20.初デート(ユリア)
実技試験は滞りなく進んでいく。…だけど一向に私の名前は呼ばれない。
「え?ユリアまだ終わってないのか?」
救護ルームから返って来たテルが、大袈裟に驚いている。絶対バカにしてる。
レイも「筆記より実技の方が高い点数になるから」とフォローをしてくれた。
「大丈夫よ。ユリア…多分だけど」
アスカまでそんなことを言い始めた。
結局呼ばれたのは30番目だった。
Sクラスモンスターだったが、いつもの実技の授業よりなんなくクリアできた。
何とかタイムも5分以内だったので、「ギリギリ大丈夫だ」とレイが言ってくれた。
天使族の実技テストも終わり、無事に中間テストの全日程が終了した。
全試験日程が終了したので、実技試験の後は帰宅となった。
「やっと終わった~!もう、勉強しなくていいんだ…!」
シュウがにっこり笑いながら「お疲れ様」と、言ってくれた。
「お昼まだだし……どこか食べに行く?」
アスカの提案に「行く!!」と返事をしようとすると、後ろから口を塞がれた。
驚いて振り返ると、レイがアスカを睨んでいる。
「無理。どれだけ邪魔するんだよ」
そういえば、テスト期間中の放課後もずっと5人で勉強してたし。
2人きりになったのは、昨日の騒動の後…。救護室の短い時間だけだった。
「ユリアは俺と帰るから」
「えっ…!?そうなんだ」
そんな約束なんてしてはいなかったし、連絡しても返信は淡白なくせに。
『明日は早く終わるね?』って送っても『良かったな』で終わった。
レイとのやり取りなんていつもこんな感じだけれど…。その後返信は無かったから、疲れてるんだと思ってそっとしておいた。
「へー…そっか…。一緒に帰るつもりだったんだ…」
それなら昨日のうちに、言って欲しかった。二人きりで帰るのは初めてだし。
(行きたいところとか考えたかったのに)
恨めしそうにレイをチラリと盗み見た。
でも、全く喜びを隠し切れていない。顔はニヤけているし、声も嬉しくて『へー』が、うわずってしまっていた。
「……嫌ならいいけど?」
「えっ…!やだやだ!一緒に帰る!」
慌てて腕を取ると満足そうに笑うレイと目が合った。確信犯。こうなることをわかっててそう言ったんだ。
「うん。ユリアはいいや。また今度ね?…シュウはどうする?」
呆れ顔のアスカが聞くと、机に向かってたシュウは顔をあげた。
「…ごめん。私もこれを提出していかないといけなくて」
机の上には、タブレットが置かれている。昨日の報告書をまだ書いている途中のようで、シュウは画面と睨めっこをしていた。
テルの言う通り疲れているのか顔色が悪い。それにさっきから画面を見ているだけだ。
「せっかく誘ってくれたのにごめんね。多分遅くなるし…先に帰って」
目も潤んでいるし顔は真っ白。明らかに体調が良くなさそうだ。
「さすがに無理し過ぎじゃない?昨日も遅くまで治療してたし、今朝も早くに実技テストの準備してたでしょ?また倒れるよ?」
アスカも思わず止めるくらい、シュウの顔色は悪かった。
「だから昨日から言ってるだろ…」
どこからかテルが現れて、机の上のタブレットを取りあげた。
「後はやっとくから。イリーナに提出しておくし…シュウはアスカと帰って寝ていいよ」
「テル君?…でも、まだまとめてなくて…」
「顔色最悪。…それに俺は昨日早く帰ったから。次はシュウの番だ」
テルはそう言いながら、シュウの荷物をまとめてアスカに渡した。
何か言う前に、アスカがシュウの手を引いて扉の方に向かって歩いていく。
「気が効くじゃん。ありがとうテル。そうさせてもらうね?」
二人の華麗な連携で、シュウはレポートの提出を諦めたようだ。
アスカに引きずられていくシュウを、テルは満足そうに見送っている。
「そろそろ俺たちも帰ろうか?」
そう言うレイに引かれて、私も教室を後にした。
***
二人で学校を出た後は、気になっていたカフェに行ってお昼を済ませようとなった。
「わー!美味しそう!」
目をキラキラ輝かせながら、運ばれてきた物を眺めた。
ホイップの沢山乗ったパンケーキと、それに青い色のクリームソーダ。
レイは少食かと思っていたけど、以外とバーガーセットとか頼んでる。
「……それ……全部食べられる?」
「こっちのセリフだけど…飲み物まで甘いヤツだし。胸焼けしそう…」
お互いがお互いの頼んだ物に、目を丸くしてる。
その状況がおかしくて笑ってしまった。
「甘くて美味しいよ?……一口食べる?」
レイは甘いの苦手だって言ってたから、少し意地悪をしてみたくなった。
いたずらに笑いながら、クリームをたっぷり乗せたパンケーキをフォークに取って差し出してみた。
「なんてね?…冗談だ…」
言い終わる前に、フォークを持つ手を握られた。そのままレイはクリームたっぷりのパンケーキをパクリと食べた。
「えっ…?大丈夫!?甘いの苦手って言ってたのに」
「食べる?って聞いたのはユリアだろ。あ…でも以外とあっさりしてて美味しいかも」
口元に着いたクリームを指で拭い取る。その指先を舐め取る舌先とか、薄い唇とか…。思わず見入ってしまうのは昨日のことがあったからで…。
口内を弄る舌の感触とか。少し荒くなった息遣いとか。身体をなぞる指の感触とか…。
とにかく色々思い出して、頬が徐々に高揚していく。
(何をしてても艶っぽい…)
意識し過ぎて鼓動が早くなる…。いたずらにフォークを差し出したことを後悔した。
「…見過ぎなんだけど?」
逆にいたずらに笑うレイ。
(昨日…レイがあんなことするからじゃん…)
パンケーキを一口食べながら考えていたら、顔を真っ赤にして目をそらした。
私は今のところ、レイに振り回されてばっかりだ。




