9.夜明け(ユリア)
カオスな状態の後で…私はまたポツンと1人で階段に座って鼻をすすっている。
(…やってしまった…)
みんなが後片付けや近辺のアンデットの捜査へと向かう中、またまた私だけ落ち着くまで休んでいるよう言われた。
(何やってるんだろ…)
最終的に、大泣きしてしまった私をみんなが慰めに来てくれた。
レイにあんなこと言われて嫌だったね。とか、初任務でイーターとの戦いだったから怖かったね。とか…。
私が泣いた理由はレイの言葉が嬉しかったからなんだけど。それを言う前に、みんなはどこかへ行ってしまったから。
誤解は解けないままとなってしまった。
(レイ…優しい…)
セイレーンの私を受け入れて、一緒に戦うと言ってくれたことも嬉しかった。
(どうしよう………好きすぎる……)
そんなことを考えながらまた膝に顔を埋めた。
(仕事しろよ…私…)
「目…冷やさないと腫れちゃうよ?」
顔をあげると、国王が項垂れている私に濡れたハンカチを差し出しながら、ニコリと笑って立っていた。
「うゎっあ!!あ…ありがとうございます」
あまりの緊張で、冷たいハンカチを受け取ったまま硬直してしまった。
そんな私のことは気にも止めずに、国王は私の隣りに腰を降ろした。
「…レイ君さ…12歳の時、初めてガーディアンと一緒にアンデットの討伐に行かせろ!って、僕に頼んで来たんだよね」
いきなり国王がポツリとつぶやくから、思わず「そうなんですか?」と、答えてしまった。
言葉遣いなんて気にしていない国王は「そうなんだよ」と、返事をして微笑みながら話を続けた。
「ガーディアンでもないし、それに子供だから『ダメだ』って。僕は真っ当なことを言ったんだ。そしたらレイ君…なんて言ったと思う?」
「なんて言ったんですか?」
「『コイツらより俺の方が強いから』って。クラス3rdのガーディアンに向かって言い放ったんだよね…」
「くすっ…。言いそうですね」
レイはガーディアン達の目の前で「弱いとか。使えないとか」次々に言っていった。
それは、自分がイーターと戦う為だった。レイは周りに攻撃する形で、外堀を埋めて行ったようだ。
「周りの人からも「そこまで言うなら、実力を見せてもらおうか?」って雰囲気になっていったんだよね」
「それ…12歳ですよね?」
「信じられないよね。しつこいし、僕も根負けしてもういいやってなって。そしたら、初のイーター討伐でもレイ君は物怖じしなくて。不信感満載だったガーディアン達もレイの実力に圧倒されて。誰も文句を言うヤツはいなくなった」
(その時から圧倒される強さを誇ってたんだ…)
国王が「彼、カッコいいよね?」なんていうから。私は顔を赤らめながら、ぶんぶんと頭をたてに振った。
「よかった。ユリアちゃんはレイ君が大好きなんだね。心配してたんだよ…レイ君、言葉足らずでキツイ言い方するこだからさ…」
「そんなことないです!私には……すごく優しいです…」
大声で叫ぶ私を国王は優しい眼差しで見つめて、それから話しを続けた。
「レイ君の優しさに気付いているなら良かったよ。君が気付いてくれないと、レイ君は報われないって思っていたから」
「報われない…?」
「レイ君はイーターの討伐には行くくせに、プロにはならないって全部のスカウトや推薦を蹴っていたんだ。なんでだと思う?」
確かそんなことをアスカも前に言っていた。それにモンスターの討伐には気が向いた時しか行かないって。でも、その理由は私も聞いたことがなかった。
「僕も不思議だったから。レイ君に理由を聞いたんだ。そしたら、『俺がなりたいのは、セイレーンのガーディアン。だからセイレーンが見つかるまではプロにならない』って言ったんだよね」
「え…?」
驚きの余り目を見開いて国王を見た。
「レイ君、君に会いたくて仕方なかったんだよ…。自分のことを忘れていたとしても。君が気付いてくれなくても…。もちろん、レイ君はそう言ったことは無かったけどね?」
