17.推し(ユリア)
レイにアスカを連れ去られた後、私とシュウはお昼をコンビニで買って教室へ戻った。
「アスカ…遅いね…」
シュウの視線の先にある時計を見るとらランチ時間は残り十分になってしまっている。
「もう…食べる時間は無いよね?」
もちろん教室にいるという連絡は、アスカに入れてある。ゼル君との話しが長引いているのかもしれない。
確かにアスカはゼル君のこと全く覚えていないのに、ゼル君が覚えているなんて不思議な状況だし。
(…もしかして…私達と同じように記憶を消されたとか…?)
私が考え込んでいると、目の前のシュウも同じように何かを考えているみたいだ。
「シュウ…?どうしたの?」
「……ユリア…もしかしたら私…ゼル君のこと…」
「あー…。お腹空いた。ごめんね?二人共、何か食べる物ある…?」
何かを言おうとしたシュウの前に、アスカがどさりと座った。
「おかえりアスカ。もちろん準備してあるよ?」
自慢気にサンドイッチを渡すと、アスカはありがとうと受け取り、パッケージを開けて急いで頬張っている。
「…ねぇアスカ…ゼル君て…あの時の…あの森で助けた子だよね?」
「!!さすがシュウ。そうなんだって」
二人の言ったことに首を傾げていると、シュウが三年前のことを話してくれた。
ゼル君がしたかった話も、やっぱりそのことだったらしくて。アスカに恩を感じていての、好きセリフだったらしい。
その話しを聞いた私は…。思わず泣いてしまった。
「…アスカ…って優しいでしょ?私もその場にいたけれど、あの時アスカらしいなって思った」
シュウが泣いている私にハンカチを貸してくれた。うんうんと、頷きながらそれを受け取って涙を拭ってアスカを見つめた。
「うん。シュウももちろん優しいよ?ゼル君がこの学校に入れたのもシュウのお陰だし。でも…ゼル君がアスカを好きになっちゃう理由分かる…」
「ゼルにも言われたけどさ…。怪我を治して、命を助けたのはシュウでしょ?」
そうだけど、そうじゃない。ゼルはアスカの優しさに救われたんだと思う。
誰も信じられなくて、死にかけるくらい弱っていたのに、誰も手を差し伸べてくれなかった。
そんなゼルをアスカはなんの躊躇もなく抱きしめて、そして手を差し伸べてくれた。
(そんなの私も好きになるよ……)
ゼル君のアスカに向ける視線の理由も、あの言葉の裏側に隠された言葉の意味も、全部が理解できる。
(…と言うより推せる。やっぱり私はゼル君を全力で応援する!!)
アスカは好きな人がいると言っていたけれど…。上手くいってくれたらいいなと思わずにはいられない。
「ユリア…お腹空いた。食べる物ある?」
ひっそりと、そんな決意をしている私の視界に、まさかのレイが映り込んだ。
「レイ!?あ…あるよ?……食べる?スティックパン」
「なんでもいいよ…。疲れたから食べさせて?」
肩に腕を回しながら、レイが甘えて顔を近づけてくる。何が起こったのかわからなくて、スティックパンを手にしたままで固まってしまった。
今日はずっと固い表情だったのに、今は甘えたになって、口を開けているし。
(食べさせてって……本気…?!)
「…正気なの?」
アスカは呆れながらそう言って視線を逸らした。
「レイ君…。今朝から色々とユリアの心配してたもんね」
シュウが微笑みながらレイに言っている。
そういえば今日はチーム決めとかあったから。あの不安そうな表情は、私の心配をしてくれていたからかもしれない。
「……シュウ、レイのこと買いかぶりすぎしっかり食べてた」
「食べてましたよね?」
答えたのは呆れ顔のテルと、にこにこ笑っているゼル君だった。
レイも「先に食べてたくせに」なんて、二人に向かって口答えしている。
(レイが打ち解けてる)
これから数ヶ月大会に向けて一緒に頑張るチームなんだから、ギスギスしているより和やかな方が絶対いいもん。
そんなことを思いながら、私とシュウは目を合わせて微笑んだ。




