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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
5.中間試験

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21.勘違い(ユリア)

カフェを出て向かった先は話していた通り、レイの部屋だった。

 部屋に案内されると、レイは飲み物を取りに行くから、くつろいでてと言って部屋を出て行った。


「適当に座って待ってて?」


 レイが行った後ゆっくりと部屋を見渡した。記憶の中の風景で見たことがある…気がする。

 大きな窓辺。レイは陽当たりの良いその場所に座って本を読んでいたことを思い出した。

 子供の頃と違うのは、そこにソファーが置かれていることだ。


 レイの読んでいた本は…確か分厚い『魔導書』。群青色の表紙で金の装飾がされてたはずだと、窓の隣にある本棚を調べた。


「……あった」


 思わず声が出てしまった。記憶の中よりボロボロになっているその本を、取り出して開いてみた。

 子供の頃に少し見せてもらったことがあったけれど、その時もよく分からない文字だらけの本だった。

 あの頃より大人になってるから少しは理解できるかも。そう思って、開いた本は、大人になった今見てもやっぱりよく分からなかった。


 (うん。良かった…。本の内容は分からないけど、私はこの部屋を知ってる…)


 昨日思い出した記憶は断片的で、もしレイの人違いだったらどうしよう。そう考えると少し…不安だったから。

 部屋の感じが記憶と同じで安心した。レイの記憶の中のユリアは、間違えなく私だったと自信が持てた。


 大きく息を吐いてからソファーに座った。

 安心感と満腹感。そしてテストの疲れで眠ってしまいそうだ。窮屈なブレザーを脱いでそっと膝にかけた。


 (レイ…遅いな…)


 陽当たりの良い窓辺のソファーは、温かくて心地よかった。少し開いている窓から入る風が頬をなでる。


 (小さな頃も…この場所が好きだった…)


 目を閉じると眠りそうだと思っていたのに…膝を抱いて目を閉じてしまった。


 しばらくすると、頬を撫でる手の感触で目が覚めた。

 ゆっくり目を開くとレイの紅い瞳と目が合った。


「……あ……ごめん。起こした?」

「!!!!」


 一瞬ここがどこだったか考えて焦った。起きてすぐに頬をなでるレイの顔を見てしまって、声が出なかった。


 小さな頃は多分来ていたけれど、大人になってから初めて来た部屋で熟睡してしまうなんて思わなかった。


「…どのくらい寝てた…?」

「30分くらいかな…?」


 心地よかったとは言え…割と長い時間眠っていた自分に呆れてしまった。


「…ごめんね……今度から起こしてくれていいから…」

「いいよ。久しぶりに寝顔みれたから…可愛いなって」


 そう言って、レイは私の頬に手を添えた。恥ずかしげもなく、表情も変えずにそんなことを言う。

 私は照れて真っ赤な顔をしているのに。


「…照れてる顔もさ…すごく可愛い」


 真っ直ぐに見つめるルビーの様に紅い瞳がゆっくり近づいてくる。頬に触れていたレイの指が唇をなぞるから、瞳を閉じた。

 レイの薄い唇が触れる。手だけじゃ無くて唇も温かくて、触れてるところ全てが蕩けていく。

 受け入れるようにレイの頬に手を伸ばして引き寄せた。 

 昨日のことを意識していたのは、きっとレイも同じで。

 始めから口内を貪るような激しいキスだった。厚い舌が口内を弄り、吸い付き唇を甘噛みする。

 ソファーに倒れ込むと、更に深く舌を差し入れた。重なった唇の隙間から、漏れ出た吐息は喘ぎ声となって部屋に響いた。


 いつの間にか、身体に跨ったレイは着ていたシャツを器用に脱いで、綺麗な身体を露わにした。

 細いのに筋肉質な腕…。綺麗に浮き出た鎖骨…。濡れた唇を親指で拭う仕草。

 その全てが艶っぽくて直視出来ない。なんて目をぎゅっと閉じて顔を背けた。

 その首筋にレイは舌を這わせて、シャツの裾に手を差し入れた。

 身体を撫でながら、その手が上に上がってくる。

 ブラを外そうとする手つきに、身体がビクっと震えてしまい、思わず身体を起こした。


「ちょっ…ちょっとまって!!…前も言ったけど…胸が小さいから…っ」


 震える声で伝えたことがそれだった。触れられるのが嫌…とかでは無いんだけど。


 もちろん、そうなるだろうなって分かってるつもりだったんだけれど…。綺麗なレイの身体付きと、慣れた手つきを見たら怖くなった。

 前の彼女(ひと)と、比べるようなひとじゃないって分かっているつもりだけど…。

 幻滅されたらどうしよう。と考えて涙目になってしまった。


 (だって…私は何も知らない。離れ離れの間…レイはどんな人を好きになったの?初めては誰?)


