3.出会い①
ユリアは案内を追いかけて階段を駆け上がった。
この階は特殊科目の教室らしい。実験室や防魔室とルームプレートに書いてある。
(多分…この部屋に入った…はず)
1番手前にある防魔室に入ると、男が開いている窓から外を眺めていた。後ろ姿だからよく分からないけれど、黒髪で長身の男性…。服装はパンフレットと同じだから、この学校の生徒だろう。
男の手を見ると風に飛ばされた案内を持っている。
「あのっ…その案内私のです…」
後ろから声をかけたが、全く気づかない。
(…イヤホン付けてる…)
仕方なく肩をたたこうとユリアが手を伸ばした瞬間、男は振り返りユリアの手を握った。
「っ…!っ驚きましたよね。すみません」
こっちが驚いたわ!と心の中で思いながらも、ちゃんと謝った。男も驚いた顔でこちらを見つめている。
男の瞳は、悪魔族特有の真紅だった。瞳の色が赤い程魔力が強いと言われている。こんなに紅い瞳をしている人に会ったのは初めてだった。
悪魔族は昔その美貌で人間を惑わせた。だからなのか、人間離れした妖艶で端正な顔立ちの者が多いと言われている。
この人も…例に漏れず悪魔族なんだろうな。という顔立ちだった。
思わず見惚れていると、男も目を丸くして手を掴んだまま固まっていた。
「あ…すみません!顔立ちが整ってるなって…!違うんです、その…何言ってんだろ」
焦って変なことを言った。男から返事も無く、こっちもどうすればいいのか分からない。自分でも顔が赤くなるのが分かる。
…編入する前に終わった。私の学校生活。そもそも受かってはいないんだけど。
(変な奴認定された…)泣きたくなってうつむきながらも、必死で言葉を捻り出した。
「今日、編入試験の日で…その」
握られたままの手が小刻みに震えている。顔を上げると男は優しく微笑みながら紙を差し出してくれた。
「これ?さっき窓から入って来た」
「ありがとうございます…?」
案内は受け取ったけど、何故か手は握られたままだった。何を言うでもなくじっと見つめたままで…。
燃える様に紅くてルビー色の透き通った瞳に吸い込まれそうだった。
「あ…あの…その瞳…」
「何?…紅い瞳珍しい?」
「そう…ですね。ここまで紅い瞳は、初めて見ました」
男は視線を落として、悲しんでいるようだった。
少し考えてから、ユリアはしまった!と思った。
今だに一部の人は悪魔族に対する強い偏見を持っている事…知ってたはずなのに。嫌な言い方をしてしまった。そんなつもりは微塵もなかったのに。
だけど声に出してしまった言葉は取り戻せない。
「…綺麗な瞳だなって見惚れてただけです」
目をしっかり見てニコッと微笑んだ。
そんなユリアに男は更に言葉を失って、驚いている様だった。
(…しまった…本当何言ってるんだろ…)
会ったばかりの人間にそんなこと言われて驚かない人なんていないか。居た堪れない気持ちになった。
(一刻も早くこの場を立ち去りたい)
うつむいた時に、編入試験の案内が目に入り、当初の目的を思い出した。時計を見ると、試験開始まで15分前になっている。思ったより時間が経っていた。
「どうしよう…編入試験に間に合わないっ!テルの鞄も持ってるし…兄もうけるんです。二人とも遅れちゃう…」
「それ、見せてくれる?」
言われるがままに案内を渡した。どうやら会場を確認してくれているみたい。
「案内する。どうせ暇だし」
会ったばかりの人に、そんな事を頼むのも申し訳ない気がするけど、そんな事言ってる時間も無い。
「ありがとうございます。私はユリア。ユリア・フォレスト。あなたは?」
「俺はレイ・ミシナ。あんたの兄は1人でも大丈夫だろ。最悪、俺が試験官に説明する。急ごうか?」
レイはユリアの手に指を絡めた。何となく恥ずかしくなった。汗をかいてないかすごく気になるし緊張する。
(…恋人繋ぎだし)
「あの…手…」
震える声で言うと、レイが繋いだ手を上げて笑いかけてきた。
「あぁ…これ?ユリアと離れ離れになりたく無いから…」
「!?」
驚いて固まってしまった。そんなユリアを見て、肩を震わせ笑ってる。
(完全に揶揄われてる…)
女の子の扱いに慣れてる。そんな事を考えながら、試験会場へと急いだ。もちろん手はしっかりと繋がれたままで。