4.実戦ルーム
テスト前日は緊張して眠れなかった。
(大丈夫…。いつものテストより自信あるから)
テストまでの1週間は普段より楽しかった。レイやシュウに勉強を教えてもらえたし。アスカとは分からないを共有することができた。今回のテストには凄く自信がある。
(テルは相変わらずバカにしてきたけど)
そして今日は筆記テストの最終日。長く気の重かった毎日から今日ようやく解放される。
「やっと終わったぁ~」
終了のチャイムと同時にグッと背伸びをしたてさけんだ。クラスのみんなも同じように緊張していたみたい。あちらこちらから同じような声が聞こえてくる。
「みんなお疲れ様ー。でも気を抜いちゃダメよ?明日は実技のテストだから」
答案用紙をまとめながらイリーナ教官は釘を刺した。
「各々自習するなり実戦ルームでモンスターと戦うなり好きにしてね。今日は無制限に解放されてるから。明日の方が大事だし」
頑張ってねーと、ひらひら手を振りながら教室を出ていった。解放された気分が一気に台無しになった。
机の上にペタりと突っ伏しながら、少し休憩してから実戦ルームに行こうかな?なんて考えてた。
そんな私とは違って、レイは帰り支度をしている。
「レイは…実戦ルームには行かないの?」
「悪魔族よ場合は瞑想をすることで、魔法の精度を上げるから。モンスターと戦うより、試験だしそっちの方が効率的だし」
レイはイヤフォンを付けて、瞑想ルームへと向かった。
「…そっか…」
一緒に来てくれるのかと思った。なんて、心の中でがっくりと肩を落とした。
「あまり張り切り過ぎるなよ。終わったら、連絡して?迎えに行くから」
「…え?…うん!する!連絡!」
帰りは一緒に帰ってくれるんだ。口の端が自然に上がる。ニヤニヤしながら頷くと、自分の武器ロッカーに向かった。
「魔法の精度あげなくても充分だよね?」
ロッカーから武器を取り出したタイミングでアスカが話しかけてきた。隣りにはシュウも武器を準備している。
「アスカはどっちに行くの?」
「私は実戦ルームに行くよ?シュウも行くって。ユリアも一緒に行かない?」
「あ、俺も行く!」
私が『行く』と返事をする前に、後ろからテルが叫びながら走ってきた。
「悪い。また今度埋め合わせするから」
なんて一緒にいた人達に謝りながら、武器ロッカーを開いて大剣を取り出しているし。
「テルなら実技大丈夫だろ?」
「お前狙いで来る子も多いし、途中参加でもいいからこいよ!」
騒いでいる人達にテルはもう一度謝るとこちらに向かって「行こうか?」と、声をかけた。
(逃げる為の口実だな…)
テルを盗み見ると視線に気付いて「何?」と、苛立ちながら睨んできた。
「みんなで行こうか?テル君がいたら、強いモンスターにも挑めそうだし」
シュウが不穏な雰囲気を察知してくれたのか、テルと私に向かって笑顔を向けてくれた。
そういうところがすごく好き。シュウは優しくて、いるだけで癒されてしまう。
テルもそう思っているんだろうなって思う。シュウに向ける視線が優しい。
「天使族も実技のテストあるんだろ?」
なんて言いながら、スマートにテルがシュウの鞄を肩にかけた。シュウが戸惑いながら「ありがとう」なんて言っている。
「実戦大会では天使族も戦うことになるから」
「へー…。戦闘向きの能力じゃないのにな」
「身を守る為にも『戦える』ことって重要だよ?治癒魔法だけの天使族はただの足手纏い。そうなるのは嫌だから…」
さっきまで、和やかだったシュウの雰囲気が不意に悲しそうになってしまった。テルは思わず「ごめん」と謝っている。
アスカは聞こえないふりをして私に「行こうか?」なんて手を取った。
(触れてはいけないことだったのかな?)
「天使族がテストで戦うモンスターの最高クラスってCクラスなの。ちゃんと考慮はされてるよ」
「それなら尚更一緒に行かないと。シュウは無理するから」
テルはシュウの手を取って走り出した。
「!!無理はしないよ?自分の力量は分かってるから…」
シュウの声が遠のいていく。
「そうよ。私もいるし。シュウなら普通にAクラス級ならいけるんだから」
「…アスカちゃんもう行っちゃったよ…」
アスカが振り返った時には、2人は教室から出てしまっていた。
「…テルさ…何なの?」
「さぁ?私もよく分からない」
***
アスカと実戦室の更衣室に向かったけれど、そこにシュウの姿は無かった。
「もう入ってるのかな?」
「多分ね?連絡しても、返事ないし」
アスカはテルに対して苛立ちを隠せていない。さっきからずっと眉間にシワを寄せている。「シュウに怪我させたら許さない」なんて怒りながら更衣室を出た。
「うわぁ…すごいね。ここ、本当に敷地内?」
入り口を潜った途端に風景ががらりと変わってしまった。
「驚くのも無理はないよね?そうよ。学校の敷地内」
実戦ルームはガーディアン養成校の敷地に作られている。約500坪の敷地に、たくさんの木が植えられていて、川や岩場などモンスターの生息しやすい環境になっている。
途中にドリンクショップや救護室などもあり、一応は安全面の考慮もされているようだ。
普段は危険なので24時間の警備がされているし、使う時には必ず許可が必要となる。
テスト期間や大会期間には出入りが自由となり、必ず入る前と後に指紋認証を行う。さらにはGPS付きのバンドを手首に巻かないと入れない。徹底的に管理された場所のなっている。
実戦ルームの使用時間は1時間以内。その時間を過ぎても出て来ない場合、すぐに警備員が探しにくる事になっている。
更に手首に巻いたバンドには、ヘルプボタンが付いており、怪我をして動けない場合は、それを押して助けを呼ぶこともできるらしい。
説明を受けながら辺りを見渡す。確かに、警備員の数も多い。それに何人もの天使族が救護員のバッチをつけて、待機しているのがわかる。
「すごい、徹底してるね…」
「そうね。…無理するなって言っても、襲いかかってくるモンスターは選べないから。一緒に行動しようか?その方が安心して戦えるでしょ?」
アスカの提案に頷くと双剣を装備した。
「奥の方が強いモンスターになっているから、さっさといこうか?」
「そうだね…」
2人で話しをしている時にも、ゴブリンなんかが襲いかかってきた。それを余裕で薙ぎ払いながら、奥へ向かって突き進んで行った。