 きっと私より大人で…。グラマラスな美女で…。考えれば考える程に不安になって涙が止まらなくなってしまった。

 

「昨日も言ったけど…そんなこと気にしてない…」


「~~っ!だってレイの周り胸が大っきい人しかいないし……自信無いもん。あ、小さいって顔されると立ち直れないし…」


 私の必死の訴えに何故かレイは肩を震わせて笑ってる。


「…笑い事じゃ…ないよ…だってレイが綺麗過ぎて…無理…」


「…ユリアの方が綺麗だよ?」


 レイさ頬を伝う涙を拭いながら、優しく微笑んで手を握った。そして私の手を股間部分に押し当てた。

 服の上からでも勃ち上がっているのが分かるくらいに、硬くなっている。

 それが意味してるものが分かって、顔が沸騰しそうなくらいに紅く高揚してしまった。


「キスした時…だんだん蕩けていく顔がかわいいなとか。ユリアの唇ふっくらしてて気持ちいいとか。首筋舐めたと漏れた声可愛いとか」


「…えっ……ちょっと…」


「漏れ聞こえる声だけで余裕無くなってバキバキに勃つくらいに…可愛いのに、直に触ったらどうなるんだろ…?でも触って舐めて吸い付きたいなって…」


「きゃあ!!…まって…もう言わなくていいから!!」

 

 表情を変えずに恥ずかしげもなく、そういうことをいうから、思わずレイの口をふさいだ。



 その瞬間ガチャりと部屋の扉が開いた。


「レイ…誰か来てるの?」


 30代前半に見える綺麗な女性が、この様子を見て固まっている。同じように私も固まってしまった。


 目はブルーで髪は淡い茶色のボブ。スタイルのいい身体にフィットしたタイトなニットのワンピを着ている。

 目は合っているけれど、お互いに目を丸くしたままで身動きも、声を出すことも出来ずにいた。

 

「…何回も言ってるけど、ノックぐらいしろよ」


レイが私の手を外すと、その女性に向かってため息をついた。


「親に向かってどーゆー口の利き方してるのよ。それより…レイ、何してるの?」

「見てわかるだろ?出てけよ」

「見たらわかるけど、離れなさいって言ってるの」


(親…親ってお母さん?)


 二人の顔を見比べると、目の色は違うけれど雰囲気が似てる。そんなことを思いながら、じっと女性の顔を見てしまった。

 その女性もじっと私の顔を見てから、何かに気づいたように「あ…!!」と呟いて、身体の上のレイを押し除けた。


「…あなた!……もしかして…ユリアちゃん?」


 親は記憶を消されてないから私の事覚えていてくれたみたい。


「は、はい!」


 返事をすると、嬉しそうにレイの母親が抱きしめてくれた。いきなりのことにまた言葉を失ってしまった。


「エレンにソックリ…。驚いた。声まで似てるのね。そうか…養成校に編入したんだったわね?」


 そう言って優しく頭を撫でた。知っていたと言うことは、パパとはしっかり連絡を取り合っていたんだ。

 それを知って少し安心した。子供達の記憶は消したけど、親同士の繋がりが無くなったわけじゃなかったんだ。


「ずっと会いたかったの。ごめんなさい。いきなりこんなこと言われても困るわよね?私はジーナ。あなたのご両親とは古い…」


 ジーナが説明しようとするのをレイが遮った。


「…その記憶は多分戻ってるから。記憶を消したのもエレンさんだって伝えてあるし…いい加減に出てけよ?」


「何で?どう言うこと?…レイもなんで記憶を消したことを…?」


 レイは母親にも、記憶が残っていたことを秘密にしていたようだった。


「それは後で説明するし…。もういいだろ?」


 諦めたようにため息を吐き、私の顔を覗き込んだ。その時にジーナさんの顔が明らかに青ざめていった。


「?」

 

「レイ…まさか、無理矢理連れ込んだの?」


「は?」


 私の頬に涙の跡を見つけてしまったようだ。


「今の話しの流れでそうなるんだ?」

「違う!違うんです!」

「そうよね…レイ子供の頃、ユリアちゃんにかなり執着してたから…。そうなってもおかしくないわ。何でもっと早く気付かなかったのかしら…」

「おい。人の話しを聞けよ…」

「ジーナさん、落ち着いてください!違うんです!!」


 結局、誤解が解けたのはアスカが帰って来てからだった。

今日もいたせない二人…。じれじれです。

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