2.美味しそう(ユリア)
2☆
今日は私の部屋で『Aクラス残留』のお祝いをレイと二人ですることになった。立ち寄ったコンビニで、食べたかった『モカチーズスフレ』を発見して目を輝かせた。
「…これが食べたかったやつ?」
「うん!そう…」
返事をするとレイは持っていたカゴにそのケーキを入れた。
「…いいよ。ユリアのお祝いだし。一緒に買うから」
「ダメだよ!」
意地になってカゴの取手を掴んだ。ケーキを食べたいと言ったのは私だし。奢るからコンビニに寄ろうと提案してのは私の方だったから。
「いいって。多分ユリアじゃ買えないし…」
「買えないって…?何、買うの…?」
レイに言われて掴んだカゴに視線を移す。入っていたのは、ケーキと炭酸水。それと……コンドームの箱。
「!!」
思わず赤面して掴んでいた手を離した。
「ね?…そーゆー顔になるから。他に欲しいものある?」
「…ないっ……ない…です…」
「じゃあ買ってくる。外で待ってて?」
それだけしれっと言うとレジに向かってしまった。
まだドキドキしてる。コンビニの外に出ると大きく息を吐いた。
(そうなんだ…。今日…そーゆーつもりなんだ…)
この前未遂に終わってからは…一度もそう言う雰囲気にはならなかったし。完全に油断してた。
(…可愛いの付けてたかな…?)
そんなことが不安になってしまった。制服の首元から服の中を覗き込んで、確認してみたりして。
(あー…もう!!今日に限って可愛くない…)
俺は別にやらなくても平気みたいな顔をしていたくせに。今日もいつも通りだったくせに。心臓に悪い…膝に顔を埋めて真っ赤な顔を隠した。
「…何うずくまってんの?」
袋を片手に顔を覗き込んできたレイは、意地悪に笑って手を差し出した。
「…レイのせいじゃん…」
手を取りながら恨み節を吐いてみる。……全然効果は無かったけれど。
「行こうか?ケーキが溶ける」
「ケーキは……溶けないよ」
高めのレイの体温より今の私の身体の方が熱いのか…。触れたレイの手と私の体温は同じだった。
***
「えっと…そんなに見つめられたら食べにくいんだけど…?」
部屋のソファーに座り、買って来たばかりのケーキを食べていたけれど…。
レイは真横で私の食べる口元をずっと見ている。その視線が突き刺さり、居心地が悪くなった。
「…美味しそうだと思って」
「あ…っ…食べる?」
ケーキを頬張りながら呟いた。そういえば…レイは何も買って無かった。私が食べているのを見てお腹が空いてきたのかも。人が食べているのを見たらそうなるよね?なんて、残り一口分のケーキをフォークに取った。
「そっちじゃない」
「…え…?」
レイは私の手を引いて顔を近づけた。唇が重なる。一瞬何が起こったか分からなくて固まってしまった。
「…唇…ピンクでぷっくりしてて美味しそう」
「…っな…っ…!…っ!」
「もういい?」
「えっ…まだ食べ終わってな……きゃっ!」
ふわっと身体が宙に浮いた。テーブルの上にフォークが落ちる音が響く。
返事をする前にベッドに運ばれてしまった。
***
唇を何度も重ねた。貪りつくような激しいキス。息が出来なくて大きく口を開くと、そこを狙って口蓋を舌でなぞりそして吸い付いつくから…。
息が出来なくて声が漏れた。厚い舌の感触。混じり合う唾液が唇の端から顎を伝う。それを拭ってくれる指の感触。
「…思ったとおり…おいし…」
私をベッドに優しく寝かせて覆い被さった。荒い息遣いで呟くように言うと、私の身体に跨って服を脱いでいく。
細く見えて筋肉質の身体。潤んで輝きを増した真紅の瞳。余りに綺麗で思わず目を逸らした。
思考が蕩けてく。不意に初めて身体を重ねた時のことを思い出した。
3年前に一度だけだけど…。その時初めて知った。
セイレーンは身体を重ねると、相手の魔力や精力を吸収してしまうことを…。
ひっそりと生きてきて、更に個体数の少ない種族のセイレーン。だからこそ、どのような力があるのかとか、そういうことは文献にも残ってない。
自分の意思ではどうにもならない。どういう条件でどれだけの魔力を吸収するのかも分からない。全て分からない。
そういうことを教えてくれる人は…もうこの世にはいないのだから。
ただ一つ…。分かっていることは、吸収した魔力は言葉を発すると全て『魅了』の力となり、私から発せられるということだ。
(だとしたら…声は…出せない…)
『声』だけでそうなるのか『意味を持つ言葉』でそうなるのかはよく分からないけれど。それは、3年前に証明された。
(そうなったことは1回だけだし…。それ以外に身体を重ねた経験無いし…)
でも危機回避の為にできる限り抑えないといけない。
(レイが魅了になったら…きっとマズい気がする!強いから…)
身体を撫でるレイの手に、ビクッと身体が強張った。どうしても声を出すことはできない。
「ずっと触れたかった…。ユリアはやっぱり綺麗だ…」
そう言うと私の服も慣れた手つきで脱がせていく。
(綺麗な人に…綺麗って言われた…)
顔を真っ赤にしている私は、それを隠すためにレイの背中に腕をまわして強く抱きついた。
合わさる身体から温かい流れ込んでくる。頭がふわふわして、目の前の風景が霞んでく。
レイが何か言ったような気がするけれど、意識は遠のいてしまってそのまま倒れるように、身体をあずけた。
ムーン版ではもう少し長く…レイがねちっこくなってます。




