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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
5.中間試験

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23.結果発表(ユリア)

 シュウが倒れた日から一週間…。テルの態度があからさまに変わっていた。

 重い物持っていたら、すぐに代わるし。実技の時後片付けで残っていたら手伝いに行くし。

 なんなら、毎日ランチタイムになる度にシュウにデザートを持ってくるし…。


 (そして、シュウがやっかまれる…。いい迷惑だ…)


 テルもだけど。あの日救護室から戻ってきたシュウの態度もどことなくおかしかった。何かあった?と聞いても「何もないよ?」と言うばかりで教えてくれない。

 何度か唇に指を触れる仕草を見せていた気がする。そんな癖あったかな?と思ったから何となく覚えていた。


「ユリア…考えごと?」


 前の席に座っていたアスカが考えごとをしている私の顔を覗きこんだ。


「不安だよね?転校して初めての中間試験の結果発表だしね…」


 シュウも同意して私の隣に腰を下ろした。

 (……ん……?結果発表…?)


 大事なことを忘れてしまっていた。人のことを気にしている場合じゃなかった。青ざめた途端に教室の扉が開いた。


「はい。みんなお待ちかね。中間試験の結果をホールに張り出してあるから、終わったら確認してね」


 イリーナ教官が気怠そうに教壇に立って、そう言った。

 全然待っていない。出来れば結果の発表なんて来ない方がいいって思っているくらいだ。筆記でかなり落としている私はAクラスの下の方だから。

 同じようにどんより顔のクラスメイトもいれば、レイのように何も気にも留めていない人もいる。


「今回はAクラスの成績下位2名とBクラスの上位2名との入れ替えがあるので該当者はその確認もするように。クラス替えは1週間後。ガーディアン実務大会の出場者は、クラス替えタイミングで発表になるから。それだけ覚えといてね」


 入れ替わりがあると発した途端にクラスの空気が変わった。

 いつもあるわけじゃないと、レイも言ってくれていたけれど、今回はしっかりとあったみたいだ。


 (どうしよう。私だったら…お腹痛くなってきた)


「見てこようか?」

「え?待って!心の準備が…」


 席でうな垂れているとレイの声がした。顔を上げるといつの間にかイリーナは教室にはいないし、クラスの半分くらい居なくなっていた。


(みんな…結果みに行くのはやくない?!)


 アスカとシュウも一緒に行こうと声をかけてくれた。


(全然行きたくは無いけれど…)


 覚悟を決めて立ち上がると、廊下からざわつきながら戻ってきた人達が入ってきた。


「すごい!テル君1番だったよ!」

「実技だけかと思ってたらお前頭もいいんだな!」

「いや、編入試験満点だから!」

「なんでそんな完璧なんだよ!何かよこせっ!」

「1番とったんだから、お前らがよこせよ!ジュース奢れよ!」


 テルが笑いながら誰かをヘッドロックして戯れてる。…うちの兄も余裕の表情見せてる奴の一人だった…。


「今回1番テルなんだ。負けたねレイ」


 アスカが言った。と、いうことはいつもレイが1位なんだ…。どうりで余裕なはずだ。


「とりあえず…見に行くね?」


 引き攣った笑顔でホールに向かった。


***


『総合1位 990点 テル・フォレスト 筆記490/実技500』

『総合2位 989点 レイ・ミシナ 筆記492/497』

『総合3位 975点 シュウ・ブルームーン 筆記495/実技480』


 ホールに映し出された順位表。その上位3人の点数が神がかっている。その点数を見て更に青ざめた。


(無理…こんな点数取れるわけないじゃん。何で上から確認してしまったんだろう)


