4.出会い②
テルはユリアの後を追って校舎に入った。
(…何で人の話しを最後まで聞かないんだろう…アイツは)
昔からそうだ。考えるより先に行動してしまうタイプ。いい方向にはたらく時もあるけれど、大抵は今みたいに悪い方向に向かってしまう。
(おまけに足が速いし…見失った)
最悪な事に鞄をあずけたままだったから、連絡も取れない。
(まだ時間もあるし…とりあえず探してみるか)
学校は休みだが校舎には少なからず人がいた。サークル活動をしている者や、寮もあるからか子供の姿も見える。
ガーディアンクラスと、一般クラスが合併している学校には「実戦室」や「防魔室」など、聞きなれない教室の名前が連なっていた。
今まで父親から剣術や戦い方を習ったり、モンスターなんかとは戦うことはあった。
(モンスターは街中でも結構でるし…)
でもここでの戦いはイーター戦を想定した、兵士としての戦い方。この学校に編入したら、生活も一変するな…なんて事を考えながら、ユリアを探した。
一般クラスとは校舎は別になっているはずだから、どうやらここはガーディアンクラスの校舎のようだ。
休日の学校は子供たちの遊び場のようだ。探険だ~とバタバタ走り回っている子や、かくれんぼをしている子達が大勢いた。
(雰囲気は悪くないな)
「いってー!!」
笑い声に混じって、ドサッと言う大きな音と「大丈夫?」という、女の声が聞こえた。
声の先に視線を向けると俺と同じ位の女性2人が、走り回る子供たちを優しく諫めていた。どうやら、子供同士でぶつかってしまったようだ。子供1人がうずくまってないている。
女の1人は色白で、華奢な身体つきに似合わない大きな胸。思わず、そっちに目が行ってしまう。
(…何見てるんだ…俺は)
ひとりで顔を赤らめて、胸から目を逸らした。顔を胸まである髪は緩くウェーブのかかった黒髪。優しく子供の目線にしゃがんで話しかけている。雰囲気もふんわりしていて可愛い。クリっとした大きなグレーの瞳で、優しく泣いている子を介抱していた。
「廊下で走っちゃダメでしょう?」
もう1人の女は立ったまま、ぶつかってきた子供をしかっている。目は赤みがかってて、ストレートの長い黒髪だった。こっちはグラマラスでクールな美女だった。
その様子を眺めていると、また子供達がふざけて走ってきた。今度の子供の手には、大き過ぎる大剣が握られている。
刃がないことから模型だということは
遠目からでも分かった。ふざけて2人で振り回している。
(悪い予感がする…)
そう思った瞬間に、子供の手から振り回していた大剣がすっぽ抜けた。
(…やっぱり)
大剣は凄い勢いで女たちの真横の窓ガラスにむかって飛んで行った。明らかに、ガラスが直撃する所に2人がいる。
「危ない!!」
叫ぶと同時に足が動いた。いきなり現れたテルに驚いているようだったけれど、気にしている暇はない。
テルは子供としゃがんでいる女の上に覆いかぶさり、もう1人の立ってる女は力の限り遠くへ突き飛ばした。
ー ガシャンー
大きな音を立てながら、大きなガラスと共に大剣が背中の上に落ちて来た。腕の中を覗きこむと、そっと目を開いた女と目が合った。
近くで見るその瞳はとても綺麗で吸い込まれそうになる。その瞬間時が止まった。「大丈夫?」と聞くつもりだったのに。声も出なくなる美しさって、本当にあるんだな…なんて考えてしまった。
「ったぁ!……シュウ!!」
突き飛ばした女は立ち上がると、慌ててこちらに走ってきた。声にハッとして我に返ると、腕を緩めて立ち上がった。
「…大丈夫?」
今度はちゃんと声が出た。子供はシュウと呼ばれた女に強く抱きしめられていて、どちらにも怪我は無さそうだ。腰が抜けているのか、座ったまま固まっているシュウの髪に、光ガラス片を見つけて優しく払う。
「あ…ありがとうございます」
シュウはようやく何が起きたのか、気付いたようで慌てて立ち上がった。髪を耳にかけながら、俺に向かって深くお礼をしてきた。
照れを誤魔化すように、いいよと言ったあと、テルは抱かれてる男の子の肩にポンと手をおいた。
「怪我はない?遊ぶ時は気をつけるんだぞ?友達にも言っておいて」
照れ隠しに注意すると、男の子は青ざめた顔で泣き出してしまった。ふざけていた子供達も青ざめて、こっちを見ている。そんなに怖かったかな?なんて考えながら時計を見た。
(この後処理に巻き込まれたら、試験に遅れるな)
「じゃあ、俺は急ぐから後は…」
「待って下さい!…背中が…」
立ち去ろうとする俺の腕をシュウに掴まれた。
「背中…?」
そう言われて、背中を触ると血がベットリとついた。ガラスに映った自分の姿を確認すると、左肩から腰にかけて、斜めにパックリ切れている。傷は相当深いのか、血が足元に滴り落ちていた。だから、子供達が青ざめていたのか…。
シュウはテルの後ろに回り込むと手をかざした。温かい光に傷か包まれたかと思うと、あっという間に傷口が塞がっていく。今までにも、治癒魔法は受けた事はあるけれど、こんなに早く傷が塞がるのは初めてだった。
「安心して。シュウの治癒魔法はこの学校で1番だから」
驚いていると、何故かもう1人の女がドヤ顔で語っている。
「さっきはありがとう。突き飛ばされた時は、イラッとしたけど。見ない顔ね?私はアスカ・ミシナ。そして今傷を治してくれてるのが、シュウ・ブルームン」
「俺は、テル・フォレスト。…って、ブルームン⁉︎」
今度はこっちが目を丸くした。シュウは驚いているテルに向かって、歯に噛みながら笑顔を浮かべている。
ブルームンはこの国の名前…ということは?
「そう。シュウはこの国のプリンセスなの」
アスカの言葉に驚いて固まっている俺に向かって、シュウは頭を下げてきた。
「助けて頂き、ありがとうございました」
「こ、こちらこそ」
慌てて頭を下げると、お互いで深々と頭を下げるという状態になってしまった。その様子がおかしくてテルとシュウは顔を見合わせて笑った。
「テル…だっけ?違う制服着てるけど?」アスカが聞いた。
「今日編入試験なんだ。あ、悪いけど、実戦室って?」
「案内します。アスカ、この子と、ここまかせていいかな?」
アスカはシュウにオッケーと伝えた。それを確認すると、シュウはテルの手を取った。