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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
5.中間試験

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17.報告(ユリア)

 テルより先に救護室に現れたのは、青い顔をしたアスカだった。

 アスカは仮設ベッドで休んでいたら、原因究明の為に少しでも情報共有しといて欲しいと、イリーナ教官に言われたらしい。


「確かに、時間経つと忘れちゃうこともあると思うけれどさ…。酷くない?私は私で死にそうなんだけど…」


 椅子に座りながら文句を言うアスカに、レイは冷たい視線を送っている。

 なだめながらアスカの隣りに座った所で、テルとシュウも現れた。


「レイ!!何で電話に出たんだよ。あれだけ待たせたなら、もう出なくて良かったのに」


「いきなり何?かけてきたのはそっちだろ?」


 テルの第一声がそれだった。すこぶる機嫌が悪い。レイは睨みながら言い返しているし。

 みんな疲れているからか、空気がピリピリしている。

 シュウは怒っているテルに「疲れてるよね?早く情報集めて帰ろう?」なんて言いながら、なだめてくれている。

 言われた相手がシュウだったから、テルは反論できずに椅子にドサリと音を立てて座った。


「さっさとお互いに分かった事を話して帰るぞ!」


 アスカはベッドに突っ伏していた身体を起こすと、討伐隊が話していたことと前置きして話し始めた。

 実戦ルームは外に直結しているから、入ってくるモンスターは選べない。それなのに、何故か実戦ルームに入って来るモンスターは、ドラゴンなどの上級モンスターばかりだったこと。


「上級モンスターは普段出現率も低いはずなのに、あれだけ一定の場所に大量に押し寄せて来るのはおかしいって。だから部外者がモンスターを誘き寄せたんじゃないかって…」


「それをどうやって行ったかを調べろってことだろ?」


「知らないわよ私が分かるわけないでしょ?」


 レイの言った言葉に、アスカがムキになって言い返しているけれど、それは気にせずテルが話し始めた。


「俺が気になったのはモンスターが逃げ無かったこと。あれだけ手負になっても襲いかかってくるなんて、おかしいよな?」


 モンスターだって手負になれば逃げ出すはずなのに、興奮状態で事切れる直前まで襲いかかってきていた。


 (それって…)


 私には思い当たることがあった。鼓動が早くなって手が震える。


 私の力だとそれもできてしまう。生き物を操る力が有れば、モンスターを誘き寄せることだって可能だ。


 考えたくはないことだけれど、この状況だとそれしか考えられない。


「方法は分からないけれど…。何かに誘き寄せられた可能性は高いね」


 シュウは呟いた。その声もどこか遠くで響いている。

 もし、ザレス国が仕組んだことだったら?ママはザレス国で、人体実験されていたから。

 思い当たる節もある。頭痛がするような『音』が響いてから、モンスターが集まり始めた。


「ユリアは気づいたこと何かある?」


 シュウにいきなり話しを振られて、立ち上がってしまった。


「あ…ごめん。ぼーっとしてた。えっと…音が聞こえたなって考えてて…」


「そんな音聞こえなかったけど…?」

「…音…?どんな音だった?」

「すごい高音で…人には聞こえにくい周波数だったから…。もしかしたらいつも流れてるのかなって…」


 言った後でハッとした。案の定、シュウとアスカは顔を見合わせて、不思議な顔をしている。


「聞こえにくい周波数の音が、なんでユリアには聞こえたの?」


 (やってしまった……)


 セイレーンの特徴に「耳がいい」っていうことがあるから、秘密にしておかないといけなかった。


「ユリアは普通より耳がいいんだ」


 言葉に詰まっている私の代わりに、テルがいきなりそう言った。セイレーンだということは、バレちゃいけないはずなのに。

 簡単にバラしてしまったから、青ざめた顔でテルを見た。

 『任せておけ』とでも言うように、私の顔の前に手を差し出した。


 どうするんだろうと思いながら、口を覆った。

 テルは顔色も変えずに親のルーツは知らないからよく分からないけれど。と、前置きして、祖父か祖母が神族か何かだったと聞いたことがある。と嘘を言い始めた。


「何の神族かは忘れたけれど、そのせいで、俺もユリアも産まれた時から耳がいいんだ。そういえば、入り口付近の連絡用スピーカーから音がしてた。でも、普段から流れているのかと思ってた」


