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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
6.交わる過去

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2.美味しそう(ユリア)

2☆

 今日は私の部屋で『Aクラス残留』のお祝いをレイと二人ですることになった。立ち寄ったコンビニで、食べたかった『モカチーズスフレ』を発見して目を輝かせた。


「…これが食べたかったやつ?」

「うん!そう…」


 返事をするとレイは持っていたカゴにそのケーキを入れた。


「…いいよ。ユリアのお祝いだし。一緒に買うから」

「ダメだよ!」


 意地になってカゴの取手を掴んだ。ケーキを食べたいと言ったのは私だし。奢るからコンビニに寄ろうと提案してのは私の方だったから。


「いいって。多分ユリアじゃ買えないし…」

「買えないって…?何、買うの…?」


 レイに言われて掴んだカゴに視線を移す。入っていたのは、ケーキと炭酸水。それと……コンドームの箱。


「!!」


 思わず赤面して掴んでいた手を離した。


「ね?…そーゆー顔になるから。他に欲しいものある?」

「…ないっ……ない…です…」

「じゃあ買ってくる。外で待ってて?」


 それだけしれっと言うとレジに向かってしまった。

 まだドキドキしてる。コンビニの外に出ると大きく息を吐いた。


(そうなんだ…。今日…そーゆーつもりなんだ…)


 この前未遂に終わってからは…一度もそう言う雰囲気にはならなかったし。完全に油断してた。


(…可愛いの付けてたかな…?)


 そんなことが不安になってしまった。制服の首元から服の中を覗き込んで、確認してみたりして。


 (あー…もう!!今日に限って可愛くない…)


 俺は別にやらなくても平気みたいな顔をしていたくせに。今日もいつも通りだったくせに。心臓に悪い…膝に顔を埋めて真っ赤な顔を隠した。


「…何うずくまってんの?」


 袋を片手に顔を覗き込んできたレイは、意地悪に笑って手を差し出した。


「…レイのせいじゃん…」


 手を取りながら恨み節を吐いてみる。……全然効果は無かったけれど。


「行こうか?ケーキが溶ける」

「ケーキは……溶けないよ」


 高めのレイの体温より今の私の身体の方が熱いのか…。触れたレイの手と私の体温は同じだった。


***


「えっと…そんなに見つめられたら食べにくいんだけど…?」


 部屋のソファーに座り、買って来たばかりのケーキを食べていたけれど…。

 レイは真横で私の食べる口元をずっと見ている。その視線が突き刺さり、居心地が悪くなった。


「…美味しそうだと思って」

「あ…っ…食べる?」


 ケーキを頬張りながら呟いた。そういえば…レイは何も買って無かった。私が食べているのを見てお腹が空いてきたのかも。人が食べているのを見たらそうなるよね?なんて、残り一口分のケーキをフォークに取った。


「そっちじゃない」

「…え…?」


 レイは私の手を引いて顔を近づけた。唇が重なる。一瞬何が起こったか分からなくて固まってしまった。


「…唇…ピンクでぷっくりしてて美味しそう」

「…っな…っ…!…っ!」

「もういい?」 

「えっ…まだ食べ終わってな……きゃっ!」


 ふわっと身体が宙に浮いた。テーブルの上にフォークが落ちる音が響く。

 返事をする前にベッドに運ばれてしまった。


 ***


 唇を何度も重ねた。貪りつくような激しいキス。息が出来なくて大きく口を開くと、そこを狙って口蓋を舌でなぞりそして吸い付いつくから…。

 息が出来なくて声が漏れた。厚い舌の感触。混じり合う唾液が唇の端から顎を伝う。それを拭ってくれる指の感触。


「…思ったとおり…おいし…」


 私をベッドに優しく寝かせて覆い被さった。荒い息遣いで呟くように言うと、私の身体に跨って服を脱いでいく。

 細く見えて筋肉質の身体。潤んで輝きを増した真紅の瞳。余りに綺麗で思わず目を逸らした。


 思考が蕩けてく。不意に初めて身体を重ねた時のことを思い出した。

 3年前に一度だけだけど…。その時初めて知った。

 セイレーンは身体を重ねると、相手の魔力や精力を吸収してしまうことを…。

 ひっそりと生きてきて、更に個体数の少ない種族のセイレーン。だからこそ、どのような力があるのかとか、そういうことは文献にも残ってない。

 

 自分の意思ではどうにもならない。どういう条件でどれだけの魔力を吸収するのかも分からない。全て分からない。

 そういうことを教えてくれる人は…もうこの世にはいないのだから。

 ただ一つ…。分かっていることは、吸収した魔力は言葉を発すると全て『魅了』の力となり、私から発せられるということだ。


(だとしたら…声は…出せない…)


 『声』だけでそうなるのか『意味を持つ言葉』でそうなるのかはよく分からないけれど。それは、3年前に証明された。


(そうなったことは1回だけだし…。それ以外に身体を重ねた経験無いし…)


 でも危機回避の為にできる限り抑えないといけない。


(レイが魅了になったら…きっとマズい気がする!強いから…)


 身体を撫でるレイの手に、ビクッと身体が強張った。どうしても声を出すことはできない。

 

「ずっと触れたかった…。ユリアはやっぱり綺麗だ…」


 そう言うと私の服も慣れた手つきで脱がせていく。


(綺麗な人に…綺麗って言われた…)


 顔を真っ赤にしている私は、それを隠すためにレイの背中に腕をまわして強く抱きついた。


 合わさる身体から温かい流れ込んでくる。頭がふわふわして、目の前の風景が霞んでく。

 レイが何か言ったような気がするけれど、意識は遠のいてしまってそのまま倒れるように、身体をあずけた。

ムーン版ではもう少し長く…レイがねちっこくなってます。

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