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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
12.襲撃

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19.さよなら(レイ)

 階段を駆け上がると、火の玉のようなイーターがそこら中に溢れていた。それを見て愕然とした。


(嘘だろ…)


 この量を単体攻撃に特化してるユリアが一人で引き受けていたのだとしたら…。完全に戦力不足だ。


(クソっ!!)


 足を止めずユリアが戦っているだろう部屋に向かう。最後にイヤカフの魔力を感じた場所は目の前だ。

 立ちはだかるかのように、急いでいる俺の目の前にイーターが集まってくる。


(…一掃してやる)


 このイーターは人型と同じ様に意思をもつ。人語を操ることはしないけれど、意思疎通を行い連携攻撃を繰り広げる。スピードも速くて頑丈だとゼルから聞いている。


 相手が攻撃する前に、最初から上級の炎魔法で燃やし尽くす。

 燃え尽きる煙を駆け抜けて、目の前の教室の扉を開いた。


「…っユリア!」


 大声で叫んで扉を開けた瞬間、目にした光景に言葉を失った。


 目に入ったのは、イーターに宙吊りにされたユリアだった。

 両腕は力なくぶら下がり、身体中傷だらけ。ユリアの足元には血溜まりが出来ている。


 宙吊りにしているイーターは、俺に視線を向けるとため息混じりでつぶやいた。


「あぁ…今度は悪魔族か…」


 イーターが呟いた時、微かにユリアの目蓋が動いた。


(生きてる…!)


 そう言っていい状況かどうかは分からないけれど、まだ()()()()()()()


 イーターの手からユリアを取り戻すことができたなら、助けることが出来る。


(ただ…時間はない)


 イーターに向かって手をかざした瞬間、目の前のイーターから火の玉が何十匹も飛び出して来た。


(そういうことか…)


 この人型はあの火の玉のイーターの集合体だ。全てが本体であって本体じゃない。

 

 つまりは全てを倒さないと、永遠にコイツを倒すことはできないと言うことだ。


(…それなら全てを灰にすればいいだけだ)


 火の玉のようなイーターは最大級の炎魔法一撃で燃え尽きる。一体一体は俺の敵じゃない。ただ、スピードと連携攻撃が厄介だ。


 素早く四方八方から飛びかかってくるから、防御の為に魔法を放つスピードを上げる。


 広範囲に上級魔法を放つ場合、魔力を溜める時間がかかる。その僅かな時間すら与えられない。

 こんなことじゃ、いつまで経ってもユリアを助けられない…。


ーーと…焦ったその時だった。

 

「…っ…!!」


 目の前に、大口を開けたイーターが見えた。ユリアに気を取られてた。火の玉のイーターが炎をすり抜けたことに気付けなかった。

 剥き出しの牙が左目に突き刺さる。ほぼ同時に、魔法で焼き尽くした。


 攻撃か直撃した左目から、血が吹き出した。視界が血でぼやけ、攻撃対象を見失った。

 左目の視界はなくなり、死角が増えてしまった。


 もちろん、そんなことは関係なく大量のイーターは襲ってくる。ユリアのことも考えると、これ以上時間はかけられない。

 即座に戦法を変える。それぞれの手から別の魔法を放つ、両手撃ちに変更する。

 右手から炎を放ちながら、左手で風の魔法を放つ。

 風で勢いを増した上級魔法の炎の竜巻を作り出し、周りの物を燃やし尽くす。


(これならまだ、魔力消費を抑えられる)


 ユリアを巻き込まないように細心の注意を払って炎の渦を操る。

 広範囲に及ぶ炎の渦は大量のイーターを次々と焼き尽くし、数を減らした。


(…というより、イーターの放出をやめたのか?)

 

「へー…そんなこともできるんだ?しかも魔力も高いな。すごいじゃん」


 人型のイーターは、蛇のような目をギラつかせながら、俺に向かって余裕の笑みを浮かべている。


「……いいからユリアを離せよっ!!」


 手負いの俺と余裕のイーター。部が悪すぎることも分かっている。

 それでも必死で喰らいつくのは、ユリアと再会できた数ヶ月。夢のような時間を過ごせたからだ。


「…?ああこれ?いいよ」


 イーターはニヤリと笑いながら、ユリアを掴んでいる腕を高く上げた。


「受け取れよ?」


(しま…っ!)


 そう言うと勢いよくユリアを投げつけてきた。

 魔法を放つ間なんてなかった。俺が悪魔族だと言うことを理解して、イーターは全力でユリアを投げ付ける。

 その衝撃で、ユリアごと背後の壁に身体を打ち付けた。

 鈍い音と共に身体は壁にめり込む。肋骨が何本か折れた。

 息を吸うと咳込んで吐血する。それでも腕の中のユリアは離さない。


 やっと、ユリアを取り戻すことができたのだから。


 腕の中のユリアの呼吸は弱々しく、喉も潰れてしまっている。直ぐにでも治療をしないと危険な状態だ。


「よく耐えたよ!すごいすごい!」


 アハハと笑いながら拍手をしながら、近づいてくるイーターを睨みつけた。


 今まで戦ってきたイーターとは段違いに強いことも分かっている。

 それでもユリアを救うには、コイツを倒すしかないと手を着いた。

 その瞬間腕に激痛が走り、痛みに顔が歪んだ。


(くそ…腕も折れてる)

