2.討伐部隊(ユリア/レイ)
テルと私は深夜のガーディアン養成校地下鉄駅の入り口付近に着いた。
周辺には人影はみえないから、どうやら私たちが一番乗りみたい。
「おかしいな。他の二人は到着したと連絡があったのに…」
テルが隊長として率いる部隊は私を合わせて4人だ。
10分ほど前に、二人からレイの部隊と合流した。と、連絡があったと言っていたようだ。
だけど、待ち合わせの場所にその全員はいなかった。
「もしかして、地下鉄の駅じゃないとか?」
「そんなはずは無いけれど。少し、様子を見てくる。ユリアはここで待機して、みんなが来たら連絡しろ。すぐ戻る」
それだけ言うと駅の入り口へと走って行った。
(…なんだか…不気味だ)
一人残された駅周辺は、賑やかな昼間とは違い暗くて静かだった。
夜間の外出禁止要請が出ている上に、郊外の駅だから生徒以外の利用は無いからかもしれないけれど。
(レイスは結構いたな…)
ここに着くまでに通ってきた街中でも、多数見かけて倒してきた。
レイスは闇にまぎれて浮遊している黒いモヤのようなアンデットだ。
そのレイスが喰らうのは生気だ。もやに触れると生気を吸われて、一瞬その場から動けなくなる。
赤い瞳が目印で物理攻撃はあまり効かない。
聖なる武器や魔法は効くから、聖力をもつ天使族の魔法だとレイスは一撃で倒せるし。
(まぁ…レイスの討伐は確かに大したこと無いけど…)
違和感があった。そもそもレイスは単独では行動しないはずだ。レイスは生気を吸い、動けなくなった肉体はイーターやモンスターが食糧として喰らうから。
だから必ずレイスの周りにはそいつらがいるはず。それなのに私たちが出会ったのは《《レイスのみ》》だ。
(他のモンスターを見逃してるとか…?そんな訳ないか…)
考えているとテルの呼ぶ声が聞こえた。
「……まずいことになってる。武器を装備して着いてこい」
私は頷いて双剣を手に、テルの後に着いて行った。
(まずいことって…なんだろう?)
駅の入り口付近に着いた時テルの言う「まずいこと」の意味を理解した。
「…っ…!!」
まだ真新しい血痕と肉片が散らばっていた。それも、大量に…だ。人間だったら、きっと一人では済まない。青ざめてテルに視線を戻した。
「状況は分からない。ユリア…何か聞こえるか?」
テルに言われて聞き耳を立てた。微かにアスカの声が聞こえた。
(離れているのか聞き辛い…こもっている…でもこの声は……)
「…多分連絡通路……何かと戦ってる!」
そう答えるとテルは直ぐに私に向き直った。
「覚悟を決めろ。そして、的確な場所を聞き分けろ。最短で行く!」
私はその声に頷くともう一度耳を澄ませた。
***
ーーテル達が到着する十数分前。
俺とアスカは待ち合わせ場所に向かう道中で、部隊メンバーと一緒になった。
隊長のフーディア(クラス2nd)
副隊長のティナ(クラス2nd)
隊員のタイガとサク(クラス3rd)
そして、アスカと俺だ。(養成校学生)
ティナは純血の天使族だと言うことと、悪魔族は俺とアスカだということを確認した。
タイガは何度かモンスターの討伐で一緒になったことがある。毎回、なんでこんな奴がガーディアンなんだろうと呆れてしまうくらい使えない。
(またか…)
なんてため息を吐いて、養成校地下鉄の駅まで歩いていると、今度は、テル達の部隊員二人とも合流した。
テルの部隊副隊長 レイチェル(天使族。クラス2nd)
テルの部隊隊員 ヴィンセント(クラス3rd)
それと、隊長として『テル』。あとは、もう一人テルの部隊として誰かが来るらしい。そんな話しを合流した二人がしていた。
(早く終わらせないと…)
郊外にある養成校はアンデットやモンスターの溜まり場となる条件が揃っている。
そのために、定期的にモンスターが増え過ぎて、養成校の管理が追いつかなくなる。
そういう状況に陥ると『討伐要請』が行われる。
養成校周辺の討伐の場合には敵は『イーター』ではない。大量のモンスターのことが多いから、派遣されるガーディアンの人数も増える。
だからこそ、この人数なんだろうなんて思いながら、地下鉄駅前に向かって大人数で歩いていた。
フーディアとヴィンセントは、談笑までしながら緊張感なく向かっていた。
ーーそんな時だった。音もなくレイスが大量に現れた。
辺りの視界がなくなるくらいの量だった。フーディアが「レイ!」と、名前を呼ぶ声がした。
(言われなくてもやるよ…)
辺りのレイスは、すぐさま魔法で消し去った。もちろん、アスカもすぐさま魔法を放っていた。
二人共反応は悪くは無かった。レイスに囲まれていたのは、本の一瞬だったはずだ。
それなのに二人の隊員が叫び声と共に大量の血を流し、その場に倒れ込んだ。
「ヴィンセント!?レイチェル…??」
ティナが慌てて駆け寄るけれど、レイチェルは腹が抉れて片脚はすでに無くなっていた。
同じようにヴィンセントは下半身が無くなっている。
「うわー!!!!」
タイガは叫び声をあげて尻餅をついているし、サクは青白い顔で後退りをしている。
「…っ!ティナ!聖力を温存しろ…二人は助からない……」
フーディアは治癒魔法をかける、ティナを止めた。
(姿の見えない何かがいるな…)
一瞬にして大量の肉を喰らい、色々な特技を使って人を喰う。二人が倒れるまで、誰も気づかなかった。
(これは…間違えないな…)
「気を抜かない方がいいよ。この喰い方、多分イーターだから」
「そう…だな。みんなっ……!」
フーディアが立ち上がり、指示を出そうとした瞬間、今度は上空から滑空してきたイーターにサクが連れ去られた。
「うわーっ!!助けてっ!!」
「サク!!」
そのイーターは人型だった。ただ、背中にコウモリのような翼が生え、ドラゴンのような爪でサクの腹を突き刺している。
「邪魔だ。どいて」
前に立っていたフーディアを避けると、すぐさま手を掲げて炎の魔法を放った。
でも、イーターはそれを翼で簡単に払って見せた。
(…このくらいの炎じゃだめか。焼き尽くす炎だと、サクまで焼け死ぬし…。あ、それが狙いか)
だとしたら頭がいい奴だイーターの中にもランクがある。
話せる人型のイーターは、沢山人を喰らっている。そんなイーターは知能も高く特技や力も強い。そしてこのイーターはランクの高い人型だ。
それに、翼が生えていた。もしイーターが喰らったのはコウモリとかなら良いけれど…。
(ドラゴンを喰らったやつならまずい)
そんな奴なら、このイーターはクラス2ndや3rdで倒せるような相手じゃない。
案の定、イーターはわざとらしく立ち止まると、後ろにあった『養成校西口』へと、翼をはためかせながら入って行った。
(サクを人質にして、俺たちまで喰らう気だな…。一回、引いて応援を呼ぶか?それよりテルともう一人と合流を…)
「後を追う!お前達はここに残れ!」
考えていると部隊長のフーディアが構内へと入って行くってしまった。
(…バカだろ。一人で行ってもイーターを強化する食糧になるだけだ。大体、隊長が抜けてどうするんだよ…)
大きなため息を吐いて、呆けているティナの元へ向かった。
「隊長だけじゃ無理だ。俺も行くよ。ティナ副隊長は、テルと合流して事情を話して…」
それだけ言うと隊長を追いかけようと踵を返した。すると、今度はティナが俺の服の裾を震える手で掴んで、引き留めた。
「…まって…イーターなら…私も行く」
ティナは涙目になってはいたけれど、立ち上がる。
(面倒だな…。…でも、ティナは純血か…)
純血の天使族はイーターは食えない。少しは役に立つかもと、一緒に向かうことにした。
「ま、まてよ2人が行くなら、俺もいくー!アスカ、お前もこい!先輩命令だ!」
そう言って、隊員のタイガがアスカの腕も無理矢理引いた。
「え?テル達の部隊との合流は?」
「いいか?レイがいなくなった時にもしイーターが来たらみんな死ぬんだぞ!?俺はまだ死にたくないっ!!」
「……最っ底ですね…。とりあえず、テルに連絡しないと…っ!!」
「うるさ~い!!いいから来い!!」
こんな状況に、頭を抱えてため息をついた。
「もたもたしてると、イーターを強化するんだけど?付いてくるなら喰われないで下さいね」
「俺が喰われないように、絶対守れよ!!」
こうして、全員で駅構内に入ることとなってしまった。




