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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
8.アンデット討伐

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6.ドラゴンイーター(テル)

 血痕の後を追って地下三階に降りると、階段のすぐそばでうずくまっているフーディアを見つけた。


「隊長…!!」


 ティナが青ざめて立ち止まった。フーディアは右腕が無くなっていて、右脇腹も穴があいている。だけどイーターの姿は見えない。


 少し離れた場所でグチャグチャと、何かを貪り喰うおとが響いている。

 連れ去られた仲間はどうやら喰われたようだ。タイガの顔がさらに青くなる

尻込みしながら後退りしている。


(一人はアイツ自身の食糧か…)


 フーディアは弱っているし、食糧として連れて行くつもりだろう。あわよくばフーディアを餌に、俺たちも食糧としてロードの元へ運ぶつもりだ。

 

 それなら少し隙ができる。今がその《《隙》》なら、この時間を無駄にはできない。

 俺たちは息を潜めて、フーディアの元へ近づいた。


「すぐに隊長を治療してください」


 天使族のティナに指示を出すと、青ざめてはいたけれど、小さく頷き治癒魔法をかけてくれた。

 だけど、フーディアが動けるようになるまで時間がかかる。


「……今すぐ逃げろ……」


「た、隊長がそう言うんだ…応援が来るまで、安全な場所で…」


ーー気付かれたーー


イーターのピリピリした殺気が突き刺さる。


「…逃してくれそうもないですよっ!!」


 低空飛行で飛んでくるイーターに、大剣を振りかぶって飛びかかった。

 大剣を振り降ろすと同時に、イーターの鋭い爪が振り下ろされる。爪と大剣が激しくぶつかる音がガキーンと響き渡った。


(…こいつ…ドラゴンを喰ってる)


 一撃が重くて剣で弾けない。血だらけの牙を剥き出しにしながら、イーターが顔を近づけてくる。

 額から汗が流れる。全身の力を剣に込めてその爪を弾き飛ばし、イーターと距離を取った。


(一撃で手が痺れた…)


 この攻撃を受けたのが、俺以外だったら一撃で死んでた。


 背中の翼と鱗のように硬くなった皮膚。異様に伸びた牙は口に収まっていない。蛇のような尻尾まで付いている。力も強い。


(…こいつドラゴンイーターだな)


 ドラゴンイーターは魔法に強い。物理攻撃のチカラ押しで倒すしかないイーターだ。

 だとしたら…。今この場で実質戦えるのは俺だけ。アスカは悪魔族だし、腰を抜かしてアワアワしているタイガは最早使い物にならない。


(ゼル…連れてこれば良かった…)


 イーターは返り血を浴びて血まみれになった顔でゲラゲラと笑っている。


「さっきのやつよりお前強いな。決めた!お前は俺が喰ってやるよ」


(しかも喋るのか。…最悪だな)


 考える間もなく、また低空飛行で弾丸のように飛んできた。それと同時にレイスも集まってくる。


「アスカ!レイスは任せた!」


 指示を出す前に、アスカはレイスに向かって魔法を放つ。


「テル!こっちは任せて!フーディアには近寄らせないからっ!」


 アスカがいてくれて良かった。戦いに慣れている。もう周りに構っていられない。


(じゃないと俺が死ぬ!)


 すかさず屈んで攻撃を避けるが、図体がデカいくせに、すぐさま方向を替えて鋭い爪を振り下ろす。


(爪が厄介だな。腕を切り落とす方が楽だ)


 振り下ろされた爪をギリギリで避けると、壁に突き刺さった。

 計画通り。素早く体を腕の下へと滑り込ませて、鱗の薄い部分から上に向かって剣を振り抜いた。


「何っ!!」

(今だっ…!!)


 腕を切り離した。これで防御に隙ができる。

 たたみかけるようにイーターの心臓部にむかって剣を突き刺した。


「残念…!」


「!!」


 構えた剣の側面から尻尾が飛んでくる。衝撃でそのままテルは弾き飛ばされた。

 空中で身体を捻ると、そこにレイス達が集まって来る。


(まずい…少しでも動きを止められたらイーターに食われる!)


「テルっ…!!」


 アスカは叫ぶと同時に、レイスに向かって手をかざして炎の魔法を放った。


(助かった…!)


 無事に着地した俺を見届けると、アスカは手負の隊長を狙うスケルトンに、また魔法を喰らわせた。


「補助は任せて!!」


 ありがとうを言う前に、着地した俺に向かってイーターが突っ込んできた。


(嘘だろっ!!)


 さっき切り落とした腕はもうすでに再生していた。反応が遅れた。爪が腕をかすった。

 ドラゴンの爪はかなり鋭利だ。かすっただけで傷が深く血が噴き出した。


「人って脆いよな?その傷、大丈夫か?」

「傷?…こんなの大したことない」

 

 精一杯の強がりを吐いて、イーターに向かって剣を構えた。


(持久戦は無理だ…)


「本当かな?それならこっちも本気を出すぞ?」


 そう言いながら、イーターは高笑いをして、狭い構内を縦横無尽に飛び回った。

 両手両足から繰り出される攻撃に、何とか受け流すのがやっとだ。


(目がスピードに慣れてきた。反応できる…)

 

 次に攻撃が入ったら腕を突き刺す。タイミングを見計らい、振り下ろされた腕を壁に突き刺した。


(切り落としても、回復するならこっちの方がいい!)


 何とか動きは止めた。そう思った瞬間らイーターは「ばーか」と呟き、首をぐりんと回して俺に向かって口を大きく開いた。


(コイツ…まさかっ…!!)


 ドラゴンにも種類がある。『ブレス』という特技を持つ者もいる。

 ファイアーブレスをもつドラゴンなら、火を吐くし、コールドブレスをもつドラゴンな氷の息吹を吐く。

 気付いた時には遅かった。そんなものをこの至近距離で食らったら確実に死ぬ。


「テル!!危ない!」


 叫び声と共に、アスカがウィップを俺の足に撒きつけた。

 その瞬間、イーターは燃え盛る炎を吹きつけてきた。

 顔を腕で覆ったけれど、そんなものは気休めだ。グッと目を閉じて、炎を受けた。

…はずだった。炎のブレスは思いっきり喰らっているのに、直撃してるはずなのに、全く熱を感じない。


(熱くない…?)


「間に合った。テルに氷の属性を付けたから!持って数分だけど」


 スケルトンに魔法を喰らわせながら、俺に向かってアスカが叫んだ。


(これが、アスカの属性をつけるってやつか!)


「何で、お前…炎が…!」


 イーターは呆気に取られている。形成逆転だ。

 壁に突き刺した刃は、横に振り抜いたら、心臓部を真っ二つにできるように計算して突き刺した。

 両手で剣の柄を強く握った。身体が熱くなる。動く前に振り抜かないといけない。

 今まで出したことのない、強い力で壁真横に大剣を振り抜いた。イーターの体は真っ二つに裂けて地面に落ちる。


「ギャーーーっ!!!!」


 断末魔が響き渡った。それでも油断出来ない。荒い呼吸のまま、大剣を構えて真っ二つのイーターに近づいた。

 確かイーターは心臓を貫いたら灰になるはずだ。


 地面に落ちたイーターは、体を探して腕だけで動いている。

 念のために首を切り落とした。恨めしそうに睨みつけるイーターは段々と崩れていき灰になった。


(終わった……)


 大剣の構えを解くと額の汗を拭った。

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