを考えながら、時計を見上げた。
大会の朝練が始まる迄には少し時間がある。
「少し休憩してからフィールド訓練に行こうか?」
と、隣りにいるはずのシュウに声を掛けたけれど返事は無かった。
気付くとシュウは、何故かルーム内の武器ロッカーへと向かっている。そしてそこから、二本の剣を取り出した。
(…嫌な予感がする)
「剣なんて取り出して…どうしたんだ?」
「私…狙われてるんだよね?お父様が24時間の監視をつけるくらいに。だから、私にも剣術の手合わせをして欲しいの」
「……さすがに生身の剣でやるのは危ないだろ?」
俺が剣を取り上げようとするのを、首を振って阻んだ。
「怪我をしてもいいって思ってるよ。だから…本気でやりたいの」
(気を抜いてた……)
警備の厳しい家からも脱走するような、シュウが俺に大人しく護られてるはずも無かった。
俺を見つめるシュウの視線は真っ直ぐで、強い意志をもっているような…覚悟を決めているような…そんな表情だった。
「…分かった…」
差し出された剣を受け取り立ち上がる。
そんな俺に、シュウは「ありがとう」と微笑んで剣を合わせた。
結局俺はシュウには甘い。




