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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
9.新たな依頼

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1.お願い(テル)

 終了予定時間より大分遅れての解散だった。時計の針はすでに午前四時を回っていた。


「じゃあ、俺は朝トレに向かうから」


 そう、みんなに伝えてルーティーン化している朝のトレーニングに向かう為に養成校へ向かうことにした。


「家には帰らないの?」


「この時間だと、帰ってから戻る方がキツイ。養成校にはシャワーもあるし、コンビニだって併設している。それに、着替えもあるから困らない」


 そう伝えて別れた後、コンビニで適当に飲み物を買い、いつも通り守衛室に向かった。

 いつものおじさんが「おはよう」と、いつにも増してニヤニヤしながら声をかけて来た。


(なんだ…?)


「先にシャワー浴びたいから、更衣室の鍵も借りていい?」


「ああ…。血みどろだもんな。いいよいいよ。更衣室の鍵なんていくらでも貸してやるよ。…でもまぁ、あまり待たせてやるなよ?」


そう言ってニヤニヤ笑って鍵を渡してきた。


(待たせるな……?)


 その表情にも、その言葉にも、何が隠されているのか分からなかった。けど、突っ込むのも面倒で何も言わずに更衣室へと向かった。


 シャワーで身体に付いた血を洗いながし、イーター討伐で破れてしまった服を着替えた。


(討伐用の服…新調しないとな…)


 なんて事を考えながら練習場へと向かった。今日は中等部の子達は居ない。だから、少しくらい時間に遅れてもどうってこと無い…はずなのに。

 借りている練習場の扉の前に立っている人影が見えた。


(…休みの日の早朝に誰だ?)


 逆光で見えなかったシルエットがはっきりした瞬間、驚いて大声を出してしまった。


「シュウ!!」


 駆け寄る俺を見つけると、シュウは微笑みながら手を振った。


「おはよう。イーターと戦った後なのに、朝の自主練も休まないんだね?」


 シュウは笑顔を浮かべている…。けれど声が笑ってはいなかった。

 俺に会いたくて来たわけじゃなさそうだ。


 時計は五時過ぎを指している。イーターと戦った事を知ってることも謎だけど。


(それよりも…)


「ルーティン化してて、やらないと気持ち悪くてさ…。シュウはなんでここに…?」


 練習室の鍵を開けながら聞くと、シュウは「そうだね…」と微笑みながら中へ入った。


 何となく…。いつもと様子が違う。荷物を床に置きながら、視線をシュウへ移した。


(…武器を装備してる…)


 違和感の正体は、腰に下げられた短剣と銃だった。いつもはそんな物装備していない。

 実戦のテストか実戦ルームに行く時だけで、校内で武器を持っている所なんて見たことなかった。


(シュウもモンスターの討伐に呼ばれていたのかもな…)

 

なんて思っていると、シュウは俺に銃口を向けてきた。


「実戦訓練をお願いしたくて…テル君に一撃でも入れられたらお願い聞いてくれる?」


「お願い…?…何で」


 話している最中だったのにパンッと銃声が響いた。

 顔の真横にを銃弾がかすった。シュウは涼しい顔で銃弾を補充する。


「安心して。銃に入ってるのはゴム弾だから。それに私との実戦訓練なんて、疲れてる位がちょうどいいでしょう?」


 付き合いは短いけれど、なんとなくわかる。シュウが凛とした表情を見せる時には、「嫌だ」と言ったところで無駄だということを。


「…分かったよ…」


 背中の大剣を構えた。もちろん鞘にロックをかけた状態で…だけど。

 シュウの攻撃は全部受け流すし、こっちからは仕掛けない。

 構えると同時にシュウが体制を低くして、突っ込んできた。

 体格差があるから簡単に懐に入られた。

 構えていた銃ではなく、逆の手に持った短剣を少ない動作で振るった。

 確実に急所を狙って振り下ろされたその刃をギリギリでかわす。


「これを避けるんだ…流石だね」


 距離を取る為に後退した俺に向かって、銃をかまえながらそう呟いた。


「こっちのセリフだよ…」


 部隊での天使族の役割は治癒と後方支援であって、前線に立って突っ込んでくる奴なんていない。


「言ってなかったけど、(こっち)は本物だよ?傷ついたら治療はするね」


 そう言って微笑むと右手に持った銃の銃口を向けた。


「…物騒だな…」


 呟く俺に向かって、何の躊躇もなく引き金を引く。

 

