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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
7.親睦会

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4.返事(テル)

 朝練の為に四時にセットしているアラームより随分早く目が覚めた。と言うより全く眠れなかった。

 あれはダメだ。理性はある方だと思うけれど。性欲が無いわけじゃない。


(………身体熱ってる。トレーニング早めに行こ…)


 大きなため息と共にベッドを降りた。まだ寝ているレイとゼルを起こさないように静かに部屋を出た。

 乾燥室に向かうと干してあるトレーニングウェアに着替えた。水を一杯飲み軽くストレッチをすると、玄関に置いてある武器ロッカーから大剣を取り出して家を出た。


 朝の自主練に行くには少し早いけれど仕方ない。それに今日は週三回教えている、ガーディアン養成学校中等部の子たちとの特訓の日だし。少し早く着いても問題ない。

 その子達は実戦ルームでの事件の時に助けた子達で…。特訓して欲しいと、事件の後にお願いしてきた。

 自主練も兼ねて毎朝5時から1時間学校の訓練ルームを使う許可をもらっていたから、その時間に来れるなら…と、朝の特訓をすることを了承した。

 養成校は24時間警備はいるし、許可も楽に取れた。自主練が終わるとすぐ大会の朝練。睡眠時間は削られるけどもうルーティン化してる。


 走り込みも兼ねて走って学校に向かっているけど、今日は早くに出たから、いつもよりスピードを落として走った。


 学校に着くと警備のおじさんが俺に気づいて、いつものように鍵を持って来てくれた。


「毎日偉いな。本当俺の若い頃にそっくりだ!」


「おじさんこそ、毎朝お疲れ様」


 小太りでお世辞にも強そうとは言えないけれど、愛想はすごくいい。昨日は朝食にとパンをくれた。


「今日は女の子も一緒か!ますます俺の若い頃にそっくりだ!」


 盛大に笑うけれど俺は一人で来てる。誰だろうと後ろを振り返ると、シュウが息を切らして走ってきた。


「おはよ…テル君出て行くの見えて…追いかけたんだけど…追いつかなくて…」


 シュウは肩で息をしながら俺のシャツの裾を掴んだ。

 少し紅い頬に荒めの息遣い…。ダボっと着たシャツの裾からチラッと見える白い太もも。前屈みになるから、大きくあいた襟ぐりから豊満な胸の谷間が露わになってる。

 驚きすぎて声が出ない。と、いうか格好がまずい。急いで自分のウィンドブレーカーを被せて視線を逸らした。


「…汗くさいけど…これ羽織ってて」

「…あ…ありが…とう…」


 シュウは息を整えるように、深呼吸しながら袖を通している。朝から全力疾走してきたから仕方がない。

 にやにやしながら、こっちを見つめる警備のおじさんに頭を抱えてシュウの手を取った。


「とりあえず、行こうか」

「え…あ、うん!!」


 聞きたいことがいっぱいあったから、特訓ルームへと2人で入った。


(何でそんな姿で外に出たんだ…とか。そもそもこんな朝早くに何で起きていたんだろうとか…)


 武器の準備を準備しながら、そんなことを考えているうちに中等部の子達が来てしまった。


(今日に限って早いんだよ)


「テルさん、おはようございます!今日もお願いします!」


 5人の生徒が1列に並んで挨拶をしにくる。その度に隣りに立っているシュウを見て顔を赤らめてニヤける。


「今日は、彼女さんも一緒ですか?」

「こんな朝から一緒って事は…まさか…」


 まぁお年頃だし。そう言って揶揄う気持ちも分からないではない。でも今は特訓の時間だ。


「…さっさとストレッチしろよ」


 そう指示を出すとみんな元気に返事をしてストレッチを始めた。そう言うところは素直。

 シュウは呼吸を整えながらも「頑張ってね?」なんて声をかけている。


(あぁ…なんかもう…集中しよう…)


