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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
5.中間試験

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19.好き?(ユリア/テル)

 ゼルの実技試験の場所は、私たちが着いた頃にはすでに人で溢れていた。

 あれほどのビジュアルの持ち主だったら当然だろう。


「ここじゃ見えないね?もう少し前に行こうか?」


 そう言ってアスカはどんどん前の方へと進んでいく。人をすり抜ける力に長けてる。なんて思いながら、アスカの背中を追いかけた。


「あんな綺麗なこ…いた?」

「飛び級したんだって。今学期からBクラスに入ったみたいよ?」

「えー!美人で頭いいとか…羨ましい。飛び級ってことは…年下?見えないね。幾つなのかな?」


 人混みをかき分けて歩いている最中、そんな声が聞こえてきた。


「注目される条件が揃ってるね?」


周りの声が聞こえていたのか、アスカがそう言って笑いかけた。


「そんなすごい子だったんだ…」


二人で話しているとモンスター投入のブザー音が響いた。


 ゼルの課題モンスターはドラゴンだ。

檻に入れた状態で暴れまわっている。重量タイプの巨大なモンスター。

ゼルはグローブをはめて、感触を確かめている


『準備はいいですか?』そのアナウンスにゼルは手を挙げた。


 ドラゴンの檻が開き、興奮状態のドラゴンが放たれると、一直線にゼルに向かって急降下してくる。

 それをひらりと交わして、攻撃を避けている。その衝撃で砂埃が舞った。


「ドラゴン相手に素手でなんだ…」

「ゼルは武器を使わないタイプみたい。昨日も、素手で戦ってたから」

「ブラックドラゴン…スピードタイプのドラゴンだぞ?素手はきついだろうな」


 レイが言った。確かにドラゴンは体当たりに失敗すると、すぐに方向を変えて、またゼルに体当たりを仕掛ける。

 ゼルが方向を変えると動きをすぐ修正して襲い掛かる。巨体のくせに俊敏な動きでゼルは翻弄されているように見えた。


 しばらくして、ゼルは動きを止めた。会場の真ん中で止まっている。まるで攻撃を待っているかのように。

 次の瞬間、ゼルめがけてブラックドラゴンが急降下した。


(やっぱりカウンター狙い!!)


 すんでの所でドラゴンのツノを両手で受けとめると、そのまま地面に叩きつけた。

 凄まじい音と土煙がまきあがる。視界が悪く、ゼルとドラゴンがよく見えない…。


 もう一度ドスンと凄まじい音がしたかと思うと、ドラゴンの断末魔が響き渡った。


「…倒しちゃったね」

「すごい…」


 隣りのレイが目を丸くして呟いている。同じように見物人の多くが息を呑んだ。周りが騒ついている。


 終了のアナウンスが流れるとゼルが出て来た。そして何故か一目散にこちらに向かって走ってきた。


「アスカさん!!試験中に姿見えて…!嬉しくて…」


 ゼルは戦いの後なのに息一つ上がっていない。それどころか走ってくるし。試験の最中なのに外を気にする余裕まであったんだと、絶句した。

 ゼルを目の前にしたアスカは同じように固まっている。


「あ…うん。なんか色々と驚いた…」


 アスカは注目を浴びてしまって少し困っているみたい。ゼルは全く気にも止めず、照れ笑いを浮かべている。

 白い頬が薄らピンクに染まるその表情がさらに美しさを強調させている。


「あの…ずっとアスカさんに追いつきたかったんです。だからすごく頑張って、勉強とか…必死で…」


「……え?……私?」


 アスカが戸惑いながら聞き返した途端に、アナウンスが流れた。


『Aクラス、アスカ・ミシナ…』


「…絶対アスカさんと同じクラスになりますから」


 それだけ言うと3人の前から姿を消した。凄く気になることを言い残して去って行くから、最早試験どころじゃなくなった。


「何だアイツ…」

「……行っちゃったね」

「そうね」

「とりあえず、次はアスカだね?頑張って!」

「そうね!行ってくる!」


アスカは戸惑いながらガラスルームに入って行った。


 

***



救護ルームに着いた時はもうバタバタしていた。

 シュウを呼ぶ声がしてまた治療に回る。そして周りを見ながら、的確に休憩を取らせたり治療の指示を出したりしている。


(でも…いつもより顔色が悪い)


