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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
9.新たな依頼

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3.贖罪②(テル)

「セイレーンを守って死にたい」


 俺を見上げて迷いもなく強い口調だった。

 

「そんなこと!…シュウがする必要なんてない。それに…そのセイレーンはもうこの世にはいない。それに助けられた後は王妃に感謝して幸せに暮らしてたから…」


「……何でテル君がそんなこと言うの?セイレーンはまだ見つかってないはずだよ」


その声は驚いてなんていなかった。


「それにセイレーンには子供がいる。もし、助けられたセイレーンがこの世にいないのなら…私はその子供を守りたいよ」


 何なら少し微笑みすら浮かべて、全てを見透かしているように言った。


 俺の逃げ道を作ってくれている。「そう思っただけ」って誤魔化したらなら、きっとシュウは追求してこない。


(あの時もそうだった…)


 教室でケンカをした時も、実戦ルームのトラブルの時も、俺の行動を先回りして気遣うんだ。


 そのせいで自分が犠牲になることなんて、全く気にしてない。人のことは躊躇いなく庇い、自分の不利益は甘んじて受け入れるくせに。


(自分の秘密は簡単に話すくせに…。俺の秘密は秘密のままでいいと思ってるんだろうな)


 俺が話さなかった理由はシュウを巻き込みたくは無かったから…だ。本人が気付いているのなら、隠す必要なんてどこにも無い。

 

「もういいよ。俺たちの秘密にシュウも気付いてるんだろ?俺の母はセイレーンで…ユリアはその力を受け継いでる」


 シュウは小さく頷いた。今考えたら、シュウが気づかないわけがない。

 治療経験も豊富だし、再生能力を持ってる種族は限られてるし。


「いつから気付いてた?」


「違和感は実戦ルームの時。確信したのはテル君が大怪我したって家呼ばれたときかな…。あれは普通の人だと死んでた」


 確かにあの時も、普通の人なら死んでたって言われた気がする。

 自己再生能力を持つ神族なんて、限られてしまうからそこからバレたんだ。


(俺のせいか…)


 それに…何となく、俺の告白を受けてくれた理由もわかった。タイミング的に、シュウが俺の正体に気付いたからだ。

 セイレーンの子供の俺が好きだと言ってきたから。『いいよ』と、言ってそばにいることが贖罪になると思ったんだろう。


(返事を出した時期的にも…多分俺の予想は合ってるだろうな)


 悲しくは無かった。それでもシュウは俺のそばにいることを選んでくれたんだから。


「それにレイ君、ユリアが編入してすぐずっと拒んでいたガーディアンになってもいいって、お父様に言っていたのを聞いたから…」


 考えこむ俺にシュウはまた呟いた。


「それに何の関係が…?」


「セイレーンが見つかるまで、ガーディアンにはならないって言ってたの。自分のなりたいのはセイレーンのガーディアンだからって…」


(……全部レイのせいじゃん!)


 頭を抱えてため息をついた。ユリアを守りたいとか言ってるくせに、行動がバレバレだし、俺の大怪我もアイツのせいだ。


(やっぱりアイツバカだ。とりあえず次会ったらぶん殴ろ…)


「…でも…私ね…二人が私の探してたセイレーンの子供で嬉しいの」


「何で?」


「守りたい人が知らない誰かじゃなくて、テル君とユリアなら嬉しい」


 全てを受け入れて聖女のような晴れやかな顔で微笑んでいる。


(そんな表情でいう言葉じゃないだろ)


「シュウの『守りたい』に、俺も入ってるんだ」


 嫌味のつもりで言った言葉だったのに、シュウは不思議そうに俺を見つめた。


「当然だよ。テル君もセイレーンの子供だよ。…だから私はテル君を守って死にたい」


 何の迷いもなく、凛とした表情で当然のことのようにシュウはそう答えた。


(あぁ…。シュウのそういうところが好きなんだ…)


 俺は幼い頃からユリアを守る為に産まれて来たとずっと思っていた。


 それがセイレーンの力を持たず、その力が効かない俺の役目だと思っていた。

 俺には守らないといけないチカラはない。だからこそ、いざとなったらユリアの為に命をかける。そう思って生きてきた。

 自分の命はかけるものではあっても、守ってもらうものじゃ無かった。


 それなのに、シュウはそんな俺を守って死にたいと言ってくれた。凛とした笑顔を見せて…。


(……させないけど……)


 その笑顔が愛おしい。シュウの頬を両手で包みこみ、額を合わせた。

 いきなりの俺の行動に目を丸くして見上げているけど…もう止まらない。


(…余計…好きになった)


 今はいいよ。『セイレーンの子供』だから、そばにいようと思ってくれたのだとしても。


 俺の告白を受けてくれた理由がそれなら、シュウは俺以外の誰にもなびかないのだから。


「…目…閉じなくていい?」


 そのふっくらとした、ピンク色の唇を親指でなぞった。


「…え?」


 戸惑ってるシュウに顔を近づけた。その顔も可愛い。


(絶対に…誰にも渡したくはないな…)


 なんて自分勝手に唇を重ねた。触れた瞬間にシュウの身体が強張ったのが分かったけれど、別にいいやと長めに唇を重ねた。


「ん…っ……」


 息を止めているのか、顔が真っ赤になってしまっている。


(……可愛い……)


 この自制の効かない感じも二回目だな。何て冷静に考える自分はやっぱりちょっと疲れてる。


 唇を離すと「ぷはっ」と大きく息を吸いながら、固まっているシュウを抱き寄せた。


「俺はシュウが大切だから…俺を守るために死なせたくないから、そのお願いは聞けない」


「…はぁっ…はぁっ……え…?…どうして…?」


「気付かなかった?シュウが好きだからだよ」


「!!!」


 何故かすごく驚いている。さっきよりも真っ赤にして、俺のことを見上げるから笑ってしまった。


「甘え下手で強情でさ…。なんでも1人で抱え込んで空回りしてるシュウが好き」


「……それって……好きな所になるの?」


「物好きだね」と呟きながら唸ってる。


 好きな子をいじめる子供の気持ちがよく分かる。色んな表情を見たくなる。シュウの頬に触れて真っ直ぐに目を見つめた。


「まだあるよ。正義感強くて誰にでも優しい所。治療の時の真剣な顔も、不意に見せる笑顔も。見透かすような視線も…とりあえず、全部好きだよ。言い出したら多分日が暮れるけど…聞きたい?」


「…大丈夫…です」


 呆然としているシュウの額にキスをすると、立ち上がり背伸びをした。


「この話はお終い…腹減った。シュウは?」


「!!…お、お腹?そんなに空いてな…」


言い終わらないうちに、シュウのお腹が大きな音で鳴った。


「…聞こえた?」


 お腹を押さえて、顔を赤らめているシュウが可愛い過ぎて直視できない。

 笑いを堪えながらシュウの手を取った。


「もうすぐカフェが開くから、一緒に食べようか?」


 シュウは諦めたのか、大人しくうなずき立ち上がった。

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