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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
5.中間試験

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16.後始末(テル)

レイに連絡を入れる直前のテルの話しになります。

 後処理のために実戦ルームにもう一度入り、残りのモンスターを倒し逃げ遅れた人がいないかどうかの確認を終えたのは、2時間後のことだった。


「テル君…お疲れ様」


 実戦ルームから出た所で、シュウが待っていてくれたようだ。俺を見つけて駆け寄ってきてくれた。


「シュウこそお疲れ…待っててくれたんだ」

「うん。テル君が最後だから…イリーナ教官から治療に行ってあげてって言われたの」

「あぁ…そういうことね」


 待っててくれたのかと、一瞬喜んだけれど。ただの教官からの指示だったことに、がっくりと肩を落とした。


「怪我の治療を…と思ったんだけれど…平気そうだね?」


(まずいな…)


 自己治癒が発動して傷は回復してしまっている。セイレーンはシヴァ神の末裔と番になり、子を成したという話は有名だ。

 シヴァ神の特徴は『破壊と再生』。簡単に言えば、並の人間よりも筋肉の密度が高いから馬鹿力。そして自己治癒能力も備わっている。


「あー。中で治癒魔法を受けたから。その後は見回りでモンスターはほぼ居なかったし…平気だよ。」


 完璧な嘘を付いてみせた。シュウもそうなんだと納得している。それよりも、思った以上に…シュウの顔色が悪い気がする。


「疲れてる?」

「大丈夫。ありがとう」


なんて言いながら微笑むシュウは、いつもよりもやっぱり白い顔をしている。


 よく考えたら当たり前だ。騒動が起きた後、ずっと治癒魔法を使っている状態。

 重傷者に対する素早い上級の治癒魔法の連弾。疲れない訳がないか。


 次の言葉をかけようとする前に、遠くからイリーナ教官が走ってきた。


「二人共お疲れ様。…悪いけど」


その言葉に悪い予感しかしない。


「最初から最後まで、あなた達は実戦ルームにいたのよね?」


「多分、そうだと思います。私達が入って少ししてからモンスターが増えてきたので」


 シュウはイリーナ教官の不穏な質問にも真面目に答えている。


「良かった。私達が駆けつけた時にはパニック状態になっていて、この騒動のことを詳しく判る者がいないんだ。考えられる原因を探って、私に報告してほしいの」


(やっぱり…)


 さっきから戦い続けている俺と、治癒魔法を放ち続けて顔色が悪いシュウ。

 それを目の前にして、そんなこと言えるこの教官に苛立ちを覚えた。


「それ…今必要ですか?俺たちも疲れてるんですけど…」


「君たち二人だけじゃない。アスカとユリア…それにレイにも手伝ってもらって?」


「アスカも一歩も動けない程に消耗しています。それに、レイは暴発で意識飛ばしてるしユリアはその介抱してますけど…?」


「レイが?…小さな頃はよく暴発させてたんだけど…最近は起きてなかったのに」


 目を丸くしているイリーナ教官は、レイの小さな頃を知っているようだった。


(教官は何者なんだ…)


 そんなことを思いながら、そう言えばレイの暴発のシーン……俺も知っているような気がした。

 燃え上がる炎を見た時に、なぜか『懐かしい』と思ってしまった。気のせいかと思ったけれど、あまりにも鮮明に蘇る風景に俺の()()だと分かった。


 そして…もう一つ蘇ってきた、古い記憶がある。


 それは俺は小さな頃よく父さんに連れられて、『ブルームンのお城』でよく遊んでいた。


***


 遊んでいた子供は俺を含めて5人。俺とユリア。

 そして、いつもユリアにベッタリくっついていたレイ。それを諫めていつも怒っていたアスカ。

 そしてもう一人…アスカが好きだった同じ年の男の子が居たはずだった。その子はお城で俺の父さんに剣技を習っていた。

 同じ背丈で、技術も同じだったその子とはよく組まされていた。黒髪のショートヘア。色白で物腰は柔らかく『絵本の中の王子様』だなんて思っていた。

 それなのに剣技の手合わせになると、隙のない動きをする。相手の太刀筋を読むことにも優れていた。

 子供の俺は…よくその王子に負けることも、よくあった。

 一緒にいる時間も長くて、一番仲が良かったはずだ。…それなのにもう名前も思い出せない。

 お城の関係者の子供だったのか…。それともシュウの従者だったのか。それすら覚えていない。


(そう言えば…遊んでいた子供達の中にシュウはいなかった…)


 お城にいたはずだから、シュウが居てもおかしくはないのに…。何故かシュウの顔は一度も見たことはない。

 プリンセスだから、従者の子供達と遊ぶことが無かっただけかもしれないけれど。


(でも国王と王妃は居た気がする…)

 

 遠い記憶だ。覚えていないことの方がきっと多いだろう。多分何気の無い日常の一コマだったから、曖昧にしか思い出せないのだろう。

 人は忘れてしまう生き物だから。特別なこと。特別な人。特別な言葉…それ以外は忘れていってしまう。


ーーただ、死んだ母さんが小さな俺に言ったことは覚えている。


「もう、今までみたいにみんなとは遊べない。ブルームン城に行ったことがあると、誰にも言っては行けない。知られてもいけない。ユリアを守る為に、それだけは必ず約束して」


 何で?と聞いたかもしれないけれど、それも曖昧。大人の事情だと納得したきがする。


 ただ、いつもふんわりしていた母がいきなり真面目な表情で言うから…。よっぽどの事があるんだと思った。

 

 だからこそ俺は今もその約束を守っている。


***


「…体調が悪かったのかしら?」


 思い出していた俺の頭の中にイリーナの声が響いた。


「そうかもしれません。レイ君、今日は瞑想ルームに行こうとしていましたから」


 イリーナの言葉にシュウはそう返している。

 シュウもレイの暴発を見たのは初めてじゃ無いような口ぶりだ。確かに治療する時もレイの状態を見て、焦ってはいなかった。


「二人とも、レイの暴発を見たのは始めてじゃ無いんですね?」


「まぁね?二人とは幼い時から一緒だから」


「…イリーナは私専属のガーディアンだったから…。レイ君のことも知ってるよ。それにアスカと私は幼馴染みだしね。レイ君のこともある程度は理解してる…」


 シュウはそう言って微笑んでいる。プリンセスのクラスの担任が、ただの実戦指導の教官なはずがないと納得できた。


(じゃあ…俺がシュウを知らないのは何でだろう…)


 違和感を感じたけれど、それは口には出さなかった。母との約束もしていたし、そんなことは俺が考えても分からないことだと思ったから。


「そういうことね。それなら尚更分かりますよね?シュウは無理をする。だから、頼まれたら断らない。それに俺は疲れているから帰って休みたい。原因探しなら、他を当たって下さい」


「……そうきたか。……でも、こちらも実戦ルームの後処理がまだ残ってる。あぁ、それなら掛けをしようか?レイ君にここで連絡してみて?それでもし繋がったら、その時はみんなで調べてくれないかしら?」


 「そうきたか」はこっちのセリフだ。でもレイは『鎮静の歌』を聞かされている。そう簡単には目覚めたりしないはずだ。勝算はある。そう思って、スマホを手にした。


「いいですよ?俺から連絡してみます」


 出るなよ。と思いながらかけた電話にレイは出てしまった……。

 

 勝ち誇った表情で笑うイリーナ教官を前にして、膝から崩れ落ちたのは言うまでもない。

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