 ストレッチが終わるといつも通り、剣術を教えたり、鏡で自分のフォームの確認をしたり、自分の特訓も欠かさなかった。

 シュウは飲み物を渡してくれたり、特訓でかすり傷を負った子の治療してくれたりで、終わる頃にはみんなと打ち解けていた。

 休憩時間になるとみんな、シュウの側に集まって行くし。優しくて綺麗なお姉さんだから仕方ないか。


「シュウさん次も来てくれるんですか?」

「もう来ないって。今日はたまたま」


 シュウの代わりに答えると全員残念がっている。


「テルさんストイックなんですよ。自分の朝練の前に教えてくれてますし…。俺達は週三回ですが、テルさんは毎朝ここで自主練してるんですよ?」


「そうそう!学校休みの日は実戦経験少ないからって、モンスター討伐やイーター討伐にも参加してるみたいだし。すごいですよね?」


「教え方も上手いんです。普通に憧れっす!」


 なんて俺のことをダシにしてシュウに話かけに行く。


「いいから。無駄話ししてないで素振りに戻れよ」


 話していた生徒の首根っこを掴んでトレーニングに戻った。


「…全然知らなかった…」


 小さく呟く声が聞こえて振り返ると、シュウは視線を手に持ったタオルに落として何か考えている。


「シュウは休んでていいから」


「あ…うん。ありがとう」


 顔を上げたシュウは、いつも通りの笑顔でそう答えた。


***

 

 なんとかやり切った。朝の訓練を終えて、鍵を警備室に返すと二人で駅に向かって歩き出した。

 来た時はまだ薄暗かったけれど、すっかり日が昇っている。


「…お疲れ様。みんなテル君の事好きだって。慕われてるね」


「まぁね」


「こんな朝早く出かけていくから驚いたよ…」


「俺の方が驚いた。まさかシュウが付いて来てるなんて思わないし」


「たまたま目が覚めたの。そしたらテル君が出て行くのか見えて、声をかけようとしたら走って行ってしまったから…」


「連絡してくれたらよかったのに」


「慌てて出て来たから、何も持ってなくて。朝早かったし、みんなを起こすのも可哀想で…」


 そうだった家オートロックって事忘れてた。それでその姿か。ようやく納得できた。


「……今日、テル君のこと追いかけて良かったなって思った」


「何で…?」


「…私…勘違いしてた」


 そこまで言うとシュウは俺の前を歩いていく。


「テル君体格にも恵まれてて、凄く器用だから。努力とかそういうことしない人だって勝手に思ってた」


 少し沈黙してからシュウは振り返って微笑んだ。


「でも違ってた。私…何も見ようとしてなかった。テル君のことをみんなが好きになる理由…分かる気がする」


「それって、シュウは俺を好きって事でいい?」


 返事はいつでもいいと言ったくせに。そんな笑顔を俺に向けてそんなことを言うから。浮かれてしまった。そして結局聞いてしまった。


 浮かれている俺とは反対に、シュウは困ったように俯いてまた沈黙してしまった。


「ごめん。私まだ自分の気持ちが分からなくて。テル君のこと好きかどうかは分からない。でもね…もっと知りたいって思うの。それでも良かったら私と付き合って…」


「…え…?」


 困った表情からそんな返事が返ってくるとは思わなかった。一瞬固まった後我に返った。


「いいよ…」


 なんてまのぬけた返事をした。シュウはそんな俺を見ていつものように微笑んでいる。


「うん。…それでいいよ」


 嬉しくて…気が抜けて、思わずその場に座り込んだ。

 シュウは俺のことを知りたいって言ってくれた。しかも『付き合って』と、言ってくれた。それは嫌いよりも、好きの方が強いからそう答えを出してくれたってことだろ?他の人よりも特別だってことだろ?

 それが分かっただけでも充分なのに。シュウが照れ笑いを浮かべながら、俺に手を差し出した。


「これからも…よろしくね?」


 見上げたシュウの微笑んでいる顔は、朝日に照らされて本物の天使のように綺麗だった。

 今すぐに抱きしめて飛び上がりたい程嬉しいけれど、それはやめておく。手を取るのが精一杯だった。


「よろしく…シュウ」


 二人で目を合わせて笑うと立ち上がった途端にスマホが鳴った。


「…ユリアだ…」

「もしかして…私がいないから、みんな探してるんじゃ…?」

「そうだろうな」


 それだけ呟いて通話ボタンを押した。


「テルっっ!どうしよう、シュウがいなくて…っ」


 ユリアの焦る声が聞こえたシュウは、慌てて電話を変わると言って話し始めた。


「ごめんね。オートロックになってて、外に出たら入れなくなっちゃって…。テル君と一緒にいるから大丈夫。うん…心配したよね」


 笑いながら話すシュウの横顔がいつもより近い。


(…笑顔も笑い声も可愛い)


 レイのように昔のシュウを覚えていた訳じゃない。国王に言われるまでシュウの名前すら思い出すことなんて無かった。それなのに…今はその全てが愛おしくて仕方がない。


 一生懸命事情を説明しているシュウと二人で家路についた。もちろん手は繋いだままで。

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