「あった。ユリア…と、アスカ」


 レイが指差した所は…もちろん下の方だった。


『総合14位821点 アスカ・ミシナ 筆記330/実技491』

『総合24位741点 ユリア・フォレスト 筆記251/実技495』


「うわぁ…良かった…」


 なんとかAクラスにとどまれそうでホッと肩を撫で下ろした。


「…ユリア…筆記試験ほぼ赤点だったの?」

「え…あ…その…。うん?でも、今回はまだいい方だよ!!」

「…そうなんだ…今度はもっと分かりやすく教えるね?」


 シュウが哀れむような視線が突き刺さった。その空気に耐えられなくなって「Bクラスの1位は誰かな?」なんて、話を無理矢理変えた。



『Bクラス総合1位 985点ゼル・フィン 筆記485/実技500よって、Aクラス』


「入れ替わりってゼル君なんだ!!ね?アスカ」


 隣にいるアスカも、多分そうじゃないかと思った。なんて納得しているみたい。シュウも頷いている。


「あの実技試験の戦い方見せられて、Bクラスの訳ないよね?」

「うん。実戦ルームの時もすごかったよ?ゼル君何度も、怪我人運んでくれてたけれど、息切れ一つしてなかったから…」

 

「シュウも充分すごいよ?倒れる寸前の実技試験でも天使族で最上位じゃん」


「は……?」


 いきなり会話に入ってきたのは、テルだった。シュウの後から顔を覗きこむようにして現れた。



「テル君?!?!」

「…お前…どこから現れたんだ?」

「足音も立てず現れないでよ!心臓に悪すぎっ…」


 口々に言ったけれど、テルに私たち声なんて届いていない。分かりやすくシュウだけを見てる。


「シュウこの後予定ある?」

「え…大丈夫…だよ?」

「じゃあ、少し付き合って。ウェポンショップに行きたいんだ」

「私と…?」

「まだ行ったことないし。案内してよ?」

「シュウ…ついて行ってあげなよ?私は用事があるからさ」


 こういう時すごく気が回る姉御肌なアスカは「バイバイ」と、手を振って行ってしまった。


「じゃあシュウは俺と行こうか?」


 そう言うと戸惑うシュウの手を掴んで、テルも行ってしまった。


「俺たちも帰ろうか?」


 私が頷くと、レイは小さく「あ…」と呟いた。鞄を教室に置きっぱなしだったようで、校門で待っているように言われた。


 レイと別れて校門に向かう。今日はどこに寄り道しようかな?なんて考えていると、後ろから名前を呼ぶ声が聞こえて振り返った。

 呼んでいたのは金髪に大きな青い瞳の男の子だった。確か…さっきテルにヘッドロックされてた人だ。


「良かったな?テルがずっと心配してたけど」


 多分同じクラスの人だということは分かるけれど…。それ以外はよく分からなくて、不思議そうに見上げてしまった。



「……俺の名前わかる?」

「えーと…ごめん。分からない…です」


「そうだよね?俺はファリス・リーグ。ユリアの名前、俺の真上に見つけてさ。同じじゃんって思って」


 ファリスと名乗った男子は頭にポンと触れながら笑いかけた。…ということは私と同じクラスで、同じ赤点組だ。もしかしたら、補習の時にいたのかもしれない。


「でも、ユリアはすごいよ。実技だけで言ったら3番だし。実技授業の時もすげーって思って見てたんだ」

「ありがとう!見られてるのは気づかなかったけどね?」

「俺は天使族だから、救護室から見てたんだけど…。あ?もしかしてそれも知らない?」

「うん。ごめんね全く知らない…」

「え…そこから?残念…。覚えといて?俺…シュウの右腕だからさ」

「そんな話し…シュウから聞いてないよ?」

「えー。それはショックすぎるわ…」


 大袈裟に肩を落として残念がっている。話しかけやすそうな雰囲気に笑ってしまった。


「ユリア?」


 そんな話しをしていると、今度はレイの呼ぶ声が聞こえて振り返った。


「…あ…!レイと待ち合わせ?じゃあ俺は行くよ。またね?」

「うん。またね!」


 小さく手を振りながら、駆けてくるレイを振り返った。レイは隣に来た瞬間に怪訝な顔を見せた。


「…何アイツ…」

「え…同じクラスのファリスだって…」

「それは知ってるけど…」

「??」


 目を逸らしながら「もういいよ」と、不機嫌に呟いて手を引く。


(まさか…やきもち!?)


 レイはそういう顔を見せないから…。嬉しくて堪えようとしても顔がニヤけてしまう。

 繋いでいた手に腕を絡ませて顔を覗き込んだ。


「…何、ニヤけてるの?」

「別にぃ〜。あ…!コンビニ寄りたい!安心したらお腹空いたから。レイの分も奢ってあげるよ!」


 そんな話しをしながら学校を後にした。

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