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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
12.襲撃

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18.避難所(アスカ/ゼル)

またまた場面が変わります!

「ミリヤ…ごめん。すぐに避難所に連れて行くから」


 レイがユリアの元へ向かった後で、立ち上がった。まだ頭ははっきりしないけど、魔力は魔法はほんの少し回復してる。


 ミリヤは私を守っていたせいで、聖力は使い果たしている。

 これ以上無理させるわけにはいかない。


「…アスカ…ごめん。ゼル君…治療…全然出来なかった…」


 そんなことを言ったら私もだ。一番戦い慣れているはずだったのに。結局は魔力切れを起こして倒れてしまったんだから。


「私の方こそ。急ごう、ミリヤ」


 足元もふらつくミリヤを支えてスクーターに乗せた。


(何も状況は分からない…)


 ゼルのことも不安だけど、ユリアも心配だ。それに、シュウの状況だって全く分からない。

 スクーターを飛ばして避難所に向かいながら、レイの言葉を思い出していた。

 モンスターを操っている、姿の見えない敵と、お前なら見つけられると言う言葉。

 姿が見えないだけなら、耳のいいユリアでも見つけられたはず。


(ユリアの物理攻撃が効かない場所に居たってこと?)


 それとも、騒音がうるさくて場所を特定出来なかっただけ?

 どっちにしろ、レイは私に倒せと指示をした。


(だとしたら私が倒すしかないか。このままじゃ終われないもんね?)



***



 避難所周辺には火柱上がっている。


 レイが作った炎の壁は、地上空中全方位のモンスターを遠ざけていた。


 けれど、炎の壁の外側にはモンスターが溢れている。


(やっぱり…このモンスター達、おかしい)

 意思を持たないはずのモンスターは、まるで炎の壁が消えることを待っているように見える。


 不気味な光景だ。あえてこの場から離れず、避難所周辺に留まっているのだから。


 そんなモンスターを、援軍として駆けつけてくれたガーディアンクラスのみんなが駆除している。


 この戦場の中に動けないミリヤを連れて行くことは出来ない。


(とりあえずミリヤを安全な場所に運ばないと…)


 あたりを見渡していると、その中に見慣れた顔を見つけた。


「あっ!!ロック!!」


「アスカと…ミリヤ!!」


 声をかけるとすぐにロックは駆け寄ってくれた。


「見つけたのがロックでよかった!ミリヤを任せていい?私のせいで聖力切れを起こしてて…」


「分かった。ミリヤは安全な場所に連れて行く」


 ミリヤはスクーターからロックの胸に崩れ落ちた。

 きっと、ロックの顔を見て安心したんだろう。それに、ロックならきっとミリヤを命に変えても守るだろうし。


(そーゆー関係なのは、私しか知らないけどね)


「さてと…」


 私が次にやることは、この音を止めることだ。


 地獄のような場所と言っても過言じゃない。炎の熱気でみんなの動きが鈍ってる。

 そんな中なのに。たった一人だけ変わらずモンスターを倒しまくっている人影を見つけた。


「ゼルっ!!」


「アスカ…さん?」


 目を丸くして、私のことを見つめるゼルに、普段の余裕はなくなっていた。

 口の端から血が流れてるし顔色だって悪い。

 それなのに「無事で良かった」と私に笑顔を見せた。無理させているのが私なら、声をかけない方が良かったかもしれない。


(…悔しい。ゼルはこんなになっても戦ってるのに)


「ゼルは休んでて。モンスターを呼び寄せている奴は、私が見つけだすから」

 

 そう…声をかけた途端、珍しくゼルが腰を下ろした。


「…すみません。僕じゃ見つけられませんでした」


 それだけ言うと、「疲れた…」と呟いた。いつも笑って「大丈夫」というゼルの弱音を初めて聞いた気がする。


「……レイさん、僕が今夜だけで何匹のモンスターを倒したと思ってるんだろ。もっと体調よければ、できたかもしれないのに」


(不貞腐れてる)


 私の中のゼルはどんな強い相手でも物怖じせずに向かって行くし、気遣いも出来て、自分の立ち回りも分かってる。大人びてて…可愛気の無いない男の子だった。

 でも、今目の前にいるのは不貞腐れて投げやりになっている、年相応の男の子だ。


(ゼルも拗ねたりするんだ)


 こんな時なのに。愛おしく思えてしまった。


「うん。よく頑張ったね?」


 小さい子にするように、ゼルの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「えっ…?」


 いきなりのことに、驚いて顔をあげるゼルを見て何だか恥ずかしくなってしまった。


「あ…。休んでて撤回!!やっぱり手伝って」


 そういうと、わざとらしく空を見上げた。


(どの位の範囲に放とうかな…?)


