8.キリがない
レイは私を抱き抱えて走りながらも、上空のドラゴンに向かって氷の魔法を放っている。
ドラゴンの巨体が凍りつき、地上に大きな音を立てて落ちる。
走りながら的確に魔法を当てるコントロールも、大きなドラゴンを一瞬で凍り付かせる威力の魔法を何度も放つことも、簡単にやってのけてしまう。
(え…?ガーディアンの悪魔族ってみんなこんな感じなの?連続早撃ちとか…威力の強い魔法とかしれっとやってのけるの?…出来ないよね…?普通はこんなこと出来ないよね?レイが異常なんだよね?)
目を丸くしながらレイを見つめた。これだけの威力を連打しても、レイはいつも通りだ。息も上がっていない。
あっという間に、上空に飛び交っていたドラゴンは、レイ1人の力で一掃してしまった。
「ドラゴン落とすって言ってある。この辺一帯の避難完了させてあるから大丈夫。人に当てないようにやってるから」
腕の中でひたすらじっと見つめる私に気づいたのか、説明してくれた。ただ、驚いていただけだったけれど。
「それに落としたドラゴンにとどめを刺すのは、テルに任せてある。…一撃で倒すほどの魔法を放つと巻き込まれる人がでるから…」
この大混乱の中でも冷静な状況判断ができてる。それに地上のモンスターにも電撃を浴びせながら突き進んでいく。
モンスターから攻撃を受ける前に…圧倒的な速さで魔法を放っていく。その度に、モンスターが倒れる大きな音が響き渡った。
あっという間に上空も…地上もレイ1人で一掃してしまった。
ある程度魔力が高いことは知っていたし、みんなが「強い」と言っていたけど…。ここまでとは思ってなかった。異次元の強さを誇ってる。
(格好よすぎて死にそう…惚れ直す…)
助けに来てくれたタイミングも王子様だし。優しくて…強いし。なんて、1人で舞い上がってしまってた。
「あ…。シュウが見えた。結構時間かかったけど…大丈夫?」
申し訳なさそうに言うレイにハッとして首を振った。そうだ…怪我してた。
「!!全然!!…」
鮮やかな戦い方に見惚れてしまって、怪我のことなんて忘れてしまっていた。なんて、口が裂けても言えない。緊張感なさ過ぎて、自分でもダメだなって反省する。
シュウは怪我人の治療を終えると、直ぐに駆け寄って来てくれた。
「ユリアっ…すぐに治すから」
そしてレイにそっと下ろすように言うと、すぐさまユリアの身体の怪我を確認してる。
「ユリアは任せる…俺は行くけど…無理しないで。そこで休んでてよ?」
「えっ…レイっ!」
レイはそれだけ言うと、すぐに討伐に戻っていく。まだお礼も言って無いのに…。
「じっとしててね?もう終わるから…」
「…え?…もう終わる?」
シュウにも驚いてしまった。そういえば腕はもう動く。温かい光と共にみるみる傷が治っていく。しかも、的確に素早く怪我を見抜いて無駄がない。
重傷の怪我は、ものの数秒で治ってしまった。折れていた腕も足も元通りに動かせる。全身の打撲の痛みもすっかり消えてしまっていた。
もちろん、今までに天使族の治癒魔法を受けたことはある。病院には天使族の医師が必ずいるし。
けれど、これ程までの治癒魔法を受けたことは初めてだった。
「全部治したはずだけど…どうかな?」
「すごい…!もう平気。ありがとう」
シュウは良かったと微笑むと、次の怪我人に呼ばれて行ってしまった。惚れ惚れする程の手際の良さと、安心させる優しい笑顔や声かけ。助けられた人はみんなシュウのことを本物の天使だと思うだろうな。なんて思ってしまう。
「ユリア…!動けるようになったなら、お前も働けっ!」
シュウの後ろ姿を見送って、すぐテルの声が聞こえてきた。声に振り返るとテルは子供を両脇に2人抱えて、こっちに向かって走ってくる。テルは珍しく血塗れだし、息があがっているし、呼吸も荒い。
「急いでこの子たちをシュウの所に連れて行け!」
返事もそこそこに、テルから子供を受け取った。1人は背中からお腹まで、貫通する程の刺し傷を負ってる。もう1人は酷い火傷を負っている。素人の私でも、一目見て分かるくらい…どちらも重傷だ。
「大丈夫だからね!」
そう声をかけながら、全速力でシュウの元へと2人を運んだ。




