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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
10.プリンセスのガーディアン

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1.護衛任務初日(テル)

 昨晩、『護衛をテル君に頼んだ』と、国王に聞いたシュウからいきなり連絡が入った。


 シュウはひたすらに謝り続けていたから。俺は気にしなくていいよと、電話越しに笑いかけた。


「学校のある日は、朝七時に迎えに行くよ」

「テル君…朝中等部の子と朝練してるよね?」

「気にしなくていいよ。どうにでもなるから…」

「…ダメだよ。これ以上、迷惑はかけられない…」


(そう言うと思った…)


 短い付き合いだけど、シュウの性格上何を言っても無駄だろう。

 ここで俺が「好きでやってるから」と言っても「仕事だから」と言っても、どのみちシュウは納得しないだろうから。


「じゃあ、朝練シュウも参加する?中等部の子に天使族もいるから。シュウはその子に治癒魔法を教えてあげて?」


 ちゃんと納得するだろうなっていう言い回しも考えておいた。


「…私も参加していいの…?」


(やっぱり食いついた…)


 シュウは面倒見のいいタイプだし。頼られ慣れてるからそう言った。

 予想通りの反応だとほくそ笑みながら、話を進める。


「もちろんだよ。むしろ、シュウが居てくれた方が助かる。ただ、迎えの時間が朝の五時からになるけど…」

「大丈夫だよ」

「それなら助かる。明日五時に迎えに行くから、準備しておいて?」


 予想以上に上手くいったと、胸を撫で下ろしながら、電話を切った。

 切ってすぐ、明日シュウを迎えに行く時間を国王に連絡して、王族直属のガーディアンとも連携をとった。

 我ながら、惚れ惚れする程の手際の良さだと、自分を褒めた。


(…………)


(まぁ…シュウが逃げ出さなかったらだけど…)



***



 一抹の不安を抱えながら、次の日の朝を迎えた。


 聳え立つ高い城壁を見上げた。外から中の様子は伺えない。


(どうやって、これを抜け出したんだ?)


 指定した時間通りお城に着くと、門の前に立っている、守衛に名前を告げる。


 守衛は腕の立つガーディアンだということは、一目瞭然だった。

 俺の僅かな動作すら見逃さないよう注視され、手は武器に添えられていた。

 俺の名前と身分証明書を確認すると、ようやく武器から手を離した。


「シュウ様をお呼びしますので、そのままお待ち下さい」


 ハイと返事を返して、緊張しながらシュウを待った。


「お待たせしました」という声と同時に門が大きな音を立てて開いた。


「おはよう。テル君」


 逃げ出さずちゃんと姿を現してくれた事にホッとした。


 今朝のシュウは普段と違う雰囲気だった。


「おはよう。シュウ」


 制服じゃなくて、薄着のトレーニングウェア姿。いつも下ろしている髪は高い位置でまとめたポニーテール。

 スタイルのいい身体のラインが出てるし…。華奢で白い頸が露わになっていて…。なんか、もう色々とそそられる。


(まずい…。ガン見してた…)


「じゃあ…行こうか?」

「そうだね?」


 微笑むシュウの手を引きながら、視線を逸らす。

 何となく照れ臭い。なんて思いながら、まだ薄暗い養成校への道のりを歩いた。


 早朝に二人で他愛のない話しをしながら歩く。朝は肌寒いなんて、言うシュウに、上着を羽織らせてあげた。


「ありがとう…。でも、前も思ったんだけど、これ大き過ぎて…私、服に着られてるよね?」


 顔を赤らめながら袖を捲し上げる。二回りほど大きい服の裾を伸ばして「ワンピースだ…」と笑ってる。


(可愛い…)


「何を食べたら、そんなに大きくなるの?」


「普通だよ。よく食べてよく寝てた」


「よく食べてよく寝てたけど、私はそんなに大きくならなかったな…」


「そう?」


 子供の頃のシュウのことは、何となく覚えてる。髪も短くて、身体付きも男の子そのものだった。


(面影…あんまり無い。それに…)


「大きくなったと思うけど…」


(胸が…)


「…ん…?」

「あ…ごめん…。何でもない…」


 護衛という仕事を任せられたはずなのに、浮かれて忘れてしまっていた。


(ダメだ…。調子狂う)


 俺の仕事はシュウを守ることであって、浮かれることじゃない。

 シュウを狙う敵は国王の弟やその差し金のイーター達。それと母の為に、お城を抜け出してまでイーターと戦おうとするシュウ自身だ。


 とりあえず今日の目標はどうやって、シュウがお城を抜け出したのかを知ることだ。


「そう言えば、昨日…お城を抜け出して来たんだな」


「…お父様から聞いたの?」


「聞いたよ。それ以外にも色々と。で、どうやってあれを抜け出したんだ?城壁高いし、守衛のガーディアンもいるのに」


 あくまでも声のトーンは変えずに、軽い感じで聞いてみる。


「たまたまだよ。抜け出そうと思ったわけじゃなくて…。たまたま、みんないなかったの。だから外出するって伝え忘れてしまってただけだよ」


(そんなはずがない…)


 国王が気をつけろと言うくらいだから、きっと何度もあったんだろう。


「あ…そうだ。私も、テル君に言わなきゃいけないことがあったんだ」


この話はおしまいとばかりに、話題を変えてきた。


「何?」


「お父様に、私たちが付き合っていること話してくれたんだよね?」


「ん…あぁ、そういえば…した…かな?」


「お父様…心配になる位に喜んでたよ」


「気に入られてるみたいで嬉しいよ」


 苦笑いを浮かべながら、これ以上は聞けないことを悟った。


(やめた…発想の転換をしよう)


 逃げ出した方法が分からないなら、シュウの居場所を常に分かるようにしとけばいい。


(GPSでも付けるか)


 それには、肌身離さず持っている物じゃないと意味がない。

 ここは、自分の『彼氏』という立場を最大限に利用するしかない。


(リングにGPS付けてプレゼントを…ダメだな)


 シュウは俺の事を警戒してる。渡した所で多分身に付けない。


 どうしようかと、自問自答を繰り返していた。


「中等部のこ達って、もうすぐ武術試験だよね?」


「あぁ…。そうだな。演武の型の練習もするよ」

「そっか…。懐かしいな。武術は習ってたの」

「武術…好きなんだ?」

「好きだよ。演武の型は全部覚えてるの。だけど、手合わせすると弾かれちゃうから…実戦では使えないけどね」

「演武の型覚えてるんだ…すごいな。それなら、中等部の奴らの相手になってあげてよ?」


「え……いいのっ!?」


 顔をあげたシュウは、パァァっという効果音が聞こえてきそうなくらい、表情が華やいだ。


「むしろお願い。俺も久しぶりで、忘れてる所あるし…」


「うん、大丈夫だよ。…久しぶりにできるから嬉しい」

「それは良かった」


 そんなことで喜んで貰えるなんて、思って無かった。「早く行こう?」と、手招きしながら俺の前を歩いていく。


「テル君…」

「ん…?何?」

「…色々とありがとう」


 照れ笑いを浮かべて、微笑んでるその顔に俺がやられた…。


「…っ。こちらこそ」


 真っ赤になった顔を覆いながら、そう言うのが精一杯だった。

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