1.護衛任務初日(テル)
昨晩、『護衛をテル君に頼んだ』と、国王に聞いたシュウからいきなり連絡が入った。
シュウはひたすらに謝り続けていたから。俺は気にしなくていいよと、電話越しに笑いかけた。
「学校のある日は、朝七時に迎えに行くよ」
「テル君…朝中等部の子と朝練してるよね?」
「気にしなくていいよ。どうにでもなるから…」
「…ダメだよ。これ以上、迷惑はかけられない…」
(そう言うと思った…)
短い付き合いだけど、シュウの性格上何を言っても無駄だろう。
ここで俺が「好きでやってるから」と言っても「仕事だから」と言っても、どのみちシュウは納得しないだろうから。
「じゃあ、朝練シュウも参加する?中等部の子に天使族もいるから。シュウはその子に治癒魔法を教えてあげて?」
ちゃんと納得するだろうなっていう言い回しも考えておいた。
「…私も参加していいの…?」
(やっぱり食いついた…)
シュウは面倒見のいいタイプだし。頼られ慣れてるからそう言った。
予想通りの反応だとほくそ笑みながら、話を進める。
「もちろんだよ。むしろ、シュウが居てくれた方が助かる。ただ、迎えの時間が朝の五時からになるけど…」
「大丈夫だよ」
「それなら助かる。明日五時に迎えに行くから、準備しておいて?」
予想以上に上手くいったと、胸を撫で下ろしながら、電話を切った。
切ってすぐ、明日シュウを迎えに行く時間を国王に連絡して、王族直属のガーディアンとも連携をとった。
我ながら、惚れ惚れする程の手際の良さだと、自分を褒めた。
(…………)
(まぁ…シュウが逃げ出さなかったらだけど…)
***
一抹の不安を抱えながら、次の日の朝を迎えた。
聳え立つ高い城壁を見上げた。外から中の様子は伺えない。
(どうやって、これを抜け出したんだ?)
指定した時間通りお城に着くと、門の前に立っている、守衛に名前を告げる。
守衛は腕の立つガーディアンだということは、一目瞭然だった。
俺の僅かな動作すら見逃さないよう注視され、手は武器に添えられていた。
俺の名前と身分証明書を確認すると、ようやく武器から手を離した。
「シュウ様をお呼びしますので、そのままお待ち下さい」
ハイと返事を返して、緊張しながらシュウを待った。
「お待たせしました」という声と同時に門が大きな音を立てて開いた。
「おはよう。テル君」
逃げ出さずちゃんと姿を現してくれた事にホッとした。
今朝のシュウは普段と違う雰囲気だった。
「おはよう。シュウ」
制服じゃなくて、薄着のトレーニングウェア姿。いつも下ろしている髪は高い位置でまとめたポニーテール。
スタイルのいい身体のラインが出てるし…。華奢で白い頸が露わになっていて…。なんか、もう色々とそそられる。
(まずい…。ガン見してた…)
「じゃあ…行こうか?」
「そうだね?」
微笑むシュウの手を引きながら、視線を逸らす。
何となく照れ臭い。なんて思いながら、まだ薄暗い養成校への道のりを歩いた。
早朝に二人で他愛のない話しをしながら歩く。朝は肌寒いなんて、言うシュウに、上着を羽織らせてあげた。
「ありがとう…。でも、前も思ったんだけど、これ大き過ぎて…私、服に着られてるよね?」
顔を赤らめながら袖を捲し上げる。二回りほど大きい服の裾を伸ばして「ワンピースだ…」と笑ってる。
(可愛い…)
「何を食べたら、そんなに大きくなるの?」
「普通だよ。よく食べてよく寝てた」
「よく食べてよく寝てたけど、私はそんなに大きくならなかったな…」
「そう?」
子供の頃のシュウのことは、何となく覚えてる。髪も短くて、身体付きも男の子そのものだった。
(面影…あんまり無い。それに…)
「大きくなったと思うけど…」
(胸が…)
「…ん…?」
「あ…ごめん…。何でもない…」
護衛という仕事を任せられたはずなのに、浮かれて忘れてしまっていた。
(ダメだ…。調子狂う)
俺の仕事はシュウを守ることであって、浮かれることじゃない。
シュウを狙う敵は国王の弟やその差し金のイーター達。それと母の為に、お城を抜け出してまでイーターと戦おうとするシュウ自身だ。
とりあえず今日の目標はどうやって、シュウがお城を抜け出したのかを知ることだ。
「そう言えば、昨日…お城を抜け出して来たんだな」
「…お父様から聞いたの?」
「聞いたよ。それ以外にも色々と。で、どうやってあれを抜け出したんだ?城壁高いし、守衛のガーディアンもいるのに」
あくまでも声のトーンは変えずに、軽い感じで聞いてみる。
「たまたまだよ。抜け出そうと思ったわけじゃなくて…。たまたま、みんないなかったの。だから外出するって伝え忘れてしまってただけだよ」
(そんなはずがない…)
国王が気をつけろと言うくらいだから、きっと何度もあったんだろう。
「あ…そうだ。私も、テル君に言わなきゃいけないことがあったんだ」
この話はおしまいとばかりに、話題を変えてきた。
「何?」
「お父様に、私たちが付き合っていること話してくれたんだよね?」
「ん…あぁ、そういえば…した…かな?」
「お父様…心配になる位に喜んでたよ」
「気に入られてるみたいで嬉しいよ」
苦笑いを浮かべながら、これ以上は聞けないことを悟った。
(やめた…発想の転換をしよう)
逃げ出した方法が分からないなら、シュウの居場所を常に分かるようにしとけばいい。
(GPSでも付けるか)
それには、肌身離さず持っている物じゃないと意味がない。
ここは、自分の『彼氏』という立場を最大限に利用するしかない。
(リングにGPS付けてプレゼントを…ダメだな)
シュウは俺の事を警戒してる。渡した所で多分身に付けない。
どうしようかと、自問自答を繰り返していた。
「中等部のこ達って、もうすぐ武術試験だよね?」
「あぁ…。そうだな。演武の型の練習もするよ」
「そっか…。懐かしいな。武術は習ってたの」
「武術…好きなんだ?」
「好きだよ。演武の型は全部覚えてるの。だけど、手合わせすると弾かれちゃうから…実戦では使えないけどね」
「演武の型覚えてるんだ…すごいな。それなら、中等部の奴らの相手になってあげてよ?」
「え……いいのっ!?」
顔をあげたシュウは、パァァっという効果音が聞こえてきそうなくらい、表情が華やいだ。
「むしろお願い。俺も久しぶりで、忘れてる所あるし…」
「うん、大丈夫だよ。…久しぶりにできるから嬉しい」
「それは良かった」
そんなことで喜んで貰えるなんて、思って無かった。「早く行こう?」と、手招きしながら俺の前を歩いていく。
「テル君…」
「ん…?何?」
「…色々とありがとう」
照れ笑いを浮かべて、微笑んでるその顔に俺がやられた…。
「…っ。こちらこそ」
真っ赤になった顔を覆いながら、そう言うのが精一杯だった。




