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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
6.交わる過去

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12.疑惑(テル)

お昼を買って二人でゼルと約束した屋上に向かう。

 いつもより、張り詰めた表情のレイを見た。

 レイはゼルが仇討ちの為にセイレーンを狙っているなら、「殺すよ」と言い切った。

 相手が『スケープゴートの子供』だとしても同情したりはしない。


(でも…俺は違う)


 ゼルが本当にそうだとしたら?それでセイレーンを恨んでいるとしたら…?


 恨んで当然だろう。と思う自分がいる。


 ゼルの母親は自らそれを選び、死ぬ覚悟はできていただろう。自らの命と、セイレーンが捕まることを天秤にかけた時、セイレーンを守ることを取った人なんだから。

 でも、残された幼いゼルは、母親を失う覚悟なんて出来ていなかっただろう。


(俺たちは恨まれて当然だ)


 そう思いながら屋上の扉を開けると、転落防止の柵に座り足を投げ出しているゼルがいた。


「二人とも遅かったですね?」


 かなり高い柵なのに…。その上に立ち上がると、こちらを振り返りニコリと笑って見せた。


「……危ないだろ?」


「大丈夫ですよ。落ちるようなヘマはしません。…で、どこから話せばいいでしょうか?」


 猫のようにふわりと柵から飛び降りると、微笑みながら俺たち二人の前に立った。


「…お前がライラの息子だっていう噂は本当か?」


 いきなり直球の質問。レイはユリアのことを守りたいということ以外、何も考えていないようだ。


「そうですよ?僕の母親は表向きはオペラ歌手で女優。裏ではのセイレーンのスケープゴートだったライラです。幼い時に死んだので本名は僕も知りませんあ、スケープゴートも一般的には知られてないか…」


 ゼルはわざとらしくにこりと微笑んだ。


「レイさんは僕を覚えているはずですよね?両親が殺された後、しばらくお邪魔になってたんだから」


 そう話しを振ると言うことは、ゼルはやっぱりレイの言っていた通りの人物だと確信した。問われたレイも、静かに頷いた。


「覚えているのは助けた子が傷だらけだったこと。それとその子がしばらく家にいたことくらいだ。ゼルがその子だったと気付いたのは『ライラ』の子供だって噂か出たからだし」


 ゼルは黙り込んで何か考え混むように口元に手を当てている。


「…僕も聞きたいことがあります。今の話しで、やっぱりレイさんは《《あの》》レイさんだってことですよね?じゃあなんで、アスカさんは僕のこと思い出してくれないんでしょうか?」


「ああ。それね。思い出さないんじゃない。アスカは記憶障害だ」


「記憶…障害…?」


「アスカも重傷だったのは覚えているだろ?しばらくはゼルと同じように、夜を怖がっていた。でも、ある日突然お前の記憶が全て無くなってた。自分を守る為にそうなったって…医者は言ってた。人間て、よく出来てるよな」


 レイが重苦しく話してる内容は、さっき相談して考えたことだった。

 セイレーンにに記憶を消されたなんて言えないから。苦肉の策だ。無理矢理感は否めないけど、それを感じさせないくらい、レイは顔色を全く変えずに話してる。意外と演技派だ。


「…そうだったんですね。僕は身体が壊れてしまったけれど…アスカさんは心が壊れてしまっていたんだ…」


 ゼルは幼い頃イーターに襲われて、痛覚を無くしてしまったと言っていた。そのことを指しているんだろう。


「……良かったら昔何があったのか、話してくれないか?ゼルのことを俺たちも、もう少し詳しく知りたいんだ」


 そして誰を恨んでいるんだ?と、聞きたかったけど言葉を飲み込んだ。


「そうですね。アスカさんが忘れているのならあんなことは思い出さなくていい…。逆に記憶が無くて良かったです」


 言葉を飲み込んだはずなのに、ゼルは全てを悟ったような表情で俺を見た。


「因みにですが……僕はこの国を…ブルームン国を恨んでなんていないですから」


(勘違い…)


 そうだった。セイレーンを匿っているのは、この国の国王である『イリヤ』だ。スケープゴートの息子なら誰が()を雇ったのか、知っていたはずだ。


 俺は『シュウが好き』だということを前面に出していた。そして、シュウは雇用主であるこの国のプリンセス。

 

 ゼルは『俺』がシュウに仇討ちするんじゃないかと、疑念を抱いている。そう思ったんだ。

 完全なる勘違いだけど、そう思ってくれているならそれはそれで『あり』だ。

 セイレーンに対するゼル自身の思いを聞きやすくなった。

 レイもそれに気付いたようだ。目配せをしながら話しを続けた。


「それで近づいてきたのかと思った…」


「あはは。それは、勘繰りすぎです。誰のことも恨んでなんかいません…。恨むとしたら、弱かった自分と…母ライラです」


「恨んでいないなんて…口ではいくらでも言えるだろ?」


 敵対心むき出しのレイに、ゼルは何故か微笑みを浮かべた。


「そうですね。何とでも言えますね。でも僕も母も『ミシナさん』に、助けて貰っているんですよ…。母から何度も聞かされた…僕が産まれる前の話しになります」


 そう呟いて、ゼルは懐かしいことを思い出すかのようにその瞳を閉じた。

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