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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
8.アンデット討伐

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9.夜明け(ユリア)

 カオスな状態の後で…私はまたポツンと1人で階段に座って鼻をすすっている。


(…やってしまった…)


 みんなが後片付けや近辺のアンデットの捜査へと向かう中、またまた私だけ落ち着くまで休んでいるよう言われた。


(何やってるんだろ…)


 最終的に、大泣きしてしまった私をみんなが慰めに来てくれた。


 レイにあんなこと言われて嫌だったね。とか、初任務でイーターとの戦いだったから怖かったね。とか…。


 私が泣いた理由はレイの言葉が嬉しかったからなんだけど。それを言う前に、みんなはどこかへ行ってしまったから。

 誤解は解けないままとなってしまった。


(レイ…優しい…)


 セイレーンの私を受け入れて、一緒に戦うと言ってくれたことも嬉しかった。


(どうしよう………好きすぎる……)


 そんなことを考えながらまた膝に顔を埋めた。


(仕事しろよ…私…)



「目…冷やさないと腫れちゃうよ?」


 顔をあげると、国王が項垂れている私に濡れたハンカチを差し出しながら、ニコリと笑って立っていた。


「うゎっあ!!あ…ありがとうございます」


 あまりの緊張で、冷たいハンカチを受け取ったまま硬直してしまった。

 そんな私のことは気にも止めずに、国王は私の隣りに腰を降ろした。


「…レイ君さ…12歳の時、初めてガーディアンと一緒にアンデットの討伐に行かせろ!って、僕に頼んで来たんだよね」


 いきなり国王がポツリとつぶやくから、思わず「そうなんですか?」と、答えてしまった。

 言葉遣いなんて気にしていない国王は「そうなんだよ」と、返事をして微笑みながら話を続けた。


「ガーディアンでもないし、それに子供だから『ダメだ』って。僕は真っ当なことを言ったんだ。そしたらレイ君…なんて言ったと思う?」


「なんて言ったんですか?」


「『コイツらより俺の方が強いから』って。クラス3rdのガーディアンに向かって言い放ったんだよね…」


「くすっ…。言いそうですね」


 レイはガーディアン達の目の前で「弱いとか。使えないとか」次々に言っていった。

 それは、自分がイーターと戦う為だった。レイは周りに攻撃する形で、外堀を埋めて行ったようだ。


「周りの人からも「そこまで言うなら、実力を見せてもらおうか?」って雰囲気になっていったんだよね」


「それ…12歳ですよね?」


「信じられないよね。しつこいし、僕も根負けしてもういいやってなって。そしたら、初のイーター討伐でもレイ君は物怖じしなくて。不信感満載だったガーディアン達もレイの実力に圧倒されて。誰も文句を言うヤツはいなくなった」


(その時から圧倒される強さを誇ってたんだ…)


 国王が「彼、カッコいいよね?」なんていうから。私は顔を赤らめながら、ぶんぶんと頭をたてに振った。


「よかった。ユリアちゃんはレイ君が大好きなんだね。心配してたんだよ…レイ君、言葉足らずでキツイ言い方するこだからさ…」


「そんなことないです!私には……すごく優しいです…」


 大声で叫ぶ私を国王は優しい眼差しで見つめて、それから話しを続けた。


「レイ君の優しさに気付いているなら良かったよ。君が気付いてくれないと、レイ君は報われないって思っていたから」


「報われない…?」


「レイ君はイーターの討伐には行くくせに、プロにはならないって全部のスカウトや推薦を蹴っていたんだ。なんでだと思う?」


 確かそんなことをアスカも前に言っていた。それにモンスターの討伐には気が向いた時しか行かないって。でも、その理由は私も聞いたことがなかった。


「僕も不思議だったから。レイ君に理由を聞いたんだ。そしたら、『俺がなりたいのは、セイレーンのガーディアン。だからセイレーンが見つかるまではプロにならない』って言ったんだよね」


「え…?」


驚きの余り目を見開いて国王を見た。


「レイ君、君に会いたくて仕方なかったんだよ…。自分のことを忘れていたとしても。君が気付いてくれなくても…。もちろん、レイ君はそう言ったことは無かったけどね?」


 レイがずっと私を思ってくれていたのは本当だった。サキュバスのことで妬いて…。あんなことを言ってしまった自分を悔やんだ。


(何で…信じてあげられなかったんだろ…)


