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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
7.親睦会

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2.フィールド訓練(ユリア)

 放課後の訓練が始まり十日が経った。

 

 モンスターの凶暴化騒ぎのあった実戦ルームは、今は私たちの貸切となっている。


 予選会はかくれんぼ。その性質上AチームとBチームが合同で特訓する事が多かった。

 隠れる役である『対象人』はAチーム指導教官のイリーナか、Bチーム指導教官のらトム。

 対象人をゴール地点に運ぶことを阻む役も、その二人のどちらかが指揮をとってガーディアン仲間に略奪指示をだす。


(二人共クラス1stのガーディアンということは、今回の件で初めて知った)


 「かくれんぼ」は、私とテルの耳のいい特性が役に立った。

 モンスターと人の心音の違いが分かるのは、当たり前。慣れて来た今では、Bチームと隠れている教官との違いまで分かるようになった。

 だからこそ、誰よりも早く対象人を見つけ出すことができた。それなのに、ゴールに着けない。


 ゴール地点に行くまでに何度も略奪されてしまう。


 Bチームは本気で略奪しにくるし、襲いかかってくるガーディアンは強い。追加ルールで「対象人」のバングルをガーディアンに壊されたらその時点で失格となるから、全くゴールに着けない。


 初めは1時間半だった放課後訓練は、三日後には2時間…五日後には3時間というよう感じで、訓練は毎日遅くまで続いた。


 その鬼のフィールド訓練が終わると、今度は反省会…。今はその反省会中だ。


(今日も家に着く頃には真っ暗だ…)


「Aチームは対象人を見つけ出すのは早いけど、対象人を疎かにしすぎ。今日は3回バングルを壊されかけた。個人プレーに走り過ぎよ」


 膝に顔を埋める私の頭上で、イリーナ教官の声が響いた。


「Bチームはいつも先を越されて悔しくないのか?対象人は見つけて終わりじゃ無い。先に奪われてしまうなら、奪い取る戦術ももっと考えるべきだ」


 トム教官の声もするけれど…。隣りのBチームもみんなぐったりしている。


(それはそうだ…)


 この10日でSクラスのモンスターを一人100体は倒しているから、みんな疲れきっている。

 流石のテルも口数が少ないし。身内を贔屓するわけじゃないけど、テルは体力はある方なのに。

 現に訓練中は四方八方に気を配り、襲ってくる相手への攻撃指示を出しつつ、自分も戦う。

 対象人を見つけるタイミングの指示や、特性に合った人員配置は全部テルが担っているし。


(リーダーだな…本当に)


「Aチームは集まって」


 イリーナがみんなに声をかけた。その声に立ち上がろうとすると足が震える。立ち上がることすら辛い。


「今まで部隊長であるリーダーは決めて無かったけれど…。今日までの動きを見て決めたわ。Aチームのリーダーは、テル。そして副リーダーはシュウね」


 誰からも異論はないし、そうだろうなって思っていた。テルはやっぱり周りを見て指示を出すのが上手いし…。シュウはそもそもみんなの動きを見てサポートする立場だ。


「テル、リーダーになったからには、ユリアにも優しくしないとダメよ?」


 多分、立ち上がれない程消耗してしまっている私を見て、イリーナはテルに叱ってくれた。


「今日は比較的楽な『護衛』に回したんですけどね?しかも、最後の最後に攻撃を見過ごして対象人怪我させるし…」


 テルが大きなため息と共に嫌味を言ってくる。


(…怒ってる…?)


 今までのフィールド訓練はずっと『捜索』だった。だから今日は疲れの取れていない私を見越して、テルが護衛に回るよう言ってくれた。

 しかも、襲い掛かるモンスターはほぼほぼ3人が倒してくれていた。


(それなのに…)


 いつもその役割はテルだった。護衛をしながら指示を出す感じ。

 今日はテルが捜索になり対象人を見つけ出し、狙っているガーディアンに気配りしながら指示をだしていた。

 私は護衛に集中していればいいだけだったのに…。テルより楽なはずだったのに。

 後ろから対象人を狙っていた、ガーディアンに気付くのが遅れた。そのフォローに回ったのもテルだったし。


「ユリアの一番の役割は捜索と撹乱。運動量が多いのは分かっているけど、すぐにバテ過ぎ」


 正論すぎて何も言えなかった。私じゃレイやゼルの役目は担えない。シュウのように治癒もできないし、アスカのようにいいところで補助もできない。


(…足引っ張ってる…)


 予選は2日間だし本当はこんな事でバテてられない。膝に顔を埋めて泣きそうになる。こんなことで泣いてなんていられない?しっかりしないとダメだ。

 そう、思えば思う程…顔を上げられなくなった。

 

「大丈夫だよユリア。いきなりの配置換えだったし仕方ないよ。頼れるところは頼っていいし、疲れたら疲れたって言ってね?」


 私の肩を抱きながら、シュウはフォローしてくれた。そして、テルに言い過ぎだと言ってくれている。


 テルは絶対にシュウに言い返さないから。シュウはそれを知っていて、テルがヒートアップしてくるといつも助けに入ってくれる。

 シュウに諌められたテルは「言い過ぎた」と謝ってくれた。


「悪いのは私だし…。ありがとう…もっと体力付けるね」


「初めてなんだし仕方ないよ。テルがおかしいだけ。ユリアはいい仕事してるよ」


 なんて言いながらアスカも声をかけてくれる。みんな優しい。


「二人共ピリピリしてるわね?」


 静観していたイリーナが話しに入ってきた。元はと言えば教官が言った言葉のせいだけど。


「ああ、そうか。家でも二人きりだもんね」


 教官は納得するように頷くと、今度はシュウの顔を見た。


「シュウ…今日は泊まりで二人のサポートしてあげたら?明日、明後日は休みだし。フィールド訓練も休みにするからさ…」

「まてまて。何でシュウが泊まりで…」

「…そうだよね?ガイアさんもいないし…奥様は亡くなられたって聞いてたのに。帰りも遅くて大変だったよね?大丈夫。今日は泊まりでサポートするから…」


「…泊まりって…シュウ何言ってるんだ?俺の家でもあるんだけど…」


「まってシュウ…落ち着いて」


「大丈夫。私はそこまで疲れてないよ。だから気にしないでね」


 シュウはもう泊まる気になってしまっている。私とテルは顔を見合わせて固まった。


「だって。良かったじゃない?」


 イリーナ教官はクスッと笑ってテルの肩に手を置いた。


「…誰の差し金ですか?」


 青い顔をしたテルはその手を払いながら問いかけた。


「さぁ…?誰でしょうね?」


 なんて含みを持たせたセリフを残して、イリーナ教官は部屋を出て行ってしまった。


「何…シュウ泊まるの?それなら私も泊まるよ」


 そう言ってくれたのはアスカだった。


「!!そうだ!いいこと考えた!!みんなで親睦会しようよ。ゼル君もレイも…来るよね?」


 シュウとテルを二人にしてしまうのは、何となくまずい気がして気が引けたけれど…。みんながいれば、この問題は解消される。

 それに仲良くなるのはいいことだし。我ながらいいことを思いついた。


 ゼルは嬉しそうに頷いているし、レイも行くと言ってくれた。


 さっきまでのピリピリした空気は消え去り、皆んな笑顔で学校を後にした。

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