3.気になる存在
ユリアは教室を出てすぐにレイの姿を見つけたけれど、声をかける事に踏ん切りが付かなかった。そうこうしてるうちに、レイは防魔室へと入っていった。
何となくこっそりと中を覗くと、レイはあの日と同じように窓の外を眺めている。
編入試験の時と同じように、後ろから肩をトンと叩いて声をかけた。今度は手を思いっきり掴まれることはなく、レイはゆっくりと振り返り微笑んだ。
「驚いた?」
レイは首を横に振り「全然」と笑って言った。私の知ってるレイはこっちだ。
「ユリアが付いてきてるのに気付いてたから。…どうした?」
レイはそばにある椅子に腰を下ろして、ユリアのことを見つめた。優しい眼差しと、声にこっちが本当のレイなんじゃ無いかな?とか思った。
「バレてたんだ…その…編入試験の時はありがとうって言いたくて…後付けて来た…!」
今気づいたけれど、私の行動ストーカーっぽい。急に恥ずかしくなりぎこちなくお礼をした。
「後付けて、ごめんなさい!っそれじゃあ…」
戻ろうとすると、レイはユリアの手を引いた。まるで行かないでと言っているような、そんな少し悲しそうな目で見つめられた。
「編入できて良かった。…じゃあ、これお祝い」
そう言うと、手に持っていた苺のチョコレート菓子を差し出した。編入試験の時と同じやつだけど、今度は箱ごと。
「食べようと思ってたけどあげる。好きなヤツ…だろ?」
覚えててくれたんだ…と、嬉しいような…恥ずかしいような。
(子供っぽいって思われてる?)
レイは切れ長の目で、じっと見つめてくる。その視線の意味がよく分からなくてただただ照れてしまう。
「い…いいの?」
ユリアが戸惑いながらもお礼を言い受け取った。レイも好きなのかな?なんて思ってみたり。
隣の椅子に座ると早速箱を開けて一粒頬張った。やっぱり甘酸っぱくて美味しい…。
(視線が…)
レイは食べている横顔をじっと見つめてくる。
「そのピアス…」
「えっ…!?」
レイの手がそっと耳に触れた。驚いて顔を上げると目が合った。何故か優しく、愛おしく見つめる真紅の瞳から目が逸らせない…。思わず持っていた箱を膝の上に落としてしまった。パラパラと音を立てて床にチョコが転がる。
「あ!…ごめんなさいっ…」
レイは散らばったチョコを拾いあげて笑った。
「悪い。いきなり触った」
ユリアは顔を赤らめながら、一緒に拾った。照れて真っ赤になった顔を誤魔化す為に、話題を変えることにした。
「ピアス!古い物なんだけど、宝物なんです」
「似合ってる」
それだけ言うと優しい笑みを浮かべて、お菓子の箱をもう一度ユリアに手渡した。そんなこと言われると照れてしまう。
(…もう、味が分からない)
照れ隠しで一粒食べたが、全く味がしなかった。
***
テルが救護室にシュウを連れて行くと、血塗れの制服を見た救護師は青ざめた。すぐにシュウの傷を確認すると、慌しく指示を出し始めた。
「そのベッドに寝かせて!出血が多過ぎるわ」
「大丈夫です。そんな…大したことない…」
「シュウは口答えしないの!血圧計と、輸血準備お願い」
看護師に指示を出しながら、救護師は治癒魔法を放っている。救護室は一気にばたついた。テルは椅子に座って、唖然としながらその様子を見守るしか出来なかった。
「…シュウはいつもこうなのか?」
隣に座るアスカは全く慌ててはいない。声をかけると、クスッと笑った。
「そうなの。危なっかしいでしょ?」
「本当に」
シュウは守りたくなる清楚可憐な見た目とは違い、さっきの自分を犠牲にしてでも誰かを守り、強いヤツに立ち向かう。…何というか、ギャップがすごかった。
(ライオンに立ち向かう、うさぎみたいで可愛かった。言えないけど…)
思い出して笑ってしまった。そんなテルに、アスカはため息を吐いて、笑いごとじゃ無いから。とうんざりしたように言って見せた。そうは言っても、仲が良いんだろう。そこもシュウのいい所だと言って笑っている。
「さっきは…ありがと」
アスカが咳払いをしてお礼を言って来た。テルはすぐにピンと来なかった。少し間を空けてやっと思い出した。
「ああ!あんな奴にやり捨てされたのか?」
アスカはシッと人差し指をくちびるにつけた。
「もう2年も前だけどね。性格は最低だけど、顔はいいじゃん?」
「へー、趣味悪いんだな」
「うるさいなあ。見る目が無かっただけ。」
「あんたなら、もっと良いやついっぱいいそうだけどな」
アスカはグラマラスで、キレイなタイプだし、選び放題な気もするけど。アスカはため息をついた。
「そう言うこと、サラっと言えるんだ…モテるでしょ?」
「モテるよ」
笑いながら言うテルを見て、アスカはまたため息をついた。
「二人とも、シュウはもう少し休めば大丈夫だから、戻っていいわよ」
救護師はそう言ってふたりを教室へ戻した。
「午後の授業って何だっけ?」
「午後は実技」
「じゃあ、授業が終わったら、迎えに来ます」
テルとアスカはおじぎをして救護室を後にした。




