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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
6.交わる過去

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7.笑顔の裏側(テル)

「そう言えば、テル君…過去を思い出したって聞いてるけど…シュウの事は思い出したかい?」


 大剣を鞘に戻している俺に、国王は世間話をするかのように聞いてきた。軽い感じで…表情は変わらない。ただ、何故かそのことが気になるようだ。


「…すみません。昔のシュウのことは全く思い出せないんです」


「そうなんだね。じゃあ…エレンさんの力は全く効かない訳じゃないんだ。君たち二人は、すごく仲が良かったから」


(仲が良かった…?)


 幼い頃、お城で過ごした記憶の中に、シュウはいない。女の子はアスカとユリアだけだったはずだ。

 王妃や国王が俺たちの様子を微笑んで見ていた光景も覚えているのに…。何故かシュウのことだけ思い出せないことに、違和感を覚えた。


(それともう一つの違和感…)


 お城で仲の良かった男の子。その子が誰だったか、全く思い出せない。王子のような笑みを浮かべる、剣術に優れていた子…。

 国王ならその子が誰なのか知っているかもしれない。


「シュウのことは覚えていないんですが、お城で一緒に稽古してた男の子は覚えているんです」


「…へぇ…」


「よく剣術の稽古をしていたはずですが、名前も思い出せませんが…。ご存知ですか?確か国王ご夫妻もその場にいることが多かったと思うんですが…」


 国王は目を丸くしてから、フッと微笑んだ。


「何だ…名前を思い出せなかっただけなんだ」


「…え?」


「その子がシュウだよ」


(ウソだろ…?)


 もしそうなら、記憶の中の男の子は天使族なはずだ。それなのに剣術の試合で勝敗は五分五分だった。

 負けず嫌いで真面目。何があっても、どんなにキツイ訓練にも弱音ひとつ吐かない子だった。真面目過ぎて…、頑張り過ぎで倒れてしまった時もあった。

 背負って部屋まで連れて行こうとする俺に、嫌だと言って自分で立ち上がっていた負けず嫌いに笑ってしまうこともあった。

 頭が良くて筋もいい。いつも冷静沈着。幼いころの俺は…その子に憧れすら抱いていた。


(あの子が『シュウ』…?)


 次に続く言葉が出てこない。口を覆ったまま固まってしまった俺に、国王は笑っている。


「そうか。テル君の記憶の中のシュウは男の子だったよね?…懐かしいな…少し話しをしよう」


 そう言って、混乱している俺をsuv型のリムジンの中へ招き入れた。


 車中はバーカウンターのついた作りになっている。ソファーやテーブルまである仕様だ。

 混乱して立ち尽くす俺に、国王がジンジャーエールを手渡して微笑みかけた。


「適当に座っていいよ…。さっきの話し何だけれど覚えていてくれて嬉しいよ。君たちは二人で強くなったようなものだから。いわゆるライバルだったんだ」


 確かにあの子だとすると、歳も同じで体格も似ていたから…。いつも稽古の相手だった。


(それより…)


「…聞いてもいいですか?なんでシュウは男になりたがっていたんでしょうか?」


「テル君はシュウが純血の天使族ではないことを知っているかい?」


「…いえ…知らないです」


 『純血の天使族では無い』に、驚きはしなかった。何となく純血ではない気はしていたし、シュウの見た目は天使族のそれでは無かった。

 天使族は色素が薄く、金髪、瞳の色も大抵は青かエメラルドグリーンだ。

 それに対してシュウは髪も黒いし、瞳の色もグレーだった。


「…世間的には公表していないけれど、シュウの母親…僕の妻ミーナは天使族と悪魔族サキュバスのハーフなんだ」


 何でも無いことのように、公にされてないことを話す国王に目を丸くしてしまった。


「妻と初めて会ったのは17歳の頃。彼女は25歳だったんだけど、僕の一目惚れだったんだ。今も女神のように綺麗だよ?写真あるけど見てみる?」


 なんてスマホを取り出して、ニコニコしている。


(…シュウが男になりたがってた話はどこにいったんだ?)


 と思いつつも流石にツッコミは入れれない。


「18歳の時に僕からプロポーズしたんだけど、ミーナは頑として首を縦に振ってはくれなくて…。だから、19歳の時にミーナを酔わせて既成事実を…」

「まて!っじゃなくてまって下さい。犯罪ですし、シュウの話に戻して下さい!」


 飲んでいたジンジャーエールを思いっきり吹いてしまった。国王は冗談だよ。と笑っているけど、さすがに俺は笑えない。


「話を戻すね。ミーナはサキュバスとの混血だった事で城中の心ない人間から『穢れた血』と呼ばれていたんだ」


 ブルームン王国は天使族の国。その王族は代々多種族の血の混ざらない、いわゆる『純血』の天使族が治めていた。

 もちろん妻となる人物も、血統付きの純血の天使族であることが絶対条件だった。

 純血主義の言い分には『聖なる武器』のを作れなくなるということもあった。

 この国の国王だけが作れる『聖なる武器』は他の種族の血が混ざると造れない。


「バカらしいと思わないか?血筋に何の意味があるんだろうね。混じり合って弱点を補い、生き物は強くなるはずなのに。この国はずっと力の弱い『天使族』の国のままだ。それに聖なる武器を作ったのだって戦えない天使族が唯一できることだったからだし。だけど、そんな古い考えの者達がブルームン城内には山程いる」


