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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
9.新たな依頼

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10.新月の襲撃(テル)

 俺たちの秘密を打ち明けたその夜…。俺とユリア、そしてレイが何故か国王から呼び出された。

 その連絡を受けたのは、話がひと段落してみんなが帰った数時間後だった。


 俺が連絡した時にはレイは寝てて…。無理矢理起こして、国王から呼ばれていることを伝えた。


(もちろん、ユリアから連絡させた。俺だと電話に出ない危険性があったから)


 その後合流した時も、レイはかなり不機嫌で「あの国王、狂ってる」と、ずっと文句を言っていた。


「レイ…疲れているのは分かるけど…。国王陛下の前でその態度はダメだよ?」


 そんなレイを嗜めながら、(嗜めてたのはユリアだけど)指定された宮殿の大広間に向かうと、国王が「やぁ」と出迎えてくれた。


「深夜の戦いから休みなく連絡してごめんね…三人とも…」

「本当…人使い荒すぎ……」

「うわー!!!ごめんなさい!だっ…大丈夫です!!疲れてません!!」


 俺より速くユリアが被せて謝っている。いつものことなのか、そんなレイの態度も国王は笑いながら軽く流してる。


「今日呼び出したのは、君達に依頼したい事があって…」

「嫌です」


「……レイ君、話を聞く前に断るのやめてくれないかな?それに、断ったら後悔すると思うよ?」


「それに騙されないから。大抵大量のモンスター討伐に駆り出されるだけだし。俺はイーターとしか戦わないって言ってんのに」


 俺と同じようにレイも国王から直で依頼が来ているようだ。


(まぁ、それはいいとして…)


「…レイは放って置いてください。話が進まないので。それより依頼内容は何ですか?」


 国王は「そうだね」と、咳払いをしてから俺とユリアに向き直った。


「まずはテル君とユリアちゃんへの依頼だけど…」


 いきなり名前を呼ばれて、ユリアは返事をした声が裏返るほど焦っている。


「その内容はシュウの護衛だよ…」


「俺と…ユリアに…ですか?」


 俺たちがシュウの護衛にしようとする意図が分からなかった。

 お城にはプリンセス専属のガーディアンもいる。そもそもプロなんだから、そっちの方が護衛だって慣れているはずだ。


「あの…それは、王族直属のガーディアンの方がいいんじゃ…?」


 ユリアがもっともなことを、恐る恐る国王に尋ねている。


「俺も…そう思います」


 国王は「事情があってね…」と、呟いて悲しそうに視線を逸らした。


「…約八年前の『新月の襲撃』って事件知ってるかな?」


 国王に問われて頷いた。


 有名な話だ。イリヤが不在だった新月の夜に起こった急襲。

 ザレス国の王『ロード』がイーターとモンスターの大群を引き連れて、城を襲撃した事件だ。その急襲で当時の国王と王妃が殺された。


「知っていますが…何の関係があるんですか?」


 俺が問うと、国王は遠い目をしながら窓の外を見つめた。


「関係大有りなんだよね。全てはあの日…僕の両親と弟、それにミーナとシュウが襲われてしまったことが元凶だからね…」


「国王陛下の弟?」


 ユリアが不思議そうな顔で問いかけた。


「何で知らないんだ?国王陛下には十五歳下の弟がいる。…ただ、行方不明になっているんですよね?」


「…そうだね。公にはね…?」


 弟が行方不明になった理由は、新月の襲撃でイーターに殺された、両親の敵討ちの為だと聞いている。

 その為に五年前に単独でザレス国を目指した。だけどそれ以降消息不明となった…はずだ。


(それが真実じゃないのか…?)


「その弟が…今回の護衛を君達に依頼する理由だよ。少し長くなるけれど…聞いてくれるかい?」


 国王は懐かしく、そして辛い思い出を思い出すように目を閉じると、俺たちに視線を移して微笑んだ。


 俺とユリアが目を合わせてから頷くと、国王はゆっくり口を開いた。


「あれは完全に僕の采配ミスだった」


「『新月の襲撃』が起きたあの日…僕はガイア君と共にミシア王国の援軍に向かっていたんだ。ザレス国王軍から攻撃を受けていてね。その状態でブルームン王国の城を襲撃してくるとは思わなかった」


 その時のことは覚えている。父さんは俺に「ユリアと母さんを守って、絶対に外には出るな」と、連絡してきた。


(だからあの日…俺は眠れずにいた)


