1.初登校
いつもの朝だけれどいつもとは違う。部屋には昨日貰った花や記念品が乱雑に置かれていた。片付ける暇もなく、今日からは新しい学校生活が始まる。少し寂しい気持ちと…新しい学校への不安を胸に、ベッドの上で背伸びをして掛けてある制服を手にした。
新しい制服は白のニットベストにネクタイは紺色。スカートは膝上15センチ位の紺色。ブレザーは白で前の学校より可愛くて嬉しい。
「もういくぞ。電車の時間だ」
玄関の方でテルが叫んでる。気付いたらもう家を出る時間になっていた。アクセサリーボックスの中からお気に入りなピアスを選んだ。
「あ、待って!すぐ行く!」
小花のピアスを付けるとすぐに玄関を出た。すでに歩き始めたテルの背中に、待ってと声をかけると振り返った。
「また、そのピアスかよ?何年使ってるんだよ」
振り返った瞬間に、そんな嫌味を言って来る。誰かにもらったはずだけど、良く思い出せない。気が付いたらお気に入りで、自分の大切な物になっていた。
「…お気に入りなんだもん」
「新しいピアスをプレゼントしてもらえるような、彼氏もいないしな?」
「もう、うるさいな。自分で買うし!他のもあるし!」
「ハイハイ。遅れるから、走るぞ?」
いつものように笑いながら小馬鹿にして、勝手に走って行ってしまった。
(…私が緊張してたから、そうやって揶揄ってきたことも)
なんだかんだ優しいな。と思いつつ駅まで走った。
***
ガーディアン養成校のAクラスでは、転校生の話しで持ちきりだった。
「ねえ、今日転校してくる兄妹のこと知ってる?」
校内いちの情報通ティアがシュウとアスカに話しかけてきた。
「知らないわよ、興味ないし」
アスカはしれっと答えると、軽く流してスマホの画面を見ている。シュウは何かレポートをまとめていたけれど、手を止めてティアに笑いかけた。
「一緒に過ごす仲間だしね」
当たり障りの無い言葉に、ティアの顔が華やいだ。話を聞いてほしかったようで、シュウの手を握り締めると一気に捲し立てた。
「だよね??気になるよねっ?」
「えっ!?あ…」
シュウの困惑している表情を見て、アスカがため息をついた。相手にするから、と呟いて持っていたスマホを置いた。
「それがさっ男の方はガリ勉みたい。うちの筆記すごく難しいじゃん?それ満点て…ヤバくない?」
「へー、それよりシュウの手…離してくれない?今、実習のレポート纏めてる所だから」
アスカがティアの手を軽く叩くと、ティアはごめんと謝りやっと手を離した。
「ガリ勉でさ"将来の夢は優秀な国軍になることです!"みたいな奴だよ…。そいつが入るせいで、セイヤとカムイがBクラスに落ちたんだよ!…イケメンだったのに」
ティアは、窓の外を遠い目で見つめた。
「あのさ?アイツらが落ちたのは実技でトップだったけど、素行悪過ぎたからでしょ?シュウにもかなり執着してたし」
アスカはティアを睨みつけて話した。シュウも苦笑いをしているけれど、アスカの言うことに、粗方同意しているようだ。ティアだけは納得してない顔をしている。
「華がなくなったよ。あ、でもレイ君がいるね。アスカのお兄ちゃん!見た目はイイけど怖いし誰かと話してる所、見たことないけど」
「それは、誉めてるようで貶してるんじゃ…」
シュウは表情を硬くして、ティアを睨んでいる。
「まぁ、確かに誰とも話さないしね。1匹オオカミ気取ってるんだよ…ダサっ」
アスカも一緒になって言ったことに、シュウはムッとしている。
「…アスカも、そんな風に言わないで。レイ君、小さな時から色々あったの知ってるでしょう?」
「ごめん…そうだね。本当シュウは優しいわ」
シュウとアスカは、窓際の席に座り外を眺めているレイに視線を移した。こんな話しをされていることなんて知らないレイは、1人で窓の外を眺めている。
