7.すごい応援(テル)
ドラゴンイーターを倒すと、さっきまでいた、レイスやスケルトンも消え去った。
(何でだ…?)
共鳴していたイーターが消えたからなのか、それはよく分からないけれど…。
まぁ、良かった。と、大剣を背中の鞘に戻した。
「さすがテル!!ドラゴンイーターを倒すなんて…本当すごいよ!!」
ウィップを腰に納めながら、アスカが駆け寄ってきた。
「ああ。アスカのお陰だ。…助かった」
「大したことはしてないよ。補助は任せてって言ったでしょ?間に合って良かった」
アスカは謙遜しているけれど、付けた属性も、付けるタイミングも少しでも間違えていたら、俺は死んでいたし。
「よくイーターが食ったのがファイアドラゴンだって分かったな」
「あの時点じゃどちらか分からなかったよ。でも、ドラゴンでブレス系の技を使うのって、ファイアドラゴンか、コールドドラゴンだけでしょ?」
「そうだな」
「炎属性にして、外したら氷のダメージを増強してしまう。でも、氷にしとけば炎は打ち消すし氷のブレスは効かないから…そっちでいいやって思っただけだよ」
アスカはあの戦いのさ中、それを冷静に判断していた。ティナとフーディアを守りながら、離れて戦ってた俺まで気にかけてた。
(これが、実戦経験の差か?と、言うか属性付けられるのが凄いのか)
「属性を付ける対象に触れてないと、魔力を流せないから。いきなりウィップを巻き付けてごめんね。それは言って無かったよね?」
全てに納得が行った。だからこそ、魔法の使えるアスカは悪魔族なのに武器を装備している。そしてその武器が『ウィップ』なんだ。
「ありがとう。補助を任せてよかったよ」
「それはいいんだけど…。テルのその傷さ…」
(まずいな…。アスカも気付くか…)
アスカが指差したイーターにつけられた腕の傷は、もう塞がってきている。
シヴァ神の自己治癒能力が高い。天使族を凌駕するスピードだ。それは、種族学を学んでいる人なら知っている『特性』だ。
「あぁこれ?かすっただけ。大したこと無かった」
「そう?かなりいったと思ったけど…」
「俺よりフーディア隊長だろ?」
アスカの視線を遮り、傷口を押さえながらワザとらしくティナの元へと向かった。
「え…あ、待ってよ!!」
治療中のティナに近づくと、すすり泣く声が聞こえた。
フーディアの腕は無くなっている。天使族とはいえ、欠損部を戻す事は出来ない。
腕の方の止血は終わっているようだけど、抉られた腹の傷からはまだ薄らと出血している。内臓の損傷も治りきってはいない。
ティナはその傷に手を翳してはいるけれど、淡い光は放たれない。
(聖力切れ…か…)
「ティナさん、治療ありがとうございます。動かして大丈夫そうなら、隊長は俺が運びます」
それが治癒魔法が使えない自分ができる精一杯だ。
俺の声に顔を上げるとティナは泣き出してしまった。
「……私にこれ以上は…無理で、ごめんなさい…」
(シュウがいたらよかった…)
息も絶え絶えになっているフーディアの背中に手を添えた。
シュウがいたなら救えたのに。完璧な治癒魔法で「大丈夫だよ」って笑顔まで見せて。
(いない人のことを考えても仕方ないか…)
「……すまない…仲間を……死なせてしまった…」
抱き抱えようとする耳元で、フーディアが囁くように呟いた。
「あなただけでも助けます」
自分に言い聞かせるように答えて、フーディアを横抱きにした。
もう一体のイーターと、レイ達が戦っている音も聞こえない。倒してくれていると信じるしかない。
それに、応援要請はここに来る前に出した。もうすぐ来てくれるはずだ。
「お、応援が来てくれた!!すごい応援だ!」
姿の見えなかったタイガの声が上の階から響いてくる。どうやら1人で逃げていたようだ。同じことを何度も叫びながら、階段を駆け降りてくるのが見えた。
そして、その後に現れた姿に俺も含めて全員が固まってしまった。
「やぁテル君。連絡ありがとう。助けに来たよ!」
ニコニコと笑いながら手を振って、階段を駆け下りて来たのは国王陛下だった。
いつもと同じようなラフな格好だけど、腰には一応短剣下げている。
「国王陛下!?」
ガーディアンのに登録されている訳では無い自分が、緊急で連絡したのは依頼主の国王だったけど。…まさか、本人が来るとは思っていなかった。
アスカとティナが驚いてこっちを見ている。
(いや…こっちだって驚いている)
そんな雰囲気を全く気にもとめずに、国王陛下は抱えているフーディアに手を翳した。