 強い言葉とは裏腹に国王は微笑んで話しを続けた。


「そして、妊娠が分かった時もそいつらは男の子が産まれることを願っていたよ。サキュバスであれば男ならその能力は受け継がれることはない」


 優性遺伝の話しだ。確かに男であれば、優性されるのは「天使族」の血の方だ。

 サキュバスの血が混ざるのであれば、男であれば純血の天使族になる…。だからこそ、そういう考えの者たちが男を望むことも理解できる。


「だけど…産まれたのは女のシュウだった。その頃から2人の暗殺を企てるものも出てきたんだ」


 その居心地の悪さは容易に想像できる。女であるシュウは、純血を望む者にとっては望まれない子供だったのだから。


 当時王子であったイリヤはもちろん。その子供には期待されていたのに、期待されていた子供はこの国の重鎮達にとっては期待外れだったんだ。

 せめて男だったらと心無い言葉が、幼いシュウに向かってかけられていた。だからこそきっと、シュウは自分を守る為に男の格好をして男だと言い張っていたんだ。


「今は()()()になったけれど…。本心では今も葛藤してるんじゃないかな?」


(…今日の武器ショップで言ってた事はそのせいか…)


 シュウの中では過去の話しなんかじゃない。国王が言うように今も苦しんでる。

 シュウがそんな辛い思いをしてるなんて、思ってもいなかった。

 周りとは違う雰囲気を纏っていたのは、この国のプリンセスとしての誇りがあるからだと思ってた。

 強い者にも怯まず立ち向かい、辛い時に誰にも頼らないのは、それはシュウが強いからだと思っていた。


(違う…。()()()()()()んだ)


 幼い頃からら周りは敵だらけ。誰が味方で誰が敵なのか分からない環境。シュウはきっと一人でも強くなれるように、己を鍛えていたんだ。だからこそ幼い頃から、頑なに手助けを拒んでいた。

 弱さを見せることは、自分の命も…母親さえも危険に巻き込んでしまうことになるから。

 

「今の話で分かったかも知れないけど狙われているのはユリアちゃんだけじゃない。悲しいことに、この国のプリンセスはこの国から命を狙われてるんだ」


(そうだろうな…)


 身内からずっと命を狙われている事を思うと胸が痛む。それを周りには感じさせない。いつも微笑んで、日常を送っているシュウを素直にすごいと思えた。

 それに…。おこがましいことかもしれないけれど、救いたいと思ってしまった。


「…シュウは俺が必ず守ります」


 決意を声に出して伝えた。相手は国王だけど。


「ありがとう。…あと…今言ったことはシュウには内緒にしてくれないかな?…分かるだろ?シュウは気が強いんだ」


 罰の悪そうに言う国王にうなづいた。ありがとうと、微笑む国王はどこか儚げなシュウに似ている。


「…もう一度聞くけれど、君たちのこと…シュウに話す気はないのかい?」


 その問いの答えはもう決まっている。シュウが力になってくれる事はわかってる。でも、それ以上にシュウは無理をする。

 シュウは自己犠牲を何とも思わない。もし、ザレス国が攻めて来たら?それこそユリアを守る為にシュウは自分を犠牲にするだろう。


「言いません。…信用してないとかでは無いんです。ただ…俺は今のシュウが大事なんです。巻き込みたくはない…その思いは変わりません」


 なんてシュウの父親…国王に向かって言ってしまった。

 まだ告白の返事すらもらえていないのに。いきなりの彼氏ヅラをその父親にしてしまった。


「…え…?君たちそんな関係なの?」


 やっぱり、そんなツッコミが入るだろうと思っていた。国王は驚いてはいるけれどどこか嬉しそうだ。


「…いや…俺が好きなだけです…」


 自分で言っておいて辛くなる。何でこんなことを好きな人の父親に宣言してるんだろう。

 こんなことは、シュウ本人には言えないから仕方ない。

 俺が「シュウを危険にさらしたくない」なんて言ったら「戦えるよ」と、また少し怒った笑顔で言うだけだ。


「へ~そうなんだ。良かった。()()なってくれたら嬉しいと思ってたんだよ…。ふつつかな娘だけど、よろしくね?」


「………はい…?」


そんな軽い感じで返されるとは思ってもいなかった。


(どういう状態だ…?これは…?)


 情報量が多過ぎて混乱する。この親子の前では調子が狂ってしまう。

 なんて思いながら、ジンジャーエールを飲んだ。

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