2.ガーディアン養成校へ②
駅を出ると異様な風景が広がっていた。
目の前に広がる白くて高い壁。まるで境界線のようにどこまで見ても白い壁だった。
パンフレットには、6歳~22歳までの一貫校で、孤児院も併設。寮や武器ショップ。おまけにカフェもあると書いてあったっけ?敷地面積も書いてあったけど…こんなに広いなんて、思ってもなかった。高い壁に阻まれて外からは中が全く見えないし、音も聞こえてこないその様は、まるで要塞だった。
「うわぁ…何この壁…」
「まあガーディアンの養成校だからな。色々と極秘なんだろ?」
驚いて立ち止まるユリアを尻目に、テルは壁の一角にポツンと見える守衛室に向かって歩き出した。そんなテルの背中を見送るとユリアは壁を見上げた。空高くそびえ立つ白い壁と、青い空のコントラストがなんだかこの世から切り離された空間のようだ。
ーー見上げた空があまりにも青くて、『ママが死んだ』あの日の空の色と同じだ…。なんて思ってしまった。
ママが死んだのが 14歳の時…もう5年も前の事になる。もうずっと前のことなのに、昨日のことのように思い出してしまう。優しくて、温かい声や笑顔…。
「ユリア、早くしろよ」
テルに呼ばれて我に返った。ごめん!と叫び返すと2人分の鞄を抱えて、テルの元へ急いだ。
***
入館の手続きは、テルが守衛さんと話をしながら行なってくれている。
ユリアは特にする事もなくテルの後ろに立って、父親のことを考えていた。
この学校は「ガーディアン」つまり、イーターと戦う事を目的とした兵士を育てる学校だ。
(『イーターには近づくな』そう言ってたくせに)
不意にパパがいつも言ってた事を思い出して、ちょっとだけイライラしてしまった。
パパはガーディアンの国王軍隊長だから、殆ど家には帰ってこなかった。2人が16歳を過ぎた頃には、年に2・3回顔見せ程度に帰ってくる位だった。定期的に連絡はとっていたけど、ここ1年位は返事も返ってこないことが多かった。
そんなパパがいきなり帰って来たかと思ったら、いきなり『この学校に編入しろ。手続きは終わってる』と、パンフレットを持って来たのは1ヶ月前。
(何の説明もしないんだもん…。テルは今回の編入の事…どう思ってるんだろ?)
手続きが終わったのか、守衛と談笑しているテルをみた。私とは違って社交的で、誰からも好かれてる。…そんな兄を羨む気持ちもあった。
ーーテルがいたからパパがいなくても平気だった。偉そうにしてるけど、本当に困ったときは助けてくれるし。何となく頼りにはしてる。
(女の子を連れ込む事とかは多々あったけど…)
談笑が終わったのか、守衛のおじさんが扉が開いてくれた。ユリアがペコリと頭を下げると、頑張れよ!と手を振ってくれた。気さくな守衛さんに緊張が少しほぐれた。
要塞の中には校舎と、学生寮、食堂、おしゃれなカフェなどもある。もちろん、ウェポンショップや魔導書専門店も…。
「うわぁ!すごいね!街がまるまる入ったみたい!」
「いいから、行くぞ。試験会場の案内出せよ。確認するから」
テルはユリアに向かって手を出した。
「ちょ…ちょっと待って。確かここに…」
鞄を2つ抱えたままで、ガサガサ漁った。自分のは持ってくれてもいいのに。と、不貞腐れながら、乱暴にリュックを開くと、紙が1枚ヒラリと落ちた。
『編入試験案内』とかいてある。まさに、探していたものだ。
拾おうとした瞬間、強い風が吹いて紙を巻き上げた。案内は大空をひらひら舞い、校舎の一室に入っていった。
「わー…3階かな?すごく舞いあがったね!」
苦笑いでテルを見るとイラついているのが分かった。
「…お前さ…」
テルが次に言おうとしている事が、その表情からわかる。『さっさと取りにいけよ』…だ。テルが言う前に、全速力で走った。走る事には自信があるし、大丈夫。
「すぐに取って来るから、そこで待ってて!!」
「っ!ちょっと待てよ!案内ならもう1冊あるだろ!?ユリア!!」
テルが後ろから大声で叫んだが、ユリアは校舎の中に消えた後だった。