7.思いがけない救済者
熱いし…身体中痛い…。
ドラゴンから落ちた時に何とか体制を立て直しだけれど、落ちた衝撃でしばらく気を失っていたようだ。仰向けになったままで視線だけ動かした。周りはドラゴンの吐いた炎で火の海になっている。上空にはまだドラゴンが飛び交っていた。
(また集まってきてる…)
まだ、助けは来ていないみたいだし、こんな所で意識飛ばしてる場合じゃない。
(行かないと…)
「~っっ!!!」
声にならない声が漏れる。身体をよじると激痛が走った。そこで初めて気がついた…。大木が左足を潰している。それに右腕は多分折れているし、引き抜こうとするが力が入らない。
息苦しいほどの炎の勢い。めまいがしてくる熱さに、口を覆いながら左足を抜こうともがいてはみたけれど、力が上手く入らない。
(せめて…腕さえ治れば……)
気が遠くなる…。息を吸うことも難しくなってきた。これじゃ、力を使うことも出来ない。このままここにいると、焼け死んでしまう。
(…歌わないと発動しない力とか…本当不便な能力…)
肝心な時に使えない自分の能力を呪いながら目を閉じた時だった。
「ユリア!!どこだ?」
遠のく意識の中、レイの声が聞こえる。でも、レイは実戦ルームにはいないはず。
空耳が聞こえる何て思っていると、突然地表がひんやりと冷たくなった。
炎がだんだんと弱くなっていった。炎は鎮火して息が出来るようになった。
(助かった…)
薄らと目を開くと心配そうに覗き込むレイと目が合った。
「っ…!?レイ…!?」
「ユリア大丈夫じゃなさそうだな?今助ける」
レイはユリアの足を潰している木に炎の魔法をぶつけながら、もう片方の手から氷の魔法を放ち、ユリアに炎が当たらないようにしてくれている。
「助けてくれて…ありがとう。でも…どうして?」
「実戦ルームで異常事態が発生したから、Aクラスの生徒は補助に入るように放送がかかった」
炭化した木を蹴り、ユリアを引き出しながらレイは話しを続けた。
「ユリアが心配だったから。警備に話してGPS辿った。ごめん。俺も一緒に行けばよかった」
心配してくれたことが嬉しくて、胸が高鳴ってしまう。
「…そうなんだ…レイは悪くないよ…私がヘマしちゃっただけだし…」
「上空のドラゴン…倒したのはユリアだろ?さっき中等部のやつが言ってた」
そこらに落ちてる、木片を右腕に添えながら包帯で巻いて固定してくれる。
(…優しい…)
手際の良さなんて見惚れてる程だし、それに常に冷静だし…。カッコいいなんて惚れ直してしまった。
(こんな時に、何考えてるんだろ…緊張感ない奴だ…って思われちゃう!)
ニヤけそうになる顔を覆って俯いた。
「…た…助けに来てくれただけで…すごく…嬉しい!」
平常心を保ちながら言ったつもりが、喜びを隠し切れていない。声のトーンが高いし…顔も熱いし。…何だかもう恥ずかしい。
「っ!!あっ!!そんなことより早くモンスターを…」
照れ隠しに立ち上がろうと手を地面に付いた。
「待て!…足折れてる……」
「いっっ!!!!」
足を地面についた途端に、痛みでその場に座り込んでしまった。
(…興奮してて気づかなかった…)
左足は折れている。立ち上がれる状態じゃなかった。あと全身の打撲が酷い…。何とか、寄りかかったら歩けるかな?それより救護の人呼んでもらおうかな?
ダメだ…この混乱の中で救護の人を私に当てることなんて出来ない。レイが離れたら
回復の歌を歌って、怪我を治そうか…?
(よし…その案で行こう…)
なんて考えているとフワリと身体が浮いた。
「…シュウのいる所を知ってるから。連れてく」
まさか、お姫様抱っこされるなんて思って無かった。焦ってレイを見上げた。
「無理しないでいいよっ!歩く!っ大丈夫だから!!」
私でも、悪魔族は他の種族より力が弱い事は知っている。焦って首を振る私に、「暴れないで?」なんて、最もなことをしれっと言ってきた。
覚悟を決めて、恐る恐るレイに身体を預けた。照れてしまって仕方ない。顔がレイの胸に密着する。
「ユリア軽いし…大丈夫。痛みは?」
「…ないっ…ない…です」
自分の心臓の音…うるさい位に高鳴ってしまってる。なんて思っていたけれど、レイの鼓動も同じように高鳴っている。
(表情は変わってないのに…)
そっと見上げると、実はレイの耳も真っ赤になっていることに気がついた。顔よりも、耳に出るタイプ。同じように、ドキドキしてるのかな?なんて思いながらそっと目を閉じた。
早くモンスターの討伐に回らないと、みんなが危険だってわかっているけれど…。
もう少しこのままでいたいな?何て思ってしまった。