「席について。ホームルーム始めるわよ」
そうこう話しているうちに始業のチャイムがなり、イリーナ教官が入ってきた。
***
教室の前でユリアとテルは待機していた。緊張する…とユリアが言うと、何が?とテルが答えた。
「みんな知ってると思うけど、今日から編入してくる2人を紹介します」
教室の中から入って?とイリーナ教官の声がする。テルが先に行くと言って教室に入った。
一瞬静まり返ってから教室がざわついた。
「テル君から自己紹介ね」
女の子達の視線が一斉にテルに向いた。
「テル・フォレストです。よろしくお願いします」
ペコっと頭を下げると何故か拍手が巻きおこった。なんだこの状況はと、静観して見てしまう。イリーナ教官も、呆れて手を叩いた。
「静かに!次どうぞ」
「妹のユリア・フォレストです。よろしくお願いします」
もはや、誰も聞いてない…。全員テルに目が向いている。教室を見渡していると、隣でテルがあっと声をあげた。
「シュウ…さん?」
テルは1番後ろの席のシュウを見つけて思わず呟いた。注目されてる状態で。
(バカだ)
いきなりイケメン転校生が、女の子の名前を呼ぶからユリアが予感した通り、今度はシュウにクラス中の視線が注がれた。テルもやばいと思って口を塞いでいる。
(遅いよ…)
ユリアはもう一度教室を見渡すと、今度はもう一度会いたいと思っていた、あの横顔を見つけてしまった。
「レイさん!」
静まり返った教室にユリアの声が響いた。レイは素知らぬ顔で窓の外を見ていた。
「じゃあ、ユリアちゃんは、シュウの隣の席。テルくんは、レイの隣に座って」
テルとユリアはそれぞれの席についた。
「2人に色々教えてあげてね?」
それだけ言うと、イリーナ教官は足早に教室を去った。その瞬間から女の子達がテルのもとへ駆け寄っていく。ユリアは、自分の席で苦笑いで見見守るしかなかった。
「始めまして、ユリアちゃん。私はアスカ。アスカって呼んでね?レイの妹なの。宜しくね」
前の席の長身で鼻筋の通った妖艶な美女が、いきなり話しかけてきてビックリした。レイの妹と言う通り、薄い口元が似ている。
「は、初めまして。編入試験の時は、レイさんにお世話になりました。私と同じように双子だったんですね!」
「んー、ちょっと違うかな?半年違いの妹だよ」
そうだった。悪魔族は他の種族と違って妊娠期間が短いんだ。だからこういうこともよくある事だって、聞いたことがあった。
(今までは一般だったから、悪魔族の子いたことなかったし…)
「そう言えば、編入試験の時レイと何があったの?」
アスカが不思議そうに聞いてきた事が不思議だった。
「レイさんには迷子になってたの助けてもらったんです」
アスカは驚いて隣にいたシュウと目を見合わせた。
「後で、レイさんにもお礼するね!それよりシュウさん、あの時はテルを治してくれてありがとうございました」
「シュウでいいよ?こちらこそ、テル君にお礼しないとだね、アスカ?」
「そうだね…でも、今は辞めとこうか?」
アスカが指差した方を見ると、テルは群がられて身動きが取れない状態になっている。シュウも苦笑いしながらそうだねと呟いた。
「次は魔法学の授業だし、部屋変わるから、一緒にいこうか?」
シアスカはユリアの手を引いた。待って!と言いながら慌てて教科書をまとめて持った。
テルの隣では、レイが移動の準備をしている。
「待てって!お前俺のこと任せるって…」レイは素知らぬ顔で席を立った。
「待てよ!」
テルも慌てて行こうと席を立った。
「そんなの私が教えるよ~」
1番派手な女が腕を掴んだ。テルはまた今度と言いながら、手を振り払ってレイを追いかけてる。
(モテるって大変だな…)
若干面白おかしくテルを見ると、アスカ達と教室を出た。