 ユリアを不安にさせないように、母さんがお城に向かうことのないように。そして俺の不安が勘付かれないように…必死に表情を取り繕った。


「そういえば…両親が慌てて城に向かって行ったな。俺たちに外に絶対出るなって…そう言ってた…」


 レイも呟いた。分からないという顔をしているのはユリアだけだ。


「そう。城のガーディアンから『ロード』が大群を率いて押し寄せたと、連絡を受けて…。一番に駆けつけてくれたのはオスカさんだった。でも、その時には城の中までイーターやモンスターが傾れ込んでいた」


 オスカですら中に入るまでに時間がかかった。その間、城内を守る為に一線で戦い、ガーディアン達の指揮をとっていたのは妻のミーナだった。


「王妃が…?」


 思わず呟いてしまった俺に、国王は「そうだ」と頷いた。

 

「そしてイーターの狙いは、当時の国王とミーナだった」


 ロードは力を付けてきた、ブルームン王国が邪魔で仕方がなかった。

 でも、僕を直接倒すことは難しいと踏んだ。だからこそ、別の方法で国を混乱させて叩こうとした。

 

「国政を行っていたのは僕だったけれど…。国民から絶対的な信頼を得ていたのは国王の父だったからね」


「…ミーナ王妃は…どうして…?」


「それはね…。僕が自分の命よりもミーナが大切だと言うことを『ロード』が知っていたからだよ」


 勘の鋭いミーナは急襲の中で、ロードの狙いは自分と国王だと気付いた。それなのに、ミーナは逃げも隠れもしなかった。

 シュウと僕の弟を自分と国王から離すように指示を出し、城に残った人々を安全な場所へと移動させた

 そして自ら襲い来るイーターを倒し、国王の救出へと向かったんだ。


「城内に一番にたどり着いたのは、ジーナさん。でも、遅かった…。あっという間の襲撃で、その頃にはロードは目的を果たして撤収していたんだ」


「それって……」


 イリヤ国王は小さく頷いた。国王夫妻はロードの手によって殺され、そしてミーナは腹を貫かれて、まだ息のある状態で壁に張り付けられていた。


「!!ーーっ!!」

 隣りにいたユリアが口元を抑えて涙ぐんでいる。


「ロードはイーターの王。イーターには、感情は無い。でも、王のロードには感情も存在する。だからこそ、ミーナを生きたまま張り付けにして、それを見せつけることで、僕に再起不能なダメージを与えようとしたんだ…」


 あまりの残酷さに、俺たちは息を飲んだ。あの日…そんな事になっていたなんて知らなかった。


(公の場に王妃が出て来ない理由って、悪魔族のハーフだとバレないようにする為だと思ってたけど…まさか…)


「…あの…ミーナ王妃は…?」


「…無事だよ。ジーナさんの発見が早かったからね…」


 悲しそうに微笑みながら、国王は話しを続けた。


「僕が駆けつけた時、オスカさんがシュウと僕の弟の無事を伝えてくれた。そして、ミーナが危険だと言うことも。だから二人に会うよりも先にミーナの元へ向かったんだ」


 目にしたミーナは左足を無くして…ズタズタに切り裂かれて…。いつ息を引き取ってもおかしくない状態だった。


「それなのに、治癒魔法をかけている最中も、ミーナは「国王夫妻を守れなくてごめんなさいシュウと僕の弟は無事?」って…息絶え絶えにそう聞くんだ…」

 

 ミーナは左足を失いながらも、シュウと僕の弟を守った。そして、二人の無事を心配してくれていたんだ。

 そんなミーナを失いたくなくて、十日間…寝ずに治癒魔法をかけ続け、何とか遠げは越した。

 失った足は戻らないけれど、半年後には何とか動けるまでになった。


「だから、心配は要らないよ。今は普通に生活しているよ」


「…それなら良かったです…」


「ごめん。余計な心配をかけたね?」


 謝る国王に向かって首を振りながら、ただ茫然と考えた。

 

 俺はシュウのこと何も分かっていなかった。


 いつも微笑んでいるシュウは、沢山の傷を負っていること。

 それを悟られないように、みんなにら凛とした表情を見せて、強い自分でいようと必死だったんだ。

 優しく包み込んでくれるような笑みを浮かべながら、どれだけの傷を抱えていたんだろう。


(俺は……バカだ……)


 そばにいてくれるだけでいい何て思ってしまった自分が情けなかった。

 シュウが「守りたい」と言ってくれたように、俺もシュウの傷を少しでも癒せるようになりたい。


 そう思いながら俺は真っ直ぐに国王を見つめた。


「教えて下さい…。シュウの護衛を俺達に頼む理由と…その敵を…」

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