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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
9.新たな依頼

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5.魔力吸収(ユリア)

 テルは朝のルーティーンだと言って、養成校へと行ってしまった。

 私はそんな体力おばけのテルとは違うから…。制服を取りに行くと言ったレイと一緒に家に帰ることにした。

 思い足取りで家に着いくと、レイと一緒にリビングへと入った。

 制服をレイに渡さないといけないのだけど…。


(イーターの返り血を浴びてベトベトになってしまった身体で制服は触れないよね)


「ごめん…先にシャワー浴びてもいいかな…?」

 

 本当はすぐに制服を返して、レイを家に帰らせてあげたいところだけど…。


(このままじゃ…何も出来ない)


 魔法攻撃が基本のレイは比較的に綺麗だし。それなら、レイに部屋で待っててもらう方がいいかなって。


「いいよ…。それとも俺も一緒に入る?」


「…入らないよ…。リビングで待ってて」


 全力でふざけてくるレイを軽く流した。


(テルもレイも…二人共なんでこんなに元気なの?)


 シャワーを浴びて戻ると、今度はレイが「俺も入りたい」と言うから、貸してあげた。


(……お腹……空いた……)


 もうすぐ六時になろうとしてる。丁度朝食の時間だ。


(レイがシャワーを浴びている間に作っておこうかな…)


 思い立って卵とベーコンを焼きながら、さっきの討伐のことを思い出した。


 初めての討伐は甘くなかった。命の危険と隣り合わせ…。現に今日は三人も犠牲者がでてしまったし、フーディアはガーディアンの道を断たれてしまったし。


 なんの覚悟もなく行ってしまった自分の浅はかさに大きなため息をついた。

 

(…私も…レイがいなかったら多分死んでたよね…)


 レイはイーターの戦いでもいつも通り冷静に助けてくれたし。

 ガーディアンじゃないのに、場数を踏んでいるからみんなにも頼られてたし。


(なんていうか……カッコよかったな……)


 なんて照れながら、冷蔵庫からセロリを出してまな板の上に置いて、ナイフを取り出した。


ピンチの時の助け方とか。

さりげないフォローとか。

真剣な眼差しとか。

抱き寄せられた腕の強さとか。

耳元でささやく声とか。

切長の目とか。

薄い唇とか…


「…………」


(…違う違う……)


 頭を振りながら、そんなことを考えている自分にツッコミを入れた。


「っ……!!」


 『ザクッ』と言う嫌な音と、指先に感じる痛みに、慌ててナイフを置いた。


 「痛い…っ」と、恐る恐る傷口を確認した。結構深い。指先から流れた血は、手首を伝い肘の方まで流れ落ちている。


(…色々と痛い…)


 そばにあったタオルを手にとり傷口を押さえて、ため息とともに床にうずくまった。


(もう…やだ。多分疲れてる…)


 うずくまると同時にリビングの扉が開いた。

 タイミング悪く、レイがシャワーを浴びレイが髪を拭きながら「あれ?…ユリア?」と、不思議そうに私のことを呼んでいる。


(恥ずかしすぎる……)


 うずくまっている所を見つかってしまった。


「ユリア…何でそこに?」


「な、何でもない…」


 なんとなく手を隠した。指を切った理由が『レイがカッコよかった…』て、思い出してたからだなんて、自分が恥ずかしすぎる。

 

「…何か隠した?」


「べ…別に何も隠して…」


 と、言い終わる前に手を取られた。レイは血が伝う腕を見て目を丸くしてる。


「…切った?」


 心配してくれているだけなのに。自分とシャンプーの香りのする濡れた髪が色っぽい。なんて、その横顔に見惚れてしまった。


(……じゃなくて!)


「全然平気だよ!血の割には大したことないよ……っ!あ!」


「うわ…結構深い…」


 いつの間にか、傷口を抑えていたタオルは取られてしまっていた。

 レイの瞳は私と視線を合わせたままで、血が滲んだ指先に唇を近づけた。

 近すぎてクラクラする。濡れた髪から滴る雫と吐息が指にかかる。

 

「んっ…」


 指先に感じる生温かい舌の感触に声が漏れてしまった。

 恥ずかしさで顔が熱くなった。聞こえてないように祈りながら、口をふさいで顔を逸らした。きっと耳まで真っ赤になってる。


「……何?そんな声だして煽ってる?」


「あ……煽ってな…っん…」


 私の反論は、レイの唇に阻まれてしまった。

 食らいつくような激しいキスと共に、押し倒されてしまった。

 指先の痛みとか…。ここがキッチンで、押し倒された先がフローリングで、背中が痛いな。とか?

 全部いいやと思いながら、レイの背中に腕を回して受け入れてしまう。


「…あのさ…」


唇を繋ぐ銀糸を拭いながらレイが呟いた。


「…どこまでなら大丈夫?」

「…どこまで…?」


何のことかわからず、荒い息遣いのままでレイを見つめた。


「セイレーンの魔力吸収はどこから?サキュバスは粘膜から魔力を吸収するから、唇とか粘膜とかで…」


蕩けた思考の中に『サキュバス』って言葉が響いて、一気に現実に引き戻された。


「ちょ…!ちょっと待って!サキュバスのことは言わないで!」


 思わず半身をおこして、覆いかぶさっているレイの口を塞いだ。レイは目線でごめんと謝ってきたけど、頬を膨らませて顔を背けた。


(でも…確かにどこからだろう…)


 サキュバスと同じ?でも…違う気もする。何となくレイと身体を合わせたときに、気付いてしまったことがある。

 レイから魔力が流れてきたのは、意識を飛ばしてしまった後だった。


「あの……多分…。私の理性がとんじゃった時に…じゃないかな…と。その後にレイの魔力が流れ込んできて、身体が温かくなったから」


「…え…?」


 言ってから恥ずかしくなった。自分で何言ってるんだろって。レイも目を丸くしているし。


「魔力が流れ込んできたって分かるんだ」


 恥ずかしいなんて、うつむく私に対してレイは冷静に問いかけてきた。

 視線をそらしながら「そうだよ」と、頷いて両手で顔を覆った。


「…その…でも、それは私の中で混ざり合わなくて…その魔力をうまくコントロールできないっていうか…」


 私の言葉に、レイは何かを考えて「うん」と、納得してから顔を上げた。


「…そこまで認識できてるなら何とかなるかも」 


「…え…?うわっ…」


 目を合わせるといたずらに笑って私を抱き上げる。レイはどこか楽しそうだ。


「何となく分かった。試してみようか?」

「何を!?」

「魔力吸収後のコントロール。俺が教えるから…?」


(どういうこと!?!?)


 横抱きで抱きかかえられた。

 

「…ま、待って朝食は?」

「後でいい」

「…テルが帰って来るよ?」

「それは大丈夫。あいつがこんなに早く帰ってくるはずないから」

「!!」

 

 今から何をする気なのか、何が分かっているのか。聞きたいことは色々あるけど、考えているうちに部屋に着いてしまった。

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