5.トラブル
テルとシュウは奥へとどんどん進んでいった。シュウにも気を配り、モンスターの攻撃は全て大剣で受け止めた。大剣自体は非常に重いけれどそれを感じさせないくらい、素早く動くことができる。
シュウの武器は銃だった。銃の破壊力は少ない。急所に当てないと硬い皮を持つモンスターには効果はないけれど、シュウは的確に急所を射抜いていく。隠れているモンスターも見逃さない。
普通の天使族は『守るべき』だし、守られて当然と考えている奴も多い。それは当たり前だ。天使族は、普通の人間に比べると筋力も劣る。戦いに不向きな種族だ。
それなのに…。シュウはどんどんモンスターを攻撃する。一撃で倒せはしないけれど、確実に急所を射抜き怯ませる。
(だから倒しやすい…)
怯んだ狼男に止めを刺して振り返った。
「…すごいな。安心して後ろを任せられる…」
シュウが銃弾を補充しながら、クスッと笑った。
「でも、テル君全部1人で倒しちゃうから。私、護られるだけで実技の試験大丈夫かなって…少し不安になってきた」
シュウに言われてハッとした。確かに今のところほぼ俺が倒してしまってる。
(それに…言い方に棘がある。やっぱりさっき言ってしまったことに怒ってる?)
『戦闘に向いてない』と言ってしまったこと…偏見だったとすごく反省してる。
「でも、シュウはモンスターの急所狙い撃ちしてくれるし!俺がとどめを刺せなくても、追い打ちかけれるように構えを解かないし…」
(…何焦ってるんだ…?)
焦っている顔を見られたくなくて、思わず口元を手で覆った。そんな俺の態度にシュウはまた笑ってる。
「あのさ…戦えないって決めつけて…ごめん」
誰かに嫌われたくなくて『ごめん』なんて謝ったのは初めてだった。言い慣れてなくて、更に気まずくなる。
「私こそ…ムキになってしまってごめんなさい。テル君にそう言ってもらえると、テストも大丈夫だと思えてきた」
目を合わせずに言った「ごめん」に、シュウは優しく「ありがとう」と返してくれた。
その笑顔を見ると安心する。今までに感じたことの無いような感情が溢れ出す。
「でも…次は私が戦うね?補助はお願いします」
そう笑顔で言うと、シュウは颯爽と歩き出した。後ろ姿も綺麗で周りの風景が霞んで見える。
(今まで出会った奴らと違う)
まだ出会って間もないけれど、シュウは誰よりも『自分』を持っている。そして、分け隔てなく周りを大切にできる人だ。その為に無理をするから目が離せなくて…。だから、少しでもシュウの助けになりたい。なんて思ってしまう自分がいる。
(…何…俺…シュウが好きなのか…?)
初めて抱く感情だった。付き合っていた人は何人もいたし、それなりにモテた。だけど適当に合わせて、適当にあしらっていただけだ。
誰かの助けになりたいなんて思ったことはなかった。もっと知りたいなんて思ったことも無かった。
「テル君…聞いてる?」
「うわっ…ごめん。考えごとしてた…どうした?」
「おかしいの…。まだ奥に行ってないはずなのに、実技試験でいえば、Aクラス級のモンスターがすでに5体は出てきてる」
シュウの顔つきが険しい。初めて入ったから、分からなかったけれど…。確かに、ここには中等部位の子供の姿も確認できる。
「助けて!!」
叫び声が聞こえる。「行こう」と視線を合わせて2人でその声に向かって走り出した。
***
実戦ルームでは前方はユリア、背後はアスカという風に役割分担をした。
「ユリア、すごいじゃん!」
双剣でモンスターをなぎ払っていく。 そう言うアスカは現れたモンスターの属性を見抜き、ユリアの短剣にモンスターの弱点の属性を付けるという、器用な魔法を放ってくれる。
「すごいね!武器に属性つけれるんだ」
「言ってなかった?私は触れたものに属性を付けられるの。人でも武器でも大丈夫」
アスカはピースサインを見せながら、背後から襲いかかるモンスターに魔法を放って倒した。
「器用だね!」
なんて話しながら、ふとさっきから聞こえる音が、私の集中力を妨げる。キーンていう不規則な音。それが気になって仕方がない。
(頭が痛くなってきた…)
アスカには聞こえてないみたい。それとも、この音はいつもしてるんだろうか?
(聞いてみよう…)
声をかけようとすると、上空から大きな鳴き声が聞こえた。
「ファイアドラゴン!?」
「何でこのエリアに!?!?」
「何匹もいるぞ!逃げろ!!!」
次々と叫び声が聞こえる。何か良くないことが起こっている。
「何か問題が起きてる。こんなエリアにドラゴンなんて…普通は出ないわ!」
「えっ!?そうなんだ」
確かにまだ入り口からそんなに離れていない。中等部の制服を着ている子も大勢いる。怪我をしてる子も見受けられる。逃げ回っている人に向かって、何匹ものドラゴンが同時に火を放ってきた。
「危ない!!」
私が叫ぶより早く、アスカが水の魔法を放って、炎を打ち消した。それでも全部は防げない。炎はかなりの広範囲に広がった。木が焼けこげて辺りは炎に包まれた。
(守らないとっ!)
このままだと、ここにいるみんなが危険だ。
(力を使う…誰にも聞こえないように…)
小さな声で能力向上の歌を歌い、一番高い木を駆け上がった。
そのままの勢いでファイアドラゴンに飛び乗った。
飛び乗る直前にアスカが、ウィップを私の短剣に当てた。その瞬間短剣が青く輝く。どうやら剣に水の属性を付けてくれたらしい。
(さすが、アスカだ!!)
青く光った短剣をドラゴンに突き立てるが、鱗が一枚剥がれた位で全く効いていない。強化した力でも、やっぱり歯がたりない。
ドラゴンは振り落とそうと身体を縦に回転させた。ユリアは鱗の剥がれた部分に短剣を突き刺し、なんとかしがみついた。
(そういえば、試験の時テルがドラゴンと戦ってたよね?確か、弱点は…首の根元の側面だ)
ドラゴンの側面に剣を押し当てて、思いっきり振り抜いた。アスカが水属性を付けてくれたことと、能力強化で何とか首を落とした。
(手が痺れる…硬すぎ…でも次を倒さないとっ!)
真っ逆さまに地上に落ちていくドラゴンから、次のドラゴンに飛び移った。ふと地上に目を向けると、オークや重量級のティラノも集まってきている。全てSクラス級のモンスターだ。
アスカは地上のモンスターを倒すのに必死で、ドラゴンにまで手が行き届かない。それに、まだ助けも来ていないようだ。
(私が…何とかしないと!)
いつまで歌の効果がもつか分からない。それに、アスカの付けてくれた属性も…。
(効果がキレる前に…急がないと!)
素早くドラゴンの首を落とすと、次のドラゴンに飛び移った。
3体目…4体目…5体目…そして6体目と、首を落とした時だった。目の前が暗くなった。
(…っ…歌の効果…切れたのかも)
次に飛び移る時に体制を崩して、そのままドラゴンと地上に落ちていった。




