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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
8.アンデット討伐

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5.そういうヤツ(ユリア/レイ)

 レイに抱き寄せられたまま、私はへたり込んでしまって立ち上がることができない。


(レイがいなかったら…私…喰われてた)


 分かっているのに。私は自分が人殺しになってしまったような、恐怖が消えなかった。


 足に力が入らない。手もずっと震えてる。テル達を助けに行かないといけないのに。まだ呼吸は乱れてる…。


「…怪我は…?」


 考えこむ私の顔を、レイが覗き込んだ。首を振るのが精一杯の自分が情け無い。

 頷く私からレイは不機嫌に視線を逸らした。


「初出動でアンデットの討伐なんて受けるなよ…。アンデットの周りにはイーターがいる可能性もあってさ。まぁ…今それはいいか」


 レイははぁーっと大きなため息をつき、私の肩に頭を預けた。


「無事で良かった。…ユリアの顔みてすごい焦った」


 怒っていたのはケンカしたからじゃなかった。腰を抜かしてしまった私に、呆れているわけでもなかった。


(心配してくれてたんだ)


「…ご…ごめん…」


 まだ声が震えてる。情けなくて顔を上げることはできない。

 イーターの身体を突き刺した時にかかった体液が、手にべっとり付いている。


(また…アレと戦うの?私は戦えるの…)


 そんな私の真っ青な顔をレイは両手で優しく包み込んで、視線を合わせた。


「…イーターは死体にロードの血を注ぎ込んで作られた人形。死んで尚、ロードの腹を満たす為だけに操られているんだ。ユリアはそれを救ったんだ」


 気付いたら泣いてしまっていた。レイは私が恐れていた理由に気付いている。

 気付いているのに、私を責めることはしなかった。


「……私は落ち着いたら向かうから、レイは先にテルの元へ…」


「行かない。イーターが二体だけとは限らないし。ユリアが落ち着くまでこうしてる…」


 そう呟くとレイはもう一度強く抱きしめてくれた。


***


 先にテルの元へ向かうように言うユリアに「行かない」と、適当な理由をつけて納得させた。


(俺が守りたいのは()()()じゃないから)


 腕の中のユリアは真っ青な顔で、ずっと自分の震える手を見つめている。


 気が滅入るのも当然だ。ユリアは初めてだった。しかも、アンデットの討伐依頼を受けたのに、来てみたらイーター討伐。しかも、多分喰われた二人の死体もみてる。

 倒さないといけないイーターも、姿形が人型で、それに言葉まで操るヤツだったんだ。


(…気分のいいモノじゃない)


 怯んでしまうのも当然だと思った。対人だと思うと、攻撃の手が鈍くなる。

 イーターもそれを知っているからこそ、人型が多い。怯ませること(それ)が、狙いだからだ。


 ユリアの反応が普通でテルの適応力がおかしいんだ。


(俺の初めての時はどうだったかな…?)


 腕の中のユリアを見つめながら、ふと初めてのイーター討伐のことを思い出した。


 あれは、12歳だった。子供はダメだって言われていたのに、国王に頼み込んで無理矢理イーター討伐に向かったんだ。

 俺にはイーターからユリアを守りたいって目的があったから。


 俺がイーター討伐の依頼しか受けないのは、ユリアの敵がイーターだと知っていたから。

 ユリアと離れ離れになっても、敵はイーターだという事実だけは変わらなかったから。

 イーターを倒しまくれば、いつかユリアに会えると思っていたから。だから、イーターは怖くは無かった。


 今倒したイーターは、多分作られたばかりのヤツだ。

 人をたくさん喰ってると、もっと狡猾に意志を持って行動する様になる。

 そういうやつはもっと強い。隙を見せるとやられる。セイレーンの力を狙ってるのは、そう言うやつだ。


「ユリアは俺が守るから…」


「……ありがとう」


 ユリアは震えてる手で俺の腕を掴んだ。


「手、まだ震えてるけど?」


「大丈夫。…レイのお陰で覚悟はできたから」


 さっきまで泣いていたユリアの表情が変わった。


「私は誰かの為に『戦う』立場で、守られる立場じゃない…から」


(あぁ…そうだ。昔からユリアはこうだった)


 無理矢理に笑って自分の運命を受け入れる。そんな強いヤツだった。


「から元気?」


 双剣を手にして立ち上がるユリアに、微笑みながら声をかけた。


「うん…から元気でも立ち上がらないといけないよね?急ごう!テルの元へ…」


 そういうと、ユリアは俺の手を引いて走り出した。

 その手はまだ震えていたから。強く握り締めて血痕を追った。

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