さすが千年に1人の聖力をもつと言われるだけあって、腹の傷はあっという間に塞がった。
「ありがとうございます、国王陛下。テルもありがとう。もう下ろしてくれて大丈夫だ」
腕の中にいたフーディアは、立ち上がれるほどに回復している。
「他に治療の必要な怪我人はいるかい?」
問いかける国王に向かって、フーディアは立膝を付いて頭を下げた。
「第二部隊のレイチェル、ヴィンセントは目の前で喰われました。サクはドラゴンイーターに連れ去られた後…この場で喰われました。ドラゴンイーターは、テルとアスカで倒してくれました。私は…何もできませんでした…」
国王は震えているフーディアと、目を合わせるようにしゃがみ込むと、その肩に手を置いた。
「……そうか。報告ありがとうフーディア。辛い思いをさせて申し訳なかった。ここにドラゴンイーターが出るのは想定外だったんだ」
フーディアに国王が頭を下げている。
この人は、そうやって頭を下げることもできる人だ。だからこそ、尊敬もされるし、みんなから好かれている。
国王は立ち上がると「他に報告はあるかい?」と、俺を振り返った。
「第一部隊と合流した時に、イーターは時点で二体いました。一体は俺とアスカで倒しました。もう一体はレイとユリアで戦っています」
「それならもうイーターはいないね。上でレイ君とユリアちゃんに会ったけど、あっちも倒し終えていたから。二人には、一般の人が巻き込まれていないか駅構内の確認をお願いをしておいたよ」
(…やっぱり倒せていたんだ。…良かった)
レイは強いから。多少戦い慣れていないユリアを守りながら戦えると思っていた。
「それに、この駅全体に聖域を張ったから、もうここにアンデットは入れないよ」
「駅全体に聖域…!?ですか?」
「持って30分だけどね?聖域魔法って、結構聖力を消費するからね」
簡単に言ってのけるけれど、聖域魔法を使えるのは、世界でこの国王だけだと聞いている。
それ程に聖力を消費する、難しい魔法だと『聖力』を持たない俺ですら知っている。
「さぁ!切り替えよう!動ける者は二人一組で構内の確認に回って欲しい。一般人の確認と破損箇所の把握。それとモンスターが残っていたら、その討伐も行うように」
全員が跪き国王に返事をすると、アスカと俺は構内の確認に向かった。
***
モンスターの確認を終えて、国王に報告を終えたところで、ユリアとレイが降りてきた。
アスカがいち早く気づいてユリアを抱きしめていたし、ユリアもアスカに抱きつくと、2人でお互いの無事を確かめ合っている。
そんな二人を見つめていると、国王は降りてきたレイに声をかけた。
「上は大丈夫だったかい?」
「終電の時間は過ぎてるし。それに、1時間前から立ち入り禁止になってただろ?人なんていなかった。もし、いたとしてもそいつは死んで当然だから助けないけど」
国王を前にしても全く変わらない…レイの態度。隣にいる俺の方が肝を冷やしてしまった。
みんな慣れているのか、「レイらしい」なんて、フーディアはレイの肩に腕を回している。
国王ですら笑いながら「それは、そうだね」と声をかける始末だ。
(正気なのか…?)
そう思っていると、後ろに立ったフーディアが国王に向かって「お願いがあります」と頭を下げた。
「前回も進言致しましたが、レイの実力はクラス1stです。それに今回、テルはドラゴンイーターを倒しました。この二人を今すぐにガーディアンにすることはできませんか?クラス2ndの俺よりよっぽど強い…」
レイは「離せよ」とフーディアの腕を解いて更に不貞腐れている。
「そうだね。人手も足りてないし…。僕もなってくれたら嬉しいけど。レイ君はなるのを嫌がっているし、テル君は養成校に入ってまだ数ヶ月しか経っていないからね」
国王が言った『数ヶ月』で、今までレイに注目していた視線が、今度は俺に突き刺さった。
「確かにテルの名前は今まで聞いたことが無かったな…。なんでだ?」
「マジかよ?レイといい…今年の四年生は化け物だらけじゃん!!」
タイガとフーディアが、次々と話しかけてきた。いかにも興味深々って感じだ。
シヴァ紳の末裔だってバレたく無かった俺は、ただ苦笑いをして受け流すしかなかった。
(余計なこと言わなくていいのに…)
恨めしい視線に気づいたのか、国王はコホンと咳払いをして手を叩いた。
「さぁ、次の仕事だ。動ける者は周囲のアンデット討伐に向かうように。イーターはいなくなったけれど、まだ駅周辺の安全が確認された訳じゃないからね」
それだけ言うと俺達に駅の外、元々の討伐場所に向かうように声をかけた。




