6.混乱(アスカ)
上空でユリアがドラゴンを倒していってくれてる。ドラゴンを雷で落とすことは出来るけれど…。地上に落とした所で、倒せる人がいない。これ以上地上を混乱させるわけにもいかないし。それに、ドラゴンは魔法が効きにくいから、ユリアに任せるしか無い。
(正直…ユリアがあそこまで戦えるなんて思って無かったから…。助かった)
地上にはオークやティラノも集まってきてる。
(助けが来ない以上ここは私が何とかするしかない)
地面に片手をつけると、四方八方から集まってくるモンスターの気配を探る。人には当てないよう、操作するのは簡単なことじゃない。
「大丈夫…。私なら出来る…」
独り言を呟いた。人の気配とモンスターの気配。集中して感じ取る。いけると思ったタイミングで、地面につけた手から雷の魔法を放った。閃光が地を這いモンスターの足元で弾ける。半径10メートルのモンスターがバタバタと倒れていった。
(良かった…。ちゃんとモンスターだけに当たってる…)
でも、この位の電撃じゃ、このサイズのモンスターは倒せてはいない。気絶させただけだ。私の魔力じゃ…これだけ多くの頑丈なモンスターを倒すことなんてできない。
(レイだったら倒せてたのに。だめか…人もモンスターも関係なく一網打尽にしちゃう)
いない人のことを思っても仕方ない。ここにいる人だけでどうにかするしか無いんだから。
モンスターが目覚める前に、中等部の子を避難させないと。頬をパンと叩いて顔を上げた。
「すぐにモンスターは動きだす!今のうちに逃げて!!」
声を張り上げて避難を促していると、倒れているティラノのそばで泣き声が聞こえた。
「助けて…誰か…」
途切れ途切れに聞こえる声を辿ると、女の子が倒れたティラノの尻尾の下敷きになって泣いている。
(私のせいだ…そこまでは考えて無かった…)
後悔している場合じゃない。急いで尻尾を掴んだ。
「大丈夫っ…。すぐに助けるからっ…」
女の子は完全に下敷きになってる顔も真っ青だ。尻尾を持ち上げようとしても、私の力じゃ無理だ。助けると言っても、どうすることもできない。
(どうしよう…女の子に水属性付けて…尻尾を燃やす?でも…私の魔力じゃ…無理かも。ティラノがそれで起きて、暴れたら…?この子が死んじゃう…)
急がないとと焦る程、冷静な判断が出来ない。目を閉じても『どうしよう』しか出てこない。
「待ってて。直ぐに助けるから」
不意に頭の上から、柔らかい声が聞こえて顔を上げた。薄いピンクの唇が目に止まった。声の主は肩まである金色の髪に、優しい茶色い瞳で女の子に向かってにっこり笑顔を見せて落ち着かせている。華奢な身体付きに細い腕。陶器のように艶のある白い肌。誰もが見惚れてしまう整った顔立ちは、どう見ても天使族だ。
目が合うと、にっこりと笑顔を見せて焦る私を落ち着かせてくれた。
(誰だろ…どこかで見たことある…)
なんて思いながら、その整った綺麗な顔を見つめた。
(見惚れてる場合じゃない…)
「ありがとう…。あなたが治癒してくれてる間に…」
治療の邪魔にならないようアスカが立ち上がった瞬間だった。天使族かと思っていたその子は、細い腕でティラノの尻尾を持ち上げると、簡単に投げ飛ばした。ドカーンと大き音を立てて、ティラノは地面に叩きつけられ、断末魔を上げた。
「…え…?」
呆気に取られてその場にへたり込んでしまった。
「救護の人がそばにいるから…直ぐにこの子引き渡しますね?…大丈夫ですか?アスカさん」
そう言って、華奢な体型からは考えられないほどの強い力で、手を取って引き上げてくれた。
「…ありがとう…私は平気だけど…」
(ん…?何で私の名前を…?)
「怪我がなくてよかった。あ、僕の名前はゼル。ゼル・ディノっていいます。ここで待ってて下さいね!一緒に行動しましょう?その方が効率的なんで!」
なんて言いながら、女の子を抱き上げて行ってしまった。あの子が誰なのか、何で名前を知っているのかは分からない。
(え…何で?私のこと?それより…あの力一体何?…あ…でも、あの力があれば…私が気絶させたモンスターを倒してくれるかも!!)
なんて、固まりながら考えを巡らせた。
「お待たせしました!行きましょうか?モンスターは僕が倒しますので、アスカさんは補助をお願いします」
戻って来たゼルに、返事をする間もなく手を引かれる。2人でモンスターの討伐に向かった。