「!?テルも聞こえてたんだ!私も普段からなのかな?って思ったの。でも、確か…入った時には流れてなかった。流れ始めたのは、ドラゴンが現れた時だった気がする」


 シヴァ神の末裔の力も、セイレーンの力もボヤけさせるなんてすごい。

 これで私たちは「耳がいい」という特徴をもつ、なんかの神族の末裔だということになった。


 (何だ…こうやって言えば、隠す必要も無かったんだ)


 なんだかんだ言いながらも、テルはいつもピンチの時に助けてくれる。本当頼れるお兄ちゃん。驚くと共に安心して話すことができた。


「そうなんだ、そのこと詳しく教えてもらっていい?」


「実戦ルームを一旦出ただろ?その後確認の為に戻った時には、流れてなかった気がするけど…それは曖昧だ」


 それはそうだ。色々な種族で溢れる世界。自分の『種族』を言いたくない人だっているし、そもそもみんな気にしていない。

 テルのフォローで、みんなの興味は『聞こえてきた音』にいったみたい。


「…その音にモンスターが反応したってこと?多種族のモンスターが?」


「集まるくらいならともかく襲いかかるって…音だけで操れるものなの?」


 アスカもシュウも懐疑心を抱いている。


「ありえるだろ?人間だって声で呼ぶ。モンスターも理性はないけれど、多種族間で共通する言語が無いとは言い切れない。それはここで俺たちが考えた所で無駄だ。原因は分かったし、もうそれをまとめてイリーナ教官に伝えたら?」


 考えこんでいる二人に向かって、レイは言い切った。


「そうだね。みんなありがとう。イリーナ先生に報告してみるよ」


 そう言って立ち上がるシュウを、テルが引き止めた。


「俺とユリアが聞こえた音だし。報告には俺たち二人で行くよ。さっきから、少しも休んでないからここで休んでて?」


 腕を掴まれたシュウの顔色は、確かに普段よりも白く見える。

 私とレイは休んでいたけれど、シュウは実戦ルームにいたときからずっと治癒魔法を使い続けているんだ。

 テルに言われないと気付かなかったのは、余りにも普段通りだったから…。

 ハッとしてシュウを椅子に座らせた。


「そうだよ!私とテルで行く!シュウはここで休んでて?」


「私は大丈夫。…だってみんなはモンスターと戦って、私たちを守ってくれていたでしょ?」


「…でも!」

「やめといた方がいいよ?シュウは言い出したら聞かないから」

「うん…アスカの言う通り。後は任せてみんなは帰って?」


 慌てる私にシュウはにっこり微笑んで、そのまま行ってしまった。


「~っ。頑固すぎ。あのままだったら倒れるだろ?俺も行く…!!」


 呆気に取られている私の横を、テルがシュウを追いかけて行ってしまった。


「…後はあの二人に任せて、私たちは帰ろう?明日は予定通り、実技のテストも行われるらしいし」


「………え…今、なんて?」


「さっきメール来てた。ふざけてるわよね?ほら?」


 青ざめる私の目の前に、アスカがスマホの画面を差し出した。


『皆様、ご協力ありがとうございました。尚、明日の予定に変更はごさいません。テストは時間通りにおこないます』


 何度読み返してもそう書いてある。


「多分シュウこのメール見て、知ってたからさ…。私たちに気を遣ったんじゃないかな?」


 シュウの優しさと、明日のテストに絶望して泣けてきた。


「家まで送るよ」


 レイが笑いながら腕を手を引いてくれる。余裕の表情は、きっと自信の表れだ。


(私は不安で仕方ない…)


 後でシュウにありがとうって伝えよう。そう思いながら家路についた。

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