 見えない敵だと聞いた時から、算段をたてていた。


(見えない敵なら炙り出す)


 相手にはこっちの様子も見えていて、攻撃を避けてる。尚且つレイの炎には当たらない場所。


(……と言うことは……)


 上空を飛んでいるとしか考えられない。


 敵の姿は見えないし、音も聞こえない。

 それならこちらも、見えない電気の網を張る。

 触れても静電気位の威力。それを数百メートルに広げる。範囲を広げた分威力は弱くなるけれどらそれでいい。

 強い電流だと無関係な人も巻き添えにしてしまうから。


(私ならその魔力の網にかかったイーターを見つけられる)


 イーターがかかったら、その瞬間そいつを魔法で叩き落とす。

 地上に落とせばこっちにはゼルがいる。


「アスカさん…魔力は?回復したんですか?」


「大丈夫。それよりゼルあと少しだけ頑張れる?」


「何するんですか?」


「言ったでしょう?モンスターを操ってるヤツを見つけ出すって」


 手を頭上に掲げるとイメージ通りに、

電撃を放った。


「透明なんじゃなくてさ、擬態してるだけだと思うの。多分空中にいるから、地上に落ちて来た所で止めを刺して?」


「…そういうことですか。分かりました」


 ゼルは膝に手を着いて立ち上がると、口の端から流れている血を拭った。

 

「ありがとう。上手く一発で仕留めることができたら、ご褒美あげるから…」


 満身創痍のゼルの緊張を解くために、冗談めいて言った言葉だった。


「…絶対にご褒美くださいね?」


 その言葉にゼルが真面目に返してきたので、今更ながら『しまった』と、思ったり。


(後の祭りだけど…)


 咳払いをしてイーターの気配を辿った。


 電気の網にかかった者の流れを読む。モンスター…人…電気の流れ方で分かる。


(見つけた……)


 上空にモンスターでも人でも無い気配を感じ取った。私が悟ったとバレないようにしなきゃいけない。

 絶対に逃がさない。私の魔力も残りわずか。

 イーターを撃ち落とせる程の魔法は、1度しか放てない。

 強がってはみたけれど、私も無理矢理動いているようなもの。2回目は無い。


「ゼル…後は任せたから」


「…分かりました」


 静かに感覚を研ぎ澄ます。ゼルはグローブをはめ直した。


 タイミングを合わせる。遠くに落としてしまったら、ゼルが狙えない。真上に来たら魔法を放つ。


ーー今だ!!ーー


 瞬時に手をかざすと、最上級の雷魔法を放った。レイから貰った魔力は全部使う。体から力が抜ける感覚に、ひざから崩れ落ちた。



***


「見つけた!!」


 落ちてくるイーターを捉えた。そこに向かって飛びかかった。

 体の色を白黒させながら落ちてくるイーターの首を捉えて宙吊りにした。

 背中にはトンボのような大きな羽が生えているが体は細く貧弱だった。

所々焦げ付いているが、核はまだ残っているのか、手足をバタつかせて抵抗している。


「ギャッ!!」


 アスカさんの言っていた通り、擬態していただけだ。

 姿が見えてしまえばこんな奴雑魚だ。多分、人語を操ることもできない下級なイーター。

 それに加えて雷をくらって弱りきっている。

 普通のイーターと違う所といえば…。腹の辺りにスピーカーが埋まっているところだ。

 完全に体と一体化している。イーターも僕と同じで痛覚がないから、それもできてしまう。

 アスカさんの電撃でスピーカーが壊れたのか、集まってきたモンスターは散り散りになっていく。


「…この音流してれば…簡単に人を食えるって…言われたのにっ」


(あ…喋るんだ)


 イーターが口から泡を吹きながら最後の抵抗とばかりに、腕に爪を立てた。

 鋭い爪が腕に食い込み血が流れる。


「キサマだけでも…食ってやる!」


「できないだろ?そんなこと」


 さっさととどめを刺す。じゃないとイーターは回復してしまうから。

 心臓部に目掛けて、渾身の力を込めて拳を振り抜いた。

 心臓部には大きな穴が空き、体液が飛び散った。

 核の無くなった身体は、砂のように崩れて宙を舞う。


(…ここは…もう…いい…かな?)


「ゼルっ…!」


 真っ青な顔をしてアスカさんが近づいて来た。


(僕なんかに気を使ってくれて…アスカさん、魔力切れで立っているのがやっとなのに…)


 そう思って足を前に踏み出そうとするが全く力が入らない。あれ…?と思う間も無く視界が暗くなる。


(…まず……死ぬかも…)


 とっくに限界を越えてたみたい。確かに血は止まらなかったし、言われてみれば、手足は冷たくなってた気がする。


「ゼルっ!?」


 僕を呼ぶ声が遠くで響く。視界が無くなる前に見えたのは、アスカさんの不安そうな表情で…。

 それでも、僕の最後に見た風景がそれで良かったと思ってしまった。

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