「血反吐を吐くような努力があったからこそ、今の強い彼がいる。幼い頃からレイ君を見てきたけれど、弱音を吐いているところは見たことなかった。そのせいで、間違えたことをしてしまっていたのかもしれないね。…でもきっと君に会いたくて必死だったんだよ」


 レイは身体に不釣り合いな暴発する程の魔力を持っている。魔力の暴発を抑えながら、あそこまで使いこなすのは並の神経じゃできない。

 それに、魔力を暴発させるような人材は『ガーディアン』には向かない。それも分かっていたから、レイは必死だったんじゃないかと言っていた。


「レイ君だけじゃないよ。君の味方は大勢いる。君一人に背負わせるつもりなんてない。僕のこともいつでも頼っていいから。それに僕も君を頼ることもあるから。娘のシュウのこと…僕じゃ無理だからね」


 せっかく止まっていた涙がまた溢れてくる。


「泣かせてしまってごめんね。ユリアちゃん、とりあえず初討伐お疲れ様」


「はい…ありがとう…ございます」



***



 落ち着いた頃にみんなが戻って来た。テルが国王の元へ駆け寄り報告をおこなっている。

 破損箇所の報告を終えると、後処理は任せて解散するようにと国王はテルに伝えた。


「みんなお疲れ様。気をつけて帰るんだよ」


 それだけいうと国王は颯爽と駅を後にした。


 やっと落ち着いた私がみんなに謝ると、みんなは「また次もよろしくね?」と、口々に言ってくれた。


 夏の夜明けは早く、駅の外に出るとすでに空は白み始めていた。


「疲れた…。今日学校もフィールド訓練も休みで良かった」


 アスカが伸びをしながら呟いた。


「そうだね…」


 もし今からいつもの朝練メニューをこなせと言われたら、フィールド訓練中にきっと吐いてしまう。

 そんな話をしていると、隣りを歩いていたレイが「あ…」と呟きながら、ウィンドブレーカーのファスナーを口元まで上げた。


「どうしたの?」

「いや…。ただ…寒い…」

「…寒くはないでしょ?」


 アスカのツッコミに、私は前に回ってレイの顔を覗き込んだ。

 確かに顔色が悪い…気がする。なぜか目が泳いでいるし。


「大丈夫?いきなり風邪ひいた?」


 笑いながらレイの額に手を当てた。特に熱くはないけど。


「うん。…いきなりしんどい」


 ふざけているのか、甘えているのか…。レイは私の肩に頭を預けながら、私の腰に手を回して抱き寄せた。


「もう…そういうのいいから」


 アスカが引き離そうと服を引っ張るが一向に離れない。


(疲れたよね…)


 魔法もかなり使ってたし。何となく愛しくて、レイの背中に手を回して頭をよしよしと撫でてみた。


 レイは「もっとして?」と顔をこちらに向けてきた。ドキッとして思わず頭を撫でる手が止まった。


「イチャつくのはいいけどさ…」


 テルがレイの肩を掴んで無理やり引き離すと、ウィンドブレーカーのファスナーを一気に下げた。


「さっきからずっと思ってたけど…。……それ俺の服だよな?」


 レイはヤバいと呟き、テルから目を逸らした。


(まさか…)


「…破れてんじゃん」


 ウィンドブレーカーを掴むテルの手は怒りに震えている。


(それを隠したかっただけかい!)


「バレたか…」

「『バレたか』じゃねーよ!限定品だって言ったよな?」

「そのまま家を出たから…」

「何でだよ!」

「寝坊した」

「ふざけんなよ。弁償しろ」

「いいだろ?散々着古したヤツじゃん」

「ビンテージだよバカ!!だから高いんだよ!!」


 私とアスカは呆気にとられて目を合わせた。


「…2人ともイーターと戦ったとは思えない程元気ね…」

「本当だね…」


 お互いに顔を見合わせて笑い合った。本当に…いつも通りの2人だ。

ここでこの章は終わります。次から新しい章が始まります!

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