 1、2、3発…大剣で捌いた。銃は弾切れになったはずだ。

 その隙に死角から厄介な『銃』を奪う為に、シュウの背後に回りこむ。

 それを阻止しようと、シュウも動いた。動きながら器用にリロードして、銃口を向ける。

 シュウの狙いは正確で、さっき捌いた弾丸も確実に急所の眉間を捉えて撃ってくる。

 ゴム弾と言っても威力はある。当たると痛いし、至近距離だと気を失う。


(でも…銃撃は多分フェイクだ)


 銃撃は俺が捌けるスピードだって。シュウは分かっている。

 数打ちゃ当たる…。なんて思いながら戦っているようには思えない。


(銃弾捌いて大振りになったところ懐に入るつもりだろ?)


 それなら逆にこちらから距離を詰める。


(銃弾を捌けるってことは…見えてるから、避けれるんだよな)


 銃弾を避けながら距離を詰める。もう、大剣のリーチにシュウを捉えた。

 シュウは弾切れになった銃にリロードした。その一瞬の隙にシュウの銃を狙って大剣を振り下ろした。銃は音を立ててシュウの手を離れた。


(もちろん力の加減はした)


 シュウの反応は悪くなかった。俺が近づいた瞬間に、剣を突き刺そうと持ち替えていたし。

 でも、それより速くナイフを叩き落とした。床に落ちたナイフを遠くに蹴り飛ばす。


(これでもう武器はない…)


と油断した瞬間、もう片方の手に握られたナイフが目に入った。


(どこに持ってた!?)


 すぐさま大剣を捨てて、ナイフを降り下ろした手を取った。こっちの武器も無くなった。


(まずい!)


 さっき短剣を叩き落としたはずのシュウの手に、新しい銃が装備されている。


 至近距離からの、こめかみへの銃撃はまずい。脳震盪が起きる。

 手荒なことはしたくなかったけど、掴んだままの手を返して、シュウを床に倒した。倒しただけのつもりだったのに。


「ゲホっ…!!」


 力の加減を誤ったのか、倒した瞬間にシュウは咳き込みながら吐血した。


「…シュウ!!」


 慌ててシュウを抱き起こそうとした瞬間に目が合った。


(笑ってる…?)


 咳込んでいたシュウにみぞおちを思いっきり蹴り上げられた。

 焦っていた俺は防御できなくて…。構える前のクリティカルヒットだった。

 痛みで呼吸が出来ず咳き込んだのは俺の方だった。


「……一撃…入ったよね…?騙してごめんね?」


 血は口の中を自分で切って溜めてたもので、もう治癒してる。なんて言いながら微笑んでいる。


(騙された…?)


 気が抜けた。そのままシュウの膝の上に頭を乗せて倒れこんだ。

 シュウはもう一度ごめんなさいと呟いて、治癒魔法をかけてくれている。


(あぁ…シュウのいい香りがする)


 今回の実戦訓練で分かったことは、シュウはかなり実戦慣れしてるということと、目的の為なら手段を選ばないことだ。


「テル君大丈夫…!?」


 意識が遠のいた。言われてみれば、シュウが泊まりに来た…あの後からまとまった睡眠は取れていなかったし。


 騙してまで俺に頼みたいお願いってなんなのか?とか…イーターとの戦いの事を何で知ってるかとか…聞きたい事は色々とあったけど、今はもういいと目を閉じた。

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