 

「知ってるか?悪魔族はイーターには向かない。イーターになったとしても魔力を作り出せないからな」


 痛みで朦朧とする俺の目の前で立ち止まったイーターは、そんなことを言い始めた。


「だから、お前はいらないんだよね。死体にする理由がないから。つまり、お前ら食料にしかならない」


 それだけ言うと俺の顔を覗き込み、目の前に手を掲げた。


「悪魔族はこうやって手を掲げて魔法を放つんだろ?」


 何をする気か分からないが、こんな至近距離で攻撃を食らったら完全に死ぬ。


 瞬時に咄手をかざし、ファイヤーウォールを放った。


 イーターの腕は攻撃する直前で灰になり、目の前に炭になって落ちた。

 でも、分かってる。こんなの一時凌ぎにもならないことを…。

 炎の壁で見えないけど、燃え尽きたはずの腕はもうすでに蘇っているだろう。

 すかさず自分たちの周りをファイヤウォールで囲った。


 本の少しだけ…二人の時間ができた。


 ユリアのことを抱きしめたいのを必死で堪えて頬を撫でた。意識は無いし、顎も潰されて、足も腕も折られてる。


 もう一刻の猶予もない。


「これ、結構魔力を食う魔法だろ?いつまで持つかな?」


 炎の壁を隔ててレギオンの馬鹿笑いが聞こえる。

 言われなくたって、魔力が持たないことは、自分が1番理解している。


「お前さ…もう死にそうだろ?」


 イーターの言う通り。折れた肋骨は肺に刺さっている。息をする度に喀血するし身体中に激痛が走る。


 避難所のファイアウォールを持続させているせいで魔力の消費も激しい。


「待ってやってもいいよ?どうせ後数分だろ?」


 それもイーターの言う通りだ。今の状態だと2人とも死ぬ。ユリアだけは何としても守りたい。


(とっくに覚悟はできている)


 最終手段を使う。

 

 魔力は魔法として放出するより、体内に籠らせた方が強力になる。

 この魔法は炎属性の悪魔族だけが使える魔法…『自爆』だ。


(今まで使ったやつは見たことないけど使うと死ぬから)


 それでもユリアを守れるなら死んでもいいと思った。


 俺が死んだら避難所のファイアウォールは消える。そしたら異変に気付いたアスカがきっと天使族をよこすだろう。


 腕の中のユリアをそっと抱きしめた。きっとこれが最後だから。


(もう十分だ…)


 離れ離れになった日からずっと願ってた。


ー神様…もう一度、ユリアに会わせてください。記憶を消す前のユリアにー


 神様なんて信じていない。都合のいい時だけ神頼みをする。


 そんな自分をバカだなと思っていた。


 全てを解っていたからこそ、その願いは叶わないと思っていた。


 でもそれは、ユリアを守る為には仕方がない事だってことも理解していた。


(でも…願いは叶ったから…)


 別れたあの日と変わらないユリアにまた会えたこ。

 そして、俺のことをユリアが好きだと言ってくれた。


 だからもう十分だ。そう思えた。


 最後にもう一度声が聞きたかったけど、それは叶わない願いだとそっと頬に触れた。

 ユリアの頬にはいつもの血色はない。瞳も閉じたままだ。


これが正真正銘の最後だから。


 血で汚れたユリアの頬を拭うと、唇を合わせた。

 照れて恥ずかしそうに、見上げてくる顔が好きだった。もう見ることはできないけれど。


 最後の言葉はもう届かないかもしれない。それでもいい。まだ伝えられてなかった。


「……ごめん……愛してる。」


 そうユリアの耳元でつぶやくと、静かにユリアを降ろした。


 時間はない。立ち上がり目の前の炎の壁を解いた。


「お別れは済んだのか?」


「黙って見てたのか…悪趣味だな」


「悪趣味?優しさだよ。安心しろよ女の方はイーターにしてやるから」


 手を掲げたレギオンから、またしても火の玉が飛び出てくる。


 勢いよく襲いかかってくるイーターを焼き払う。

 いつもならなんてことない魔法の連発が今はキツイ。右目も霞む。口からは大量の血が滴り落ちる。


(そんなこと今はどうでもいい)


 飛び出してきた火の玉イーターは全て焼き尽くした。

 そして、本体のイーターに向かって手を大きく広げる。


「…食えるもんなら食ってみろよ?」


 俺の挑発に、イーターら金色の目をさらにぎらつかせた。


「はぁ?ずいぶん物分かりがいいんだな?」


 額からは血か汗か分からないものが流れてきた。それでも、イーターの動きから目は逸らさない。

 近づいてくる


「そういう奴は嫌いじゃない」

 

 ニヤリと笑いながらイーターが俺の身体に触れる。その瞬間、本体の背中に腕を回した。

 最後にもう一度ユリアを見つめると、身体の熱を上げる。


「…っ…!」


 内側から、沸々と身体を焼く炎が上がる。


  ーさよなら、ユリアー

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