レイがずっと私を思ってくれていたのは本当だった。サキュバスのことで妬いて…。あんなことを言ってしまった自分を悔やんだ。
(何で…信じてあげられなかったんだろ…)
「血反吐を吐くような努力があったからこそ、今の強い彼がいる。幼い頃からレイ君を見てきたけれど、弱音を吐いているところは見たことなかった。そのせいで、間違えたことをしてしまっていたのかもしれないね。…でもきっと君に会いたくて必死だったんだよ」
レイは身体に不釣り合いな暴発する程の魔力を持っている。魔力の暴発を抑えながら、あそこまで使いこなすのは並の神経じゃできない。
それに、魔力を暴発させるような人材は『ガーディアン』には向かない。それも分かっていたから、レイは必死だったんじゃないかと言っていた。
「レイ君だけじゃないよ。君の味方は大勢いる。君一人に背負わせるつもりなんてない。僕のこともいつでも頼っていいから。それに僕も君を頼ることもあるから。娘のシュウのこと…僕じゃ無理だからね」
せっかく止まっていた涙がまた溢れてくる。
「泣かせてしまってごめんね。ユリアちゃん、とりあえず初討伐お疲れ様」
「はい…ありがとう…ございます」
***
落ち着いた頃にみんなが戻って来た。テルが国王の元へ駆け寄り報告をおこなっている。
破損箇所の報告を終えると、後処理は任せて解散するようにと国王はテルに伝えた。
「みんなお疲れ様。気をつけて帰るんだよ」
それだけいうと国王は颯爽と駅を後にした。
やっと落ち着いた私がみんなに謝ると、みんなは「また次もよろしくね?」と、口々に言ってくれた。
夏の夜明けは早く、駅の外に出るとすでに空は白み始めていた。
「疲れた…。今日学校もフィールド訓練も休みで良かった」
アスカが伸びをしながら呟いた。
「そうだね…」
もし今からいつもの朝練メニューをこなせと言われたら、フィールド訓練中にきっと吐いてしまう。
そんな話をしていると、隣りを歩いていたレイが「あ…」と呟きながら、ウィンドブレーカーのファスナーを口元まで上げた。
「どうしたの?」
「いや…。ただ…寒い…」
「…寒くはないでしょ?」
アスカのツッコミに、私は前に回ってレイの顔を覗き込んだ。
確かに顔色が悪い…気がする。なぜか目が泳いでいるし。
「大丈夫?いきなり風邪ひいた?」
笑いながらレイの額に手を当てた。特に熱くはないけど。
「うん。…いきなりしんどい」
ふざけているのか、甘えているのか…。レイは私の肩に頭を預けながら、私の腰に手を回して抱き寄せた。
「もう…そういうのいいから」
アスカが引き離そうと服を引っ張るが一向に離れない。
(疲れたよね…)
魔法もかなり使ってたし。何となく愛しくて、レイの背中に手を回して頭をよしよしと撫でてみた。
レイは「もっとして?」と顔をこちらに向けてきた。ドキッとして思わず頭を撫でる手が止まった。
「イチャつくのはいいけどさ…」
テルがレイの肩を掴んで無理やり引き離すと、ウィンドブレーカーのファスナーを一気に下げた。
「さっきからずっと思ってたけど…。……それ俺の服だよな?」
レイはヤバいと呟き、テルから目を逸らした。
(まさか…)
「…破れてんじゃん」
ウィンドブレーカーを掴むテルの手は怒りに震えている。
(それを隠したかっただけかい!)
「バレたか…」
「『バレたか』じゃねーよ!限定品だって言ったよな?」
「そのまま家を出たから…」
「何でだよ!」
「寝坊した」
「ふざけんなよ。弁償しろ」
「いいだろ?散々着古したヤツじゃん」
「ビンテージだよバカ!!だから高いんだよ!!」
私とアスカは呆気にとられて目を合わせた。
「…2人ともイーターと戦ったとは思えない程元気ね…」
「本当だね…」
お互いに顔を見合わせて笑い合った。本当に…いつも通りの2人だ。
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