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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
6.交わる過去

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9.スケープゴート(テル)

 珍しく俺の元に来たレイは「ゼルのことで思い当たることがある」と耳元で伝えてきた。


 ゼルはアスカを知っているようだったし、アスカはゼルを覚えていない。

 俺にも思い当たることがある。多分、母さんのチカラを使って、アスカは記憶を消されている。

 顔を上げた俺に向かってレイは、付いて来いと教室のドアを指差した。

 レイが向かった先は防魔室だった。魔法を閉じ込める為に、密閉されている部屋だ。入るとすぐにレイが扉の鍵を締めた。

 もうすぐ授業が始まる上に特殊教室。周りにも人の気配はしない。


「あのさ、ユリアは耳がいいっていうけど…どの位まで聞こえるんだ?」


 不安そうに聞いてきたレイに、やっぱり母さんが絡んでいるんだと思った。


「静かな場所なら半径2キロ。だけど、今は校内だし俺達の声を聞き取ることは多分できない」


 そうか。と、安心したレイは教室の椅子を引いて座った。


「…思い出したんだ。ゼルの母親…女優のライラは自殺なんかじゃなかった。セイレーンの影武者としてイーターに喰われたんだ」


 セイレーンが絡んでいるとは思っていたけれど、思ったよりも衝撃的だった。


「何で、そんな事知ってるんだ?」


「10年前にアスカと父親で出かけた時、二人とも何故か傷だらけで、瀕死の女の子を抱いて帰って来た事があった。女の子だと思っていたその子は…たぶんゼルだった」


(そうだ…レイの親も国王軍だ…)


 レイの父親オスカも国王直属のガーディアンとして働いていた。


「それが…何でゼルだと思ったんだ?」


 レイは話しを続けた。魔王族の高い魔力を誇るオスカは、年中イーターの討伐に向かっていた。

 その日は、家にあまり帰って来ることのなかったオスカが、久しぶりの休暇で家に帰ってきた日だった。

 パパっ子だったアスカは喜んで「パパとどこか出かける!」と言ってはしゃいでいた。

 遊園地にでも行くか?と、二人で朝から準備をしていた。レイも行くか?と聞いてきたけれど、乗り物酔いするから断った。


「お前、乗り物酔いするんだ」

「……そこに食いつくなよ。話を戻すぞ」


 帰ってきたオスカは血まみれで…。何故か瀕死の女の子とアスカを抱き抱えていた。

 その後、シュウの父親であるイリヤが家にやって来たから、ただ事じゃないと子供ながらに感じた。

 オスカに運ばれてきた子は、生きているのが不思議なくらい重傷で、腹部に抉られたような穴が空いていた。


「イーターにやられた。クリフトは目の前で食われた。ライラは…飛び降りた」


 何があったのか聞く国王に、オスカそう報告していた。そのライラが、セイレーンのスケープゴートだと知ったのは、それからずっと後だったけど。


 国王の治癒力をもってしても、その子の傷は塞がらない。一命は取り留めたが予断を許さない状態が暫く続いた。何日かして意識が戻った後、今度は精神的なものからか誰とも口をきかなかった。

 でも、ライラが自殺したってニュースが流れた時に『ママも死んじゃったんだ』って呟いたのを覚えてる。

 そして誰とも話さないくせに…。何故かアスカにはべったりくっついていて、アスカとは寝る時も一緒だった。

 そんな状態だったから…。暫くはうちで匿ってたけどいつからか居なくなってた。


「ゼルがその子なら…『セイレーン』を恨んでいてもおかしくはない。まだ確証は無いけれど、状況的には()()に違いない」


 レイの言っていることは、さっき俺が考えていた『アスカの記憶がない』ことを指している。

 思い出したことが本当なら…。やっぱりゼルは『ライラの息子』なのかもしれない。


「…そうだな。ゼルが真実を知っているなら、恨まれて仕方がないな」


 イーターは実験体のセイレーンに子供がいると知っている。だからこそ、幼い子供のいる女性をスケープゴートとして何人も用意していた。

 セイレーンがイーターに捉えられると、もっと犠牲者が増える。もちろん、スケープゴートには、国王軍クラスのガーディアンもSPとしてつけられる。無理強いはしない。志願者のみを起用している。

 大勢を守る為に自分を犠牲にして、他のみんなの幸せを望んだ強い人だと聞いている。それでも、本人の意思だとしても…残酷だよなと思わずにはいられない。


「アスカに記憶が無いのは…母さんの力だよな?」


 その問いにレイは頷いた。


「…アスカは目の前で人が食われるのを見てしまって、壊れかけていた。だから両親がエレンさんに頼んで記憶を消して貰ってたんだ」


 何の覚悟も無く目の前でそんな事がおきたら?子供だったアスカはきっと耐えられ無かっただろう。


(アスカが忘れているなら…無理に思い出す必要は無いか…)


「分かった。今まで通りユリアのことがバレないよう、気をつけるよ」


「今まで以上に…だよ?」


 レイはそう念押しすると、防魔室の扉を開けた。

 ユリアのどこがいいのかは、俺にはいまいち分からないけれど、レイの想いが重いなんて考えると、暗い気分が少し和んだ。


 授業開始のチャイムが鳴っている。完全に遅刻だと、レイを小突きながら実戦室へ向かった。

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