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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
7.親睦会

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10.繋がらない(レイ)

 自分の部屋に入るとドサっとベッドに倒れ込んだ。


(ユリアには思い出して欲しくない…)


 天井を見上げながら、そんなことを考えた。


 今、ユリアの思い出した俺と過ごした記憶は断片的で…。全てを思い出したわけじゃない。子供の頃ユリアと過ごしてきた時間には楽しいことや、嬉しいことは沢山あった。

 でも、それと同じ位に耐えがたいこともあったのは事実だった。

 サキュバスのことを伝えてしまうと、そんな辛い記憶まで、蘇ってしまう危険もある。


(《《あのこと》》は忘れたままでいいんだ)


 俺の覚悟も、決意も、そんなことはユリアに関係ないことだ。もう、悲しい思いはさせたくはないから。


 ユリアのこと大切だし失いたくはないからこそ、今話すのは得策じゃない。


 確かにあの言い方はまずかったとは思ってはいるし、もちろん後悔もしている。


(でも……最終的にケンカを売って来たのはユリアの方だな)


 そんなことを思いながら目を瞑ってはみたけれど、眠れるわけが無かった。そもそもまだ寝るような時間ではないけれど。


(そういえば…ユリアの初めての相手…ルシウスって言ってた)


「……」


「……ルシウス?」


 人の名前と顔を覚えることをしない自分だけれど『ルシウス』という名前が引っかかる。どこか、身近な所で聞いたことのある。


(どこだったかな…)


 ありふれた名前ではあるけれど、その名前が妙に気になった。


(確か…幼い頃から名前だけ知ってる人物だったかな?)


 そんなことをベッドの上で考えていると、バーンと大きな音を立てて部屋の扉が開いた。


「レイ!起きてる!?」


 ジーナの時と同じパターン。またかと思ったら、入って来たのは予想外にアスカだった。


「……ノックぐらいしろよ…」


 ベッドから体を起こしてアスカを睨みつけた。


(ルシウスのこと思い出しそうだったのに)


「ユリアとケンカしたんでしょ?連絡しても繋がらないって言ってるんだけど?無視はないよ」


「無視…?」


 そう言えばスマホは制服のジャケットの中に放置してた。


「俺の制服知らない?」


「そんなこと知らないけど、…レイの着てるやつ、テルの服じゃない?せめて着替えてから寝なよ…」


 アスカに指摘されて、服に視線を下ろした。


「あ…」


 確かにテルに借りた服のままだ。そういえば、このシャツ限定物だし絶対汚すなって言われてた。テルは勝手に着た俺に怒ってた。


(という事は…)


「……制服……テルの部屋に忘れてきた。しかも、スマホその中だし…」


 その返答を予測していたアスカは大きなため息をついて、それから顔を上げた。


「それさ、自分で取りに行く?私が行く?それともユリアに届けて貰う?」


 その問いかけに、時計を見上げた。その針は午後7時を指している。今から行くとなると時間も遅いし。来てもらう選択肢は無い。


「取りに行くのは明日でいい」


「バカなの?深夜からアンデット討伐のバイト入ってるじゃん?補助役としてレイに指名入ってたって聞いてるけど?しかも、それ受けたんでしょ?その連絡とかどうするの?」


(…そういえばそんな話し受けてたな)


 本来ならイーター討伐しか受けない。何もかも引き受ける必要なんて無いって思っていたし。

 でも、実績を挙げるには、こういうのにも参加しておいた方がいいから、偶には引き受けようと思ったんだ。


(忘れてた…)


「討伐終わる時間も分からないでしょ?大怪我するかもしれないし…連絡手段無くて大丈夫なの?」


 確かにアスカの言う通りだけど、そもそも、今日のことをアスカに話した覚えはない。


「…何でそんなに詳しいんだ?」

「レイが毎回毎回、広範の攻撃魔法を放つから。属性をつけられる私もセットで呼ばれてるの。気付かなかった?私毎回いるんだけど?」


 そう言えば最近はずっとアスカとセットで依頼が来てた…気がする。

 確かに討伐の時モンスターやアンデットの量が多い時は、広範囲に魔法を放つことは多い。

 でも、プロならそれを予測して避けたり、相殺したり出来るはずだし。一応避けて放ってはいる。モンスターと近すぎる場合はどうしても巻き込んでしまうけど。


(…と、言うかアスカとセットなら別に連絡手段無くても大丈夫じゃないか?)


「ああ。それなら良かった。伝達役は頼んだ。討伐隊との合流時間は深夜1時で、場所は養成校の地下鉄駅前だったよな?……じゃあ、今から寝る」


 それだけ言うともう一度ブランケットを頭からかぶった。


「寝る気なの?ユリア不安そうだったよ。反省もしてたしさ、話しだけでもしたら?」


(…今話したら余計に拗れるだろ)


「…サキュバスとのこと…話しちゃったんでしょ?ユリアはレイの体質のことも…理解してるしさ…」


(そういえば、ユリアと再会してからサキュバスと関係をもってないって…言って無かった。明日すぐにその事は話そう…)


「まぁ、強制はしないけれど…。自分の想いは伝えた方がいいよ?後で絶対後悔するから」


(そんなことは分かってるけど…。それは今じゃない)

 

「話しをする決心ついたらスマホ貸すから」


 それだけ言うとアスカは諦めて俺に背を向けた。その途端にアスカのスマホに着信が入った。


「あ…テルだ」


 部屋から出てから話せばいいのに。何故かその場で通話し始めた。しかも、通話をスピーカーにし始めた。


(うるさいな…)


『レイ俺の服着て帰った挙句に、鞄以外の荷物全部部屋に置き忘れてる』


「…て、言ってるけど?」


 それだけ言ってスマホを手渡してきた。別に要らないのに。


「今からは無理。深夜にアンデット討伐依頼受けてる」


『それって場所は…養成校地下鉄駅付近のアンデット討伐?』


 何故か今日の討伐場所をテルまで知っている。


『…俺も呼ばれてる。深夜だろ?国王陛下から連絡があったんだ。もう1部隊来るって言われてたけれど、それはレイ達だったのか』


「テル国王と連絡取り合う仲なの!?」


 近くで聞いていたアスカが驚いている。アスカはまだテル達の両親の事を知らないから、驚いている。


(今は言わなくていいか。いずれ分かるだろうし…)



「じゃあその時に、服は返せるし俺のも返してくれたらいい」


『レイ…お前がそれいうのか?忘れて行った奴の態度じゃ無いだろ?』


 電話の向こうで何か叫んでいたけれど、もう要は済んだので『じゃ!』と言って電話を切った。アスカがドン引きしてこっちを見ている。


「…レイさ…。ユリア以外に本当優しくないよね。こんな奴のどこがいいんだろ」


「ユリア以外に優しくする必要ってある?」


「じゃあ…そのユリアの誤解もちゃんと解いてあげなさい」


 呆れたように呟いて、差し出されたスマホを受け取ると部屋を出て行った。


「…アイツやっぱりジーナに似てる」


 そう呟くと部屋の灯りを消した。

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