15.プレゼント(ユリア)
無くしてしまっていたはずの記憶と共に、あの時の気持ちが蘇り涙がこぼれ落ちた。
それからすぐに、私たちは離れ離れになった。
レイは最後になるかもしれないって知っていて伝えてくれたんだ。
「思い出した…最後にレイに言われた言葉も…。ピアスのことも…」
大切な物だったピアスは、レイがくれた物だった。それが分かって嬉しくなった。
もちろん今日も着けている。レイに褒められてからずっと、このピアスしか着けてない。
微笑みながら泣いていると、レイは頬を伝う涙を優しく拭って、同じように微笑んだ。
「あのピアス…付けてるところ見れないと思ってたから。……嬉しかった」
「あ…そうだよね!?あの時ピアスホールがまだできて無かったから…あの日は結局できなかったんだよね?」
「そう。そんなこと知らなかったから…。失敗したって凹んだ」
「…じゃあ、あの日聞けなかったことを今聞いてもいい…?」
「何を…?」
わざとらしく咳払いをして、髪を耳にかけるとレイの目の前にピアスを見せた。
「…似合ってる…かな?」
こんなことしたことがないから、自分から言っておいて恥ずかしくなってしまった。
顔から火が出そうなくらい真っ赤になる私に、レイの視線が突き刺さる。
「似合ってる…。すごく可愛い」
満面の笑みでそう返してくれたレイは、私の手を引いて抱きしめた。「良かった」なんて、照れながら呟いて、レイの背中に腕を回した。
「あの日…編入試験の日に一目で分かった。…ユリアは変わらず可愛いよ」
レイの言う「可愛い」が嬉しすぎて、ニヤける顔をその胸に押し当てて隠した。
「ママとの約束があったとしてもさ、その時に教えてくれれば良かったのに…」
「話したらそれがトリガーになって、俺の記憶も消えるんじゃないかって恐怖もあったから…言えなかった」
そうか…。ママの使った歌の効果は私にも確かに分からない。レイにももしかしたら歌を聞かせている可能性もある。
セイレーンの歌には、色々な効果があるからレイの言うことも一理ある。
(でも……そのママにはもう聞けない)
「…レイは知らないかもしれないけれど…ママはもういないの…。だからそれを調べる術はないの…」
「…エレンさんが亡くなった事は、両親の会話からなんとなく気づいてた。でも…もういいよ。昔の記憶が消えてしまっても、ユリアは目の前にいるんだから…」
「~~っ!?」
レイはそう言うことを、しれっと言ってのけるから…。心臓がもたない。愛おしすぎてレイをぎゅっと抱きしめた。
「…ただ…もう、#あの力__・__#は使わないで?狙われるから」
その言葉にガバッと顔を上げた。
「でも、私もレイが苦しんでる所は見たくないからっ…」
「起きないようにするよ?大丈夫#ユリアと再会する前__・__#は、コントロール出来てたから」
「じゃあ今日は何で…?…っん…!…っ?」
開いた唇にレイの舌が滑り込んできた。さっきまでの軽いキスじゃなくて、濃厚なキス。
舌を絡ませて口内を弄る。その厚い舌の感触が私の理性を溶かしていく。舌に吸い付いて下唇を甘噛みする。こんな濃厚なキスは初めてで、重ねた唇の隙間から吐息が喘ぎ声になって漏れ出た。
「ちゅ…っん…はぁ…っん…はあっ…」
レイの唇が銀色の糸を引きながら離れた。少し紅潮したその表情が艶っぽくて、思わず見つめてしまう。
そして潤んだ真紅の瞳が私の目をとらえた。
「……ユリアを守れるくらいに強くなったから。だからチカラは使わないって約束して?」
「…ん…でも…っ!…はぅ…ん…っ」
口を開こうとしたら、また舌を差し込んで口内を貪る。私の返事なんて、聞く気はない。
ベッドにもつれ込むと、覆い被さるレイはさらに深く舌を差し込んだ。
「ちゅっ……ん……約束ね…?」
息の出来ないくらいの激しいキスに、身体の力が抜ける。静かな教室に2人の荒い息遣いと、貪りつくちゅっというリップ音が響いて、余計に私を蕩けさせる。
(キス…うまいな)
そんな事を考えているとレイの手が胸を弄った。服の上からその形を確かめるように優しくなぞる。
「んっっあっ!!ダメだよ!~~っここ、救護室だからっ!!」
「……ここまで煽っておいて、今更ダメとか……出来ると思う?」
レイが不適に笑ってもう一度キスをした。
いつの間にか、服の裾から中に手を滑り込ませられた温かい手の感触に身体がビクっと強張る。
べつに…いいんだけど。レイの熱った顔も綺麗だなって見惚れちゃうくらい、艶っぽいし、求められてるのは嬉しいんだけど!!
(どうしよう心の準備がっ…)
そんなことを考えていると、スマホの大きな音が鳴り響いた。
「…レイの鳴ってるよ…」
「無視でいいよ…」
レイの脱ぎ捨てられた制服からはみだしたスマホの画面には、見覚えのある番号が映し出されていた。
「テルの番号だよっ!?」
「…あいつ…何で番号知ってるんだ?」
「分からないけど…出た方がいいよ?この場所知ってるし…もしかしたら来ようとしているのかも!」
レイは大きなため息をついて身体を離した。
面倒そうにスマホをとると、電話口からはテルのやっと出たか。という声が漏れ聞こえる。
安心したような…残念なような気分になりながら、乱れた服を直した。
聞こえてくる声に耳を傾けると、どうやら騒ぎは終息したようで、今は原因を探っている…という話しだった。
私達はモンスターが流れ込んでくる前からいたし、レイは真っ先に駆けつけて前線で戦っていたから、何か気付いたことはないか?と聞いている。
そんな真面目なことを話しているのに、私の視線はレイの口元にいってしまっている。
(話してるだけなのに…艶っぽい…)
薄らと濡れてひかる唇にドキドキする。さっきまでの激しいキスの感触に悶えながら、顔を覆ってベッドに倒れ込んだ。
「ユリア…今から、テル達がここに来るって。教官から俺たちが気付いたことを、報告するよう指示されたらしい」
私の隣に腰を下ろしたレイは、残念そうに呟いた。
みんな働いているのに、悶えている場合じゃ無かった。
反省しつつ起き上がると、私の乱れた髪をレイは優しく撫でて整えた。
「さっきは……ごめん」
髪を撫でながらいきなりレイが謝ってきた。
「えっ?何がっ?」
私が聞き返すと、少し間が空き目を逸らした。
「…触った事…」
「あ……えっ…?!」
胸の事っ!?思い出すと顔が赤くなった。
「私の方こそ…その…小さくてごめん…」
何が何だか分からなくなって、変な事を口走ってしまった。言った後で、口を覆ったけれど、もう遅くて…。
聞こえてしまったレイは、目を丸くした後で肩を揺らして笑っている。
「あーー!ごめん!何でもないっ!!」
「そんなこと気にして無かった。一生懸命声漏らさないよう、堪えてる顔が可愛いしか思って無かった」
「!?!?っ~~もう、何も言わないで!!!」
顔から火が出そうなくらい、真っ赤になりながらレイの口を塞いだ。
みんな早く来てくれないと、心臓部さが持たない。
そんなことを思いながらテルが来るのを待った。




