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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
5.中間試験

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1.伝わる想い

 転校してから2ヶ月たった。馴染めるかどうか不安だったけれど、シュウやアスカもいたし、実技授業にも慣れてきたから毎日が楽しかった。レイは実技や勉強で分からない事があると教えてくれた。


(テルは相変わらず馴染むの早い…)


 授業でも実技においても、馴染むのが早くて羨ましい位。テルはレイとなぜか気が合うらしく一緒に居ることが多い。

 レイは鬱陶しいって言ってたけれど、嫌じゃ無さそう。本当素直じゃない。


(でもレイのそう言う所…すごく可愛いとか思ったり)


 レイと話していると「ユリアはすごいね」なんて、声をかけられることも多かった。『綺麗だけど怖い』とか、『近寄りにくい』とか言われているけれど、ただ天邪鬼なだけ。「素直じゃ無いね?」と指摘すると、口の端を少し上げて微笑む。だけど、レイがそんな表情を見せるのは、私にだけで…。嫌でも意識してしまう。本当に天邪鬼。


ユリアは図書室の机に突っ伏しながら、レイの事を考えて1人で照れ笑いを浮かべた。


(そんなこと考えて、ニヤけてる場合じゃないけど…)


 もうすぐ中間テストだから、勉強しないといけない。部屋でやると気が散るから、ここで勉強しようと思ったけれど、全くやる気になれない。

 一般の学校からの編入で、カリキュラムとかもいまいち分からなかった私は、シュウ達と同じがいいと言う不純な理由で、種族学を専攻した。

 この学校の種族学は専門的すぎて、さらに理解不能で頭に入ってこない。突っ伏したまま、教科書の文字を眺めていると、足音が目の前の席で止まった。

 

「ユリア…?」


 聞き覚えのある声に視線だけ移すと、レイが笑いながらユリアの前に座る所だった。


「何で!?」


 慌てて起き上がると、机の上のノートがバサバサと大きな音をたてて机から落ち、静かな放課後の図書室に響いた。おまけに大声を出してしまったし。


(やってしまった…)


 ごめんなさいと周囲に小声で謝ると、床に散らばった物を拾い上げた。レイが笑いながらそれを手伝ってくれた。


「勉強中?」


 いかにも勉強してたように教科書を広げて、机に並べるユリアにレイは声をかけてきた。


「あ~、うん、そう!」


「そんな感じには見えなかったけど?」


「!?」


「ずっと、教科書の上に突っ伏してたから寝てるのかと思った」


「…見てたならもっと早く声かけてよ」


「テスト近いのに余裕だな。と思って」


 そうやって、いつものように澄ました顔で意地悪な事を言ってくる。レイは私に対してだけこんな感じ。


「…余裕じゃないよ。勉強苦手なの知ってるでしょ?」


 頬をわざとらしく膨らませて見せると、レイが澄まし顔をクシャっと崩して笑った。そんな顔を見せるのも私にだけで。自分がレイにとって特別なんじゃないかって、勘違いしてしまう。


(笑ってる顔……本当可愛い)


「…怒ってる?」


 じっと見つめるユリアの視線に気がついたのか、少し不安そうにレイが聞いてきた。


「違う!そうじゃなくて、レイの笑顔好きだなって…!!」


 言ってから口を塞いだ。『好きだ』なんて、いきなりこのタイミングで言ってしまった。

 レイが目を丸くして固まっている。焦るとろくなことを言わない事を自分でも分かってる。


「テ…テスト勉強しないと!!」


 もうこの話はおしまい!とばかりにわざとらしく言うと、教科書のページをめくって視線を逸らした。開いてはみたものの、この状況で何が書いてあるのか全く頭に入ってこない。あんな事を言ってしまった後だから当然だけれど。


「何の勉強中?」


 そう言って、レイはテキストを覗いた。その顔が近くて思わずドキッとしてしまう。自分でも顔が赤くなるのが分かった。不意打ちに視線が合い、驚きのあまり椅子をガタンと倒して立ち上がった。

 また大きな音を立ててしまった。流石に2回目になると、咳払いをして睨む人までいた。


(もう…やだ…)


 頭を下げながら倒した椅子に手をかけた。


「大丈夫か?顔、赤いけど」


 レイがユリアの持っている椅子に手を伸ばした。その手が触れそうになり、慌てて手を離してしまった。また倒れそうになる椅子をレイがとっさに受けてくれた。


「…やっぱり…ダメかも」


 ユリアはその場にうずくまると、自分のひざに顔をうずめた。


(何やってんだろ…)


 初めて会った時から、なぜか初めての気がしなかった。レイの傍にいると落ち着いた。好きな音楽や好きな香り。そういえば…貰ったお菓子も昔から大好きなやつだったし。すごく気が合う。

 自分でもどんどん惹かれているのが分かった。気持ちを隠す事が下手で隠そうとするとへんな雰囲気になるし、変なこと言ってしまう。


(もう…顔上げられない…)


 レイが顔を隠してうずくまるユリアの腕を取って、立ち上がらせてくれる。


「外で休もうか」


 いつの間にか机の上の教科書達はまとめられていた。ユリアの荷物はレイが肩から下げている。


(体調悪いって勘違いされてる…)


 早く言わないとと思っているうちに図書室を出てしまった。


「具合が悪いとかじゃなくて…」


「じゃあ、何?」


 レイが不思議そうに顔を見つめる。もう、見ないで欲しい…絶対に変な顔してる。つないでいない方の手で顔を隠した。


「その…何か照れちゃって」


もう隠せないよね。こんなバレバレな態度とってるし。


「私ね…レイの事が好き…なんだ…と思う」


 どんな顔をしてるのか、確かめるのが怖くて顔を隠したままだ。告白した場所が、放課後の静かな廊下。私は何でこんな所で大切なこも言っちゃったんだろう。


(もっと、ちゃんとした所で…好きって言いたかった…)


「…と思うって、何だよ」


聞こえてきたのは、いつもの声を抑えた笑い声で…。ユリアが顔を上げるより早く、顔を覆っている手を取られてしまった。


「俺は好きだよ「思う」じゃなくてユリアが好き」


(…え?…)


 今、何て言った?目を丸くしてレイを見上げる。頬が高揚して真っ赤になる。それに、反比例するように頭は真っ白で。ただただ固まっているユリアに、レイは微笑みかけた。


「気付いてると思ってた」


「気付いてないよ!!だって…最初からそんな感じだったし…」


 たった2ヶ月しかたってないのに、遠い昔のように感じる。出会った時から私を見つめる真紅の瞳は、その色の通り温かくて優しかった。


「ユリア以外は気付いてたよ」


そう言って、顔をクシャっとさせて笑った。

 確かに、テルやアスカはそれとなく言っていたけれど、レイが私を好きになる要素なんてひとつも無かったし…。そんなことを言われても、半信半疑だった。

 俯きながら考えていると、レイの手が頬にそっと触れた。顔を上げると愛おしそうに見つめるレイと目があった。


 ユリアは上を向いて目を閉じた。唇が触れたのが分かった。レイの手がユリアの髪をなでる。


ゆっくりと、唇を離すとレイはユリアを抱きしめた。


「ずっと…こうしたかった…ユリアが好きだ」


 何故だろう…。その声が泣きそうな…辛そうな声に聞こえるのは。それでも、嬉しくて顔が自然にほころぶ。レイの胸の鼓動を聴きながら私もと呟いた。

 照れながら見上げると、レイがまた嬉しそうに微笑んでもう一度軽くキスをした。

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