一瞬フラつくシュウを見て、いても立ってもいられなくなり救護ルームに入った。

 入り口近くにいた、自称シュウの右腕と言ってるファリスに声をかけた。


「少しでいいからシュウを貸してくれないか?」


 ファリスはえー?と面倒そうに返事をしているけど、引き下がらなかった。


「シュウがいないと重傷全部俺にまわってくるじゃん」などとブツブツ文句を言っている。


「あーっ!もういいよ。今度ユリアの連絡先教えろよな!」と言ってファリスは渋々OKをだした。


(あんな奴が気になるのか…?まぁ、いいけど)


「ファリス、お前いい奴だな?これやるよ」


 そういうと、持っていた飲み物を投げて渡した。ファリスは受け取ると「これじゃねーよ!」と言いながらも、行ってこいと合図を出してくれた。


 意外といい奴で助かった。早速、あれこれと指示を出してるシュウに声をかけようと近づく。


(声かけるだけ無駄か…)

考え直してここは、強行突破することにした。


「テル君?…怪我なら…」


言い終わらないうちにシュウを抱き上げた。

 だって「休んだら?」なんて言ってもどうせ「大丈夫」って返されることが分かってしまう。


「!?」


 目を丸くして俺を見上げるシュウの顔は真っ青だった。


「シュウを借りるってファリスに許可は貰ってあるから」


「でっ、でも、授業中だよ?」


 シュウは慌てて何か言い返しているけれど、そんなの無視して実戦ルームの外にあるベンチに降ろした。


「大丈夫じゃないだろ?顔色最悪。何飲みたい?」


 ベンチの隣りの自販機の前でシュウに声をかけた。


「顔色っ?そんな悪いかなっ?あ、飲み物自分で買うからっ…」


(そう言うのも予測済み…)


確か天使族の治癒魔法はカロリー消費が激しいはず。一番甘そうな炭酸水にした。


 ベンチから立ち上がろうとするシュウに、買ったばかりの飲み物を差し出した。


「…うそ。そんなに顔色は悪くないけど、俺が連れ出したかっただけだから、少し付き合ってよ」


 シュウは観念して、ようやく差し出された飲み物を受け取った。


「冷たい…」そう言いながら、ボトルを額に当て上を向いている。


 シュウはその体制からしばらく動かなかった。隣に座っても気づく様子もなく、目を閉じてゆっくり息を吐いている。


(やっぱり疲れてる)


 細いのに肉感のある身体付きは、女のソレなのに…。中身は男勝りなどころがある。


 この国のプリンセスだから、俺なんかが考えつかないくらい大きな物を背負っているのかもしれない。

 そうやって、全部自分で抱えないといけない理由だってあるのかもしれない。

 俺はシュウの立場には到底なれないから、背負っているモノも、そうならざるを得ない理由も分からないけれど…。


 ただ…いつか倒れるんじゃないかって不安になる。


「シュウは頑張り過ぎ。こうやってさ疲れてるときは休んでいいんじゃない?体調管理も必要だろ?」


 横顔を見ていると、言い合いになるから飲み込んだ、昨日のセリフが思わず出てしまった。

 しまった!と、口を覆う俺を、シュウは表情も変えずに見つめている。


「昨日大変だったのは私だけじゃないから。ファリスだって駆り出されたし…遅くまで手当もしてた。みんな条件は一緒だよ。私が出来ることは私がするべきだしそうしたいの」


(ファリスは呼び捨てなんだ…)


 どうでもいいところに、引っかかってしまう。

「…気にかけてくれてありがとう。でもそろそろ行かないと…」


 そんな事言わせたかったわけじゃない…。無理してても言わないだろ?


「そうじゃなくて…」


 思わずシュウの手を取った。握った力が、あまりに強かったのかシュウが少しよろけた。

 感情がコントロール出来ない。掻き乱される。

 よろけるシュウを受けとめるとそのまま抱き寄せた。


「…心配なんだ。無理ばっかりするから放っておけない」


 目を丸くして見上げるシュウの表情で我に返った。


(やばい…。何やってるんだろ)


「……ごめんね?受け止めてくれてありがとう。でも、本当に大丈夫だよ?本当に何ともないの」


 焦っている様子もなくまたいつも通りの笑顔で、シュウは笑いかけた。


「…そっか…」


 そう呟いて腕を解くと、シュウは小さく手を振って戻って行った。


今初めて気づいた。違う…出会った時から意識してた。


俺はシュウが『好き』だってこと。


(あー。前途多難すぎる…)


 なんて考えながら、大きなため息と共にその場に座り込んだ。

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