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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
6.交わる過去

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1.言い訳ばかり(テル)

 ウェポンショップの前で立ち止まってシュウを振り返った。目が合うといつも通り微笑んでくれる。


(気にしてる素振りがなくて良かった…)


 あんなことをしてしまってから、嫌われたんじゃないかって少し不安だった。

 語弊がある。少しじゃなくてかなり不安だった。後から考えたらいきなりの『口移し』は無しだろうって後悔した。


 罪滅ぼしではないけれど、毎日のデザート攻撃はそれでだったし。ユリアは不審な顔をしていたけれど、シュウはいつも「ありがとう」と、微笑んで受け取ってくれた。

 ここに誘ったのだって、そのことを謝りたかったからで…。ユリアのバカが「一緒に行く!」なんて言い出したらどうしようかと思ったけれど。

 そこはアスカが察して気を回してくれて助かった。


(スペアが欲しいのは本当だけど…)


そう自分に言い訳しながら扉を開けた。


「武器選びに付き合ってくれてありがと…」


「大丈夫だよ?テストとか実戦ルームでの戦いで壊れちゃった?」


「あ~…。斬れ味が悪いから修理に出すし。スペアにいいのないか見てみようかなって思ってさ。シュウ、戦い方とか見ててくれているから選ぶの得意そうって」


「買いかぶりすぎだよ」


 そう言って微笑むシュウは、いつも通り何も変わらない。ホッと胸を撫で下ろし、店内に入った。


「店員さん忙しそうだね?」


 シュウにそう言われて、店内を見渡すと店員は一人で、レジ前のサーベルを見ている生徒と話しをしている。

 そんなに広くない店内を見渡すと、大剣は端の方にポツンと置いてあった。


「大剣は使ってる人も少ないから、種類少ないね?」

 

 大剣は力が必要だし扱うのも難しく、あまり人気のない武器だ。


「盾の役目もこなすし攻撃力も高いから…。扱い慣れたら最強だと思うけどな」


 並べられた大剣のグリップの感触を一本づつ確かめながら言った。

 店員がいない限り鞘から出すことはできない。とりあえず、その場で構えて感覚を確かめた。


「すごいね?…片手で振り上げられるんだ」


 そう言うとシュウがその隣の大剣に手をかけて、片手で持ち上げようとグリップを掴んでいる。

 力を入れて持ち上げようとするけれど、シュウじゃ片手では持ち上がらない。


「…普通は大剣を片手で振り回す事出来ないよ」


 呟きながら諦めて大剣のグリップから手を離した。微笑んではいるけれどその笑顔は何故か憂いを帯びていた。


「まぁ…使い慣れてるし。物心付いた時から、俺の武器は大剣だったから…」


「…私も男に産まれたかった…」


「…え…?」


「…テル君見てると羨ましいなって。私にもみんなを守れる強さがあったら…。そう思ってしまうの」


 それだけいうとシュウは目を逸らして大剣に触れている。


「無いものねだりだよね?そんなこと思っても、女に産まれたんだから仕方ないって…分かってるのに」


「強さは力だけじゃないよ。…シュウは強いと思うけど?」


 大剣のグリップを握りしめている、シュウのその手に自分の手を重ねた。


「俺は怪我人を治癒することなんて出来ないし。だから、みんなを癒せる力を持ってるシュウの方が羨ましい」


 俺の身体に収まるくらいの華奢な身体付き。それなのに誰よりも責任感強くて、誰よりも怪我人を治癒して…。安心させるために、みんなに笑顔を見せていた。

 今のシュウの発言も、一国のプリンセスの責任感なんだろうって…。そう思えた。


(ここに来る直前にイリーナがあんなこと伝えたからだ)


 実戦ルームの事件は、どうやらあの日世界中の「ガーディアン養成校」で起こったらしい。

 引き起こしたのはおそらく『ザレス国』だと、イリーナ教官がこっそりと俺とシュウに伝えた。

 狙いはもちろん。イーターを倒す為に作られた『ガーディアン組織』の崩壊。

 ガーディアンを作ったのは今の国王だし。きっと、そのことをシュウは気にしているんだろう。



 シュウは「ありがとう」と呟いて、後ろから手を重ねた俺を見上げた。その儚げに微笑む顔が切なかった。


 そんな顔するから…考えるよりも早く身体が動いた。謝るつもりだったのに。ダメだって分かっていたのに。


 それなのに見上げていたシュウを引き寄せ、その頬に手を添えて唇を重ねた。


 『…のに』と、頭の中で言い訳ばかり重ねながら、柔らかい唇の感触を堪能している自分に『仕方ない』と、また言い訳する。


 そっと唇を離すと、目を丸くしているシュウの背中に腕を回して抱きしめた。


「シュウは強いよ…。倒れる限界まで顔色変えないし。心配になるほど弱音吐かないし」


 シュウを胸に抱きしめて、背中に回した腕の力を強めた。


「だからさ…。俺の前では無理に笑わなくていいよ?弱音も吐いてよ。助けるから…」


 腕の中で頬を高揚させているシュウを見つめると、まだ伝えるつもりの無かった言葉が溢れた。


「…シュウが好きなんだ…」


「…え…」


 シュウは大きな瞳を更に大きくしている。驚きすぎて声が出ないのか、耳まで赤くしながら口を開いてまた「え…?」とだけ呟いて目を逸らした。


(何…?この反応……。可愛い…)


 俺が好きだってこと、シュウ自身は全く気が付いていなかったようだ。


「ごめん…気付かなくて…その…っ好きかどうか…私…よく分からなくて…」


 シュウから出てくる言葉に何となく予想は付いていた。


 そんなことより焦って髪を耳にかける仕草が可愛い。そういえば、あの時もしていたから。多分くせなんだろう。


 赤く染まった耳が丸見えだし。焦り過ぎて言葉がおかしいし。以外と不測の事態に弱いんだな。なんて、焦るシュウとは対照的に微笑みながら余裕で返す俺。


「好きかどうか…分かるまで待つよ?返事は急いで無いから」


 シュウは真っ赤な顔で小さくうなづいた。

 返事は求めて無かった。勢いに任せて言ってしまったし。今はこれでいいと、自分に言い聞かせた。


「お客様大剣の試し斬り…してみますか?」


「!!」


 背後から声をかけてきた店員に、シュウはまたしても顔を赤くして声を出せずに俯いている。


「あ…じゃあ、お願いします」


 焦りっぷりに笑いを堪えながら、店員に大剣を差し出した。

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