8.長い1日
アスカがお薦めだと言っていたカフェに着いた。テラス席もある落ち着いた雰囲気。ここが学校だと言うことを忘れてしまいそうなくらい。
その一角、アイスゲージの前には授業終わりの生徒達で人だかりが出来ていた。
「ここのジェラート美味しいんだ。お勧め」
「そうなんだ!じゃあ、食べてみる」
人だかりの列に2人で加わった。何味がいいか、話して待っていると周りからの話し声が聞こえてきた。
「今日はあの店員の子…いるかな?」
「最近入った可愛い子?」
「そう、そう!すごく可愛いの。見てるだけで癒される…」
(可愛い子がいるんだ)
周りの声を聞きながら、どんな子だろうと考えていると直ぐに自分達の順番になった。
(結局何にしようか決まらなかった…。アスカにお勧め聞けばよかった)
ショーケースに並んだジェラートはどれも美味しそうで悩んでしまう。
「期間限定のピスタチオも美味しいですよ」
迷っていると店員がお勧めを教えてくれた。
「そうなんだ。じゃあ、それで…」
顔を上げると息を飲むほどの可愛い子。ニコッと微笑むとジェラートをカップに入れてくれた。
お人形のように色素の薄く、丸い瞳の店員さん。「どうぞ」という、少しハスキーな声が、アンバランスで魅力的だ。
(さっきの話しの店員て…きっとこの子だ)
「あの…大丈夫ですか?」
声をかけられて慌ててカップを手にした。ごめんなさい。と謝ると、クスッと笑い「大丈夫ですよ?」と、カップを手渡してくれた。
(何?この学校…可愛いこだらけ…)
「次の方…いつもありがとうございます。今日もティラミスにしますか?好きですよね?」
アスカに向かって満面の笑みを見せている。よく来てるって言ってたし、常連の顔を覚えているなんて、店員としてのレベルも高い。
「今日はベイクドチーズケーキにしようかな?」
「この前お勧めしたやつですね?絶対に気に入ると思います!」
なんだか店員さん…嬉しそう。アスカと話している顔が輝いてる。
「どうぞ…おまけ…しておきました」
「え?いいよ」
「いいんです!…あの、明日も来てくださいね!次の方どうぞ」
ジェラートが大盛りになったカップを手に、アスカは目が点になっている。
「顔見知り?」
「知らない子だよ」
「すごい大盛りだね?」
「私モテるから」
アスカがカップに入ったアイスを、自慢気に掲げて見せたから、吹き出してしまった。
「相手…女の子じゃん」
「女にモテるの。あ、シュウも呼んだから。座って待ってようか?」
2人でテラス席に座って、シュウを待つことにした。ジェラートはすごく美味しくて、いいカフェだね。なんて談笑していると、アスカにシュウから連絡が入った。
「シュウからだけど…テルも一緒に来るみたい」
ユリアは思わずむせてしまった。
「え…?なんで」
「シュウが誘ったんじゃない?私が誘っても来なかったのにね?」
「まぁ、シュウに誘われたら私だって断れないよ」
「確かに」
あの潤んだ瞳で「一緒に行こう?」なんて言われたら、誰だって断らないよね。何て話をして笑いあった。
「二人ともお待たせ」
遅れて来た二人の距離が近い。テルが椅子を引いてシュウを座らせる。
(そーゆーところにみんな騙されるんだろうな)
とテルを見たけど、口には出さないけれど。思うだけ。
「シュウは何がいい?」
テルが聞いている。私には絶対に聞かない。むしろ、買わせに走らせるくせに。
(なんだこいつ)
アイスを食べながら睨んだ。…バレないように。後で何言われるか分からないから。
シュウは「私が…買ってくるよ?」と立ち上がるけど、テルはもう一度座るように促している。
「いいよシュウはユリアをかまってやって」
シュウの頭をポンと叩くと、カウンターへ向かった。
「…何アイツ…あからさま」
「何?ユリア、拗ねてるの?」
「拗ねてないよ!アスカ、変なこと言わないで」
アスカがごめんと大声で笑っている。本当に違うのに。私はいつもテルのパシリなのに。
「アスカの笑い声すごい響いてるけど?」
カフェラテと、ジェラートを手にテルが戻ってきた。訝し気に聞くテルに、ユリアは何でもないっ!と首を激しく振って答えた。
テルは、まだ笑いをこらえているアスカを尻目にシュウにジェラートを手渡した。
シュウがありがとうと受け取ると、今度はアスカに声をかけている。
「なぁ、あの店員知ってるか?」
テルはカウンターをこっそり指差した。アスカがその方向を見ると、さっきの可愛い子がこっちを見てる。表情がさっきと違って険しい気がする。
「最近入った子だと思うけど…?」
アスカの言葉に「そうか」と、つぶやいてシュウの隣に座った。
「あの子がどうしたの?」
「俺がここに着いた時から殺意むけてる。入った時はずっとアスカをみてたから。知り合いかと思ってた」
「やっぱり…」
さっき思ったことは勘違いなんかじゃ無かった。アスカを見ると、またふざけて困った表情を作っている。
「私、女の子にモテるから」
「あいつ、多分男だぞ?」
「「…え?」」
思わず声を合わせて驚いた。爆弾発言をした後、しれっとテルはカフェラテを一気に飲み干した。
レイさんと同じクラスだったことや、編入初日にテルが呼び出しくらってたことより、あの子が男だと言うことが今日1番驚いてしまった。
なんて考えながらジェラートを食べた。こうして、長い1日がようやく終わった。




