1.言い訳ばかり(テル)
ウェポンショップの前で立ち止まってシュウを振り返った。目が合うといつも通り微笑んでくれる。
(気にしてる素振りがなくて良かった…)
あんなことをしてしまってから、嫌われたんじゃないかって少し不安だった。
語弊がある。少しじゃなくてかなり不安だった。後から考えたらいきなりの『口移し』は無しだろうって後悔した。
罪滅ぼしではないけれど、毎日のデザート攻撃はそれでだったし。ユリアは不審な顔をしていたけれど、シュウはいつも「ありがとう」と、微笑んで受け取ってくれた。
ここに誘ったのだって、そのことを謝りたかったからで…。ユリアのバカが「一緒に行く!」なんて言い出したらどうしようかと思ったけれど。
そこはアスカが察して気を回してくれて助かった。
(スペアが欲しいのは本当だけど…)
そう自分に言い訳しながら扉を開けた。
「武器選びに付き合ってくれてありがと…」
「大丈夫だよ?テストとか実戦ルームでの戦いで壊れちゃった?」
「あ~…。斬れ味が悪いから修理に出すし。スペアにいいのないか見てみようかなって思ってさ。シュウ、戦い方とか見ててくれているから選ぶの得意そうって」
「買いかぶりすぎだよ」
そう言って微笑むシュウは、いつも通り何も変わらない。ホッと胸を撫で下ろし、店内に入った。
「店員さん忙しそうだね?」
シュウにそう言われて、店内を見渡すと店員は一人で、レジ前のサーベルを見ている生徒と話しをしている。
そんなに広くない店内を見渡すと、大剣は端の方にポツンと置いてあった。
「大剣は使ってる人も少ないから、種類少ないね?」
大剣は力が必要だし扱うのも難しく、あまり人気のない武器だ。
「盾の役目もこなすし攻撃力も高いから…。扱い慣れたら最強だと思うけどな」
並べられた大剣のグリップの感触を一本づつ確かめながら言った。
店員がいない限り鞘から出すことはできない。とりあえず、その場で構えて感覚を確かめた。
「すごいね?…片手で振り上げられるんだ」
そう言うとシュウがその隣の大剣に手をかけて、片手で持ち上げようとグリップを掴んでいる。
力を入れて持ち上げようとするけれど、シュウじゃ片手では持ち上がらない。
「…普通は大剣を片手で振り回す事出来ないよ」
呟きながら諦めて大剣のグリップから手を離した。微笑んではいるけれどその笑顔は何故か憂いを帯びていた。
「まぁ…使い慣れてるし。物心付いた時から、俺の武器は大剣だったから…」
「…私も男に産まれたかった…」
「…え…?」
「…テル君見てると羨ましいなって。私にもみんなを守れる強さがあったら…。そう思ってしまうの」
それだけいうとシュウは目を逸らして大剣に触れている。
「無いものねだりだよね?そんなこと思っても、女に産まれたんだから仕方ないって…分かってるのに」
「強さは力だけじゃないよ。…シュウは強いと思うけど?」
大剣のグリップを握りしめている、シュウのその手に自分の手を重ねた。
「俺は怪我人を治癒することなんて出来ないし。だから、みんなを癒せる力を持ってるシュウの方が羨ましい」
俺の身体に収まるくらいの華奢な身体付き。それなのに誰よりも責任感強くて、誰よりも怪我人を治癒して…。安心させるために、みんなに笑顔を見せていた。
今のシュウの発言も、一国のプリンセスの責任感なんだろうって…。そう思えた。
(ここに来る直前にイリーナがあんなこと伝えたからだ)
実戦ルームの事件は、どうやらあの日世界中の「ガーディアン養成校」で起こったらしい。
引き起こしたのはおそらく『ザレス国』だと、イリーナ教官がこっそりと俺とシュウに伝えた。
狙いはもちろん。イーターを倒す為に作られた『ガーディアン組織』の崩壊。
ガーディアンを作ったのは今の国王だし。きっと、そのことをシュウは気にしているんだろう。
シュウは「ありがとう」と呟いて、後ろから手を重ねた俺を見上げた。その儚げに微笑む顔が切なかった。
そんな顔するから…考えるよりも早く身体が動いた。謝るつもりだったのに。ダメだって分かっていたのに。
それなのに見上げていたシュウを引き寄せ、その頬に手を添えて唇を重ねた。
『…のに』と、頭の中で言い訳ばかり重ねながら、柔らかい唇の感触を堪能している自分に『仕方ない』と、また言い訳する。
そっと唇を離すと、目を丸くしているシュウの背中に腕を回して抱きしめた。
「シュウは強いよ…。倒れる限界まで顔色変えないし。心配になるほど弱音吐かないし」
シュウを胸に抱きしめて、背中に回した腕の力を強めた。
「だからさ…。俺の前では無理に笑わなくていいよ?弱音も吐いてよ。助けるから…」
腕の中で頬を高揚させているシュウを見つめると、まだ伝えるつもりの無かった言葉が溢れた。
「…シュウが好きなんだ…」
「…え…」
シュウは大きな瞳を更に大きくしている。驚きすぎて声が出ないのか、耳まで赤くしながら口を開いてまた「え…?」とだけ呟いて目を逸らした。
(何…?この反応……。可愛い…)
俺が好きだってこと、シュウ自身は全く気が付いていなかったようだ。
「ごめん…気付かなくて…その…っ好きかどうか…私…よく分からなくて…」
シュウから出てくる言葉に何となく予想は付いていた。
そんなことより焦って髪を耳にかける仕草が可愛い。そういえば、あの時もしていたから。多分くせなんだろう。
赤く染まった耳が丸見えだし。焦り過ぎて言葉がおかしいし。以外と不測の事態に弱いんだな。なんて、焦るシュウとは対照的に微笑みながら余裕で返す俺。
「好きかどうか…分かるまで待つよ?返事は急いで無いから」
シュウは真っ赤な顔で小さくうなづいた。
返事は求めて無かった。勢いに任せて言ってしまったし。今はこれでいいと、自分に言い聞かせた。
「お客様大剣の試し斬り…してみますか?」
「!!」
背後から声をかけてきた店員に、シュウはまたしても顔を赤くして声を出せずに俯いている。
「あ…じゃあ、お願いします」
焦りっぷりに笑いを堪えながら、店員に大